この高校に入学した年、放送部には多くの部員が所属していた。半数以上は部活を掛け持ちしている人だったが、三年生のほとんどはアナウンサーや声優を目指す人たちだった。三年生の先輩たちは全国高校放送コンテストや地域の朗読コンテストなどに参加して、素晴らしい成績をおさめていた。だから、この高校が数多くのアナウンサーや声優を輩出しているというのも納得したのだった。
ぼくが入部した時、放送部の活動は活発で、毎日三年生を中心になって朝、昼、放課後に放送をしていた。ぼくや佳奈は、そういった活動の中で、番組の構成や脚本の書き方を学んだ。マイクの前に立つ先輩方の姿は、眩しいほどに輝いて見えた。
実際に放送を任されたことはなかったが、先輩方が放送する姿を後ろからじっとみるのが好きだった。みんなイキイキとしていて、とても楽しそうに放送していたからだ。声に込められた想いが、マイクを通して校内に響いていく。その瞬間がたまらなく好きだった。
ぼくの構成した番組が採用された時には天にも昇るほど嬉しかった。それを脚本にして、先輩が読む。それだけで幸せだった。自分の書いた言葉が、誰かの声で命を吹き込まれる。その感動は今でも忘れられない。
しかし、三年生が引退すると、それまで通りの放送部の活動ができなくなってしまった。二年生にはアナウンサーや声優を目指す人が誰もおらず、全員が他の部活と掛け持ちしていた。ぼくと佳奈以外の一年生も、やはり掛け持ち部員だった。掛け持ち部員たちは、三年生が引退すると同時に放送部を辞めていった。
そして残ったのが、慶と佳奈とぼくの三人。慶はもともと美術部の活動に重きを置いていたのだが、他の二年の部員が辞めてしまい、仕方なく部長に就任した。そして副部長には、当時やる気に満ちていた佳奈が就任した。
ぼくはそんな一年の時の楽しかった日々を思い出すと目頭が熱くなってきた。あのころは、毎日が輝いて見えていた。放送部という居場所があって、同じ夢を持つ仲間がいて――。
「またみんなで放送したいなぁ……」
やっぱり一人は辛い。でも今は、一人じゃない。蒼空がいる。
蒼空の温かい笑顔が脳裏に浮かんだ。「君の声、素敵だね」といってくれた時の、あの優しい眼差し。ぼくの声を褒めてくれた最初の人。ぼくの声を、ぼく自身を受け入れてくれた人。
「……蒼空、ぼくと一緒に、文化祭、やってくれるかな……」
今は、蒼空と一緒にやりたい。二人でなら、きっと何かできるはずだ。ぼくの心の中で小さな灯火がゆらめいている。雨に濡れた窓ガラスの向こう、雲間から差し込む夕日が、ほんの少しだけ放送室を照らしていた。
それは、希望という名の小さな光だった。
ぼくが入部した時、放送部の活動は活発で、毎日三年生を中心になって朝、昼、放課後に放送をしていた。ぼくや佳奈は、そういった活動の中で、番組の構成や脚本の書き方を学んだ。マイクの前に立つ先輩方の姿は、眩しいほどに輝いて見えた。
実際に放送を任されたことはなかったが、先輩方が放送する姿を後ろからじっとみるのが好きだった。みんなイキイキとしていて、とても楽しそうに放送していたからだ。声に込められた想いが、マイクを通して校内に響いていく。その瞬間がたまらなく好きだった。
ぼくの構成した番組が採用された時には天にも昇るほど嬉しかった。それを脚本にして、先輩が読む。それだけで幸せだった。自分の書いた言葉が、誰かの声で命を吹き込まれる。その感動は今でも忘れられない。
しかし、三年生が引退すると、それまで通りの放送部の活動ができなくなってしまった。二年生にはアナウンサーや声優を目指す人が誰もおらず、全員が他の部活と掛け持ちしていた。ぼくと佳奈以外の一年生も、やはり掛け持ち部員だった。掛け持ち部員たちは、三年生が引退すると同時に放送部を辞めていった。
そして残ったのが、慶と佳奈とぼくの三人。慶はもともと美術部の活動に重きを置いていたのだが、他の二年の部員が辞めてしまい、仕方なく部長に就任した。そして副部長には、当時やる気に満ちていた佳奈が就任した。
ぼくはそんな一年の時の楽しかった日々を思い出すと目頭が熱くなってきた。あのころは、毎日が輝いて見えていた。放送部という居場所があって、同じ夢を持つ仲間がいて――。
「またみんなで放送したいなぁ……」
やっぱり一人は辛い。でも今は、一人じゃない。蒼空がいる。
蒼空の温かい笑顔が脳裏に浮かんだ。「君の声、素敵だね」といってくれた時の、あの優しい眼差し。ぼくの声を褒めてくれた最初の人。ぼくの声を、ぼく自身を受け入れてくれた人。
「……蒼空、ぼくと一緒に、文化祭、やってくれるかな……」
今は、蒼空と一緒にやりたい。二人でなら、きっと何かできるはずだ。ぼくの心の中で小さな灯火がゆらめいている。雨に濡れた窓ガラスの向こう、雲間から差し込む夕日が、ほんの少しだけ放送室を照らしていた。
それは、希望という名の小さな光だった。



