放課後、放送部員全員が放送室に集まった。いつもより狭く感じられる室内に、微妙な緊張感が漂っている。廃部になってもいいといっていた佳奈や翼、そして文化祭が終わると同時に引退となる慶の表情には、どこか達観したような、淡々とした雰囲気が漂っていた。
一方、蒼空はぼくの隣で手をきつく握ったり開いたりを繰り返している。表情は落ち着いているのに、その仕草からはぼくと同じで放送部のこれからを心配してくれているのがわかった。
ぼくは何度も深呼吸してみたけれど、それでも心はまったく落ち着かなかった。それを見た蒼空がぼくの背中を軽くさすりながらいった。
「大丈夫だよ、きっと」
その温かい手のひらから伝わる優しさに、ぼくはただ頷くしかできなかった。
しばらくすると、廊下から足音が聞こえ、藤原先生が放送室に入ってきた。その途端、空気がピリッと引き締まったように感じた。いつもは穏やかな先生の表情からは、今日の結論を読み取ることができない。
「あー、音羽と星野。文化祭、お疲れ様」
ぼくは軽く頭を下げたが、蒼空はじっと藤原先生の目を見つめている。目は鋭く見えても、瞳の奥には不安が揺れているのが伝わってきた。
「かなり、評判よかったぞ」
藤原先生はニヤッと笑った。しかし、その表情が本当に褒めているのか、あるいは皮肉なのか、ぼくにはうまく読み取れなかった。緊張のあまり、ぼくの心臓は激しく鼓動した。
「それでだな。結論からいうと……」
先生が一呼吸置く。その数秒が永遠に感じられた。
「放送部は引き続き活動をしていくこととなった」
ぼくはその言葉を聞いたとき、頭の中が真っ白になった。その言葉の意味が一瞬、理解できなかった。時間が止まったような感覚に陥る。
「翔、やったな!」
蒼空がぼくの背中をポンと叩くと、ようやく現実に引き戻された。
「えっ? 本当ですか?」
驚きのあまり高い声が出る。自分でもびっくりするほど澄んだ声だった。
「こんなところでウソついてどうする」
藤原先生は明るく笑った。ぼくはうれしくて両手で口を覆った。涙が溢れそうになるのを必死にこらえる。
「そこの三人がな、署名をしてくれたんだよ」
藤原先生はそういうと、慶、佳奈、翼の三人に顔を向けた。三人とも少し照れくさそうな表情を浮かべている。
「お前たちの舞台が終わった後にな。生徒一人ひとりに署名してもらって、全校の九割が放送部存続に署名してくれた」
ぼくは驚いて目を大きく見開いた。全校生徒の九割もの人が――そんなにも多くの人が。
「だ、だって……。このまま解散でもいいって……」
「うん、そうなんだがな」
慶がメガネのブリッジを中指で上げながらいった。
「君たちの姿を見ると……、去年までの放送部を思い出したんだよ。あの頃の、みんなで一つのことに向かって頑張っていたときのことを」
佳奈も頷きながら同意している。
「あたしも。二人が頑張ってるの見たら、やっぱり放送部なくなるの、いやだな……って思えて。なんか、放送部って大切な場所だったんだなって、改めて気づいたの」
佳奈は恥ずかしそうに俯き、はらりと頬に髪が滑り落ちた。
「俺も、先輩たちの公開放送聞いて、いつものとは違って、すげー感動したっす。こんなに人の心を動かす放送ができるんだって。もう遅いかもしれないっすけど、一緒に活動したいと思ったっす」
翼は頬を紅潮させて息巻いていた。
三人の言葉を聞くと、目頭が熱くなる。涙をこぼさないように目を大きく見開き、精一杯の笑顔を作った。
「みんな、ありがとうございます」
声が震えそうになるのを必死にこらえる。
すると、蒼空がぼくの背中に優しく手を当てた。
「翔、よかったな」
その優しい声音を聞いた途端、堰を切ったように涙が溢れた。もう止めることはできなかった。
窓からオレンジ色の夕陽が差し込んで、ぼくたちの影を長く壁に映し出していた。その影は重なり合い、まるで一つの大きな影になっているように見えた。
一方、蒼空はぼくの隣で手をきつく握ったり開いたりを繰り返している。表情は落ち着いているのに、その仕草からはぼくと同じで放送部のこれからを心配してくれているのがわかった。
ぼくは何度も深呼吸してみたけれど、それでも心はまったく落ち着かなかった。それを見た蒼空がぼくの背中を軽くさすりながらいった。
「大丈夫だよ、きっと」
その温かい手のひらから伝わる優しさに、ぼくはただ頷くしかできなかった。
しばらくすると、廊下から足音が聞こえ、藤原先生が放送室に入ってきた。その途端、空気がピリッと引き締まったように感じた。いつもは穏やかな先生の表情からは、今日の結論を読み取ることができない。
「あー、音羽と星野。文化祭、お疲れ様」
ぼくは軽く頭を下げたが、蒼空はじっと藤原先生の目を見つめている。目は鋭く見えても、瞳の奥には不安が揺れているのが伝わってきた。
「かなり、評判よかったぞ」
藤原先生はニヤッと笑った。しかし、その表情が本当に褒めているのか、あるいは皮肉なのか、ぼくにはうまく読み取れなかった。緊張のあまり、ぼくの心臓は激しく鼓動した。
「それでだな。結論からいうと……」
先生が一呼吸置く。その数秒が永遠に感じられた。
「放送部は引き続き活動をしていくこととなった」
ぼくはその言葉を聞いたとき、頭の中が真っ白になった。その言葉の意味が一瞬、理解できなかった。時間が止まったような感覚に陥る。
「翔、やったな!」
蒼空がぼくの背中をポンと叩くと、ようやく現実に引き戻された。
「えっ? 本当ですか?」
驚きのあまり高い声が出る。自分でもびっくりするほど澄んだ声だった。
「こんなところでウソついてどうする」
藤原先生は明るく笑った。ぼくはうれしくて両手で口を覆った。涙が溢れそうになるのを必死にこらえる。
「そこの三人がな、署名をしてくれたんだよ」
藤原先生はそういうと、慶、佳奈、翼の三人に顔を向けた。三人とも少し照れくさそうな表情を浮かべている。
「お前たちの舞台が終わった後にな。生徒一人ひとりに署名してもらって、全校の九割が放送部存続に署名してくれた」
ぼくは驚いて目を大きく見開いた。全校生徒の九割もの人が――そんなにも多くの人が。
「だ、だって……。このまま解散でもいいって……」
「うん、そうなんだがな」
慶がメガネのブリッジを中指で上げながらいった。
「君たちの姿を見ると……、去年までの放送部を思い出したんだよ。あの頃の、みんなで一つのことに向かって頑張っていたときのことを」
佳奈も頷きながら同意している。
「あたしも。二人が頑張ってるの見たら、やっぱり放送部なくなるの、いやだな……って思えて。なんか、放送部って大切な場所だったんだなって、改めて気づいたの」
佳奈は恥ずかしそうに俯き、はらりと頬に髪が滑り落ちた。
「俺も、先輩たちの公開放送聞いて、いつものとは違って、すげー感動したっす。こんなに人の心を動かす放送ができるんだって。もう遅いかもしれないっすけど、一緒に活動したいと思ったっす」
翼は頬を紅潮させて息巻いていた。
三人の言葉を聞くと、目頭が熱くなる。涙をこぼさないように目を大きく見開き、精一杯の笑顔を作った。
「みんな、ありがとうございます」
声が震えそうになるのを必死にこらえる。
すると、蒼空がぼくの背中に優しく手を当てた。
「翔、よかったな」
その優しい声音を聞いた途端、堰を切ったように涙が溢れた。もう止めることはできなかった。
窓からオレンジ色の夕陽が差し込んで、ぼくたちの影を長く壁に映し出していた。その影は重なり合い、まるで一つの大きな影になっているように見えた。



