ぼくたちの運命をかけた文化祭は無事に終了した。けれど、その日は放送部の今後について何も聞かされず、不安な気持ちのまま帰宅するしかなかった。
代休で学校を休んでいる間も、気が休まらない。
一体ぼくたちの放送部はどうなるのか――。
そればかりが頭の中を支配していた。
心を落ち着かせようと、いつものカフェに向かう。まるで森の中のような静寂に包まれたそのカフェで、普段はここにいるだけで心にゆとりが生まれるのに、今日は違った。大好きな本を開いても、文字がただ踊っているだけで、内容が全然頭に入ってこない。気づけば、同じところを何度も繰り返し読んでいた。
「……はぁ。どうすればいいんだよ……」
けれど、今のぼくには何もできない。ただ、学校からの結果を待つしかなかった。
カフェラテを一口飲んでため息をつく。普段なら心を和ませてくれるミルクの甘みが、今日はなぜかほろ苦く感じた。
代休明けの次の日。ぼくはいつも通り早めに学校に向かった。真っ青な秋晴れの空が頭上に広がり、澄んだ空気が頬を撫でていく。けれど、ぼくの心の中はどんよりと曇っているようで、足取りも自然と重くなってしまった。
まだ廃部になると決まったわけではない。そう何度も自分に言い聞かせながら歩く。
いつものように職員室で放送室の鍵を借りる。職員室の先生たちの表情からは何も読み取れず、放送室へ向かう足取りはまるで重しを足にくくりつけられたみたいに重たかった。
放送室のドアを開けると、いつもと変わらない機材とマイクが静かに佇んでいる。カバンを下ろして放送用の脚本が書かれているノートを取り出す。今日の放送用のページを開くと、なぜか文字がにじんで見えた。
「もしかしたら……これが、最後の放送になるのかな……」
小さく呟くと、目からは温かい涙が溢れ出た。
泣かない、泣きたくない。そう思っていたのに――。
「……しっかりしないと」
最後の放送になるかもしれない。だったら、みんなに惜しまれるくらい、最高の放送にしなきゃ。
今、泣いている場合ではない。袖で目元を拭って気持ちを切り替え、朝の放送に備えた。
朝の放送を終えて教室に戻ると、佳奈がショートボブを揺らしながら小走りで近づいてきた。その明るい表情が、今のぼくには少し眩しく感じられる。
「音羽くん、文化祭の公開放送、すごくよかったね」
「……うん。ありがとう……」
ぼくがはっきりしない返事をしたからか、佳奈が眉を寄せた。
「どうしたの? 元気ないじゃない」
「別に……」
「やるだけのことはやったんだから、あとはもう、なるようになるよ」
あっけらかんという佳奈に対して、ぼくは苛立ちを感じた。
「……そうだね」
佳奈は放送部が廃部になるかもしれないと先生から聞いたとき、『廃部になってもいい』といっていた。おそらく彼女にとっては、放送部がもう以前ほど大切な場所ではなくなっていたのだろう。
けれど、ぼくにとっては、これからもずっと必要な部活だ。それなのに、そんなに簡単にいうなよ――。ぼくは唇を噛んでいた。
顧問の藤原先生から放課後に放送室に集まるよう連絡があった。その連絡を受けてからは授業が全く頭に入らなかった。黒板の文字も、先生の声も、すべてが遠く感じられる。
――放送部、どうなるんだろう……。
そのことばかりが頭の中を支配していた。
代休で学校を休んでいる間も、気が休まらない。
一体ぼくたちの放送部はどうなるのか――。
そればかりが頭の中を支配していた。
心を落ち着かせようと、いつものカフェに向かう。まるで森の中のような静寂に包まれたそのカフェで、普段はここにいるだけで心にゆとりが生まれるのに、今日は違った。大好きな本を開いても、文字がただ踊っているだけで、内容が全然頭に入ってこない。気づけば、同じところを何度も繰り返し読んでいた。
「……はぁ。どうすればいいんだよ……」
けれど、今のぼくには何もできない。ただ、学校からの結果を待つしかなかった。
カフェラテを一口飲んでため息をつく。普段なら心を和ませてくれるミルクの甘みが、今日はなぜかほろ苦く感じた。
代休明けの次の日。ぼくはいつも通り早めに学校に向かった。真っ青な秋晴れの空が頭上に広がり、澄んだ空気が頬を撫でていく。けれど、ぼくの心の中はどんよりと曇っているようで、足取りも自然と重くなってしまった。
まだ廃部になると決まったわけではない。そう何度も自分に言い聞かせながら歩く。
いつものように職員室で放送室の鍵を借りる。職員室の先生たちの表情からは何も読み取れず、放送室へ向かう足取りはまるで重しを足にくくりつけられたみたいに重たかった。
放送室のドアを開けると、いつもと変わらない機材とマイクが静かに佇んでいる。カバンを下ろして放送用の脚本が書かれているノートを取り出す。今日の放送用のページを開くと、なぜか文字がにじんで見えた。
「もしかしたら……これが、最後の放送になるのかな……」
小さく呟くと、目からは温かい涙が溢れ出た。
泣かない、泣きたくない。そう思っていたのに――。
「……しっかりしないと」
最後の放送になるかもしれない。だったら、みんなに惜しまれるくらい、最高の放送にしなきゃ。
今、泣いている場合ではない。袖で目元を拭って気持ちを切り替え、朝の放送に備えた。
朝の放送を終えて教室に戻ると、佳奈がショートボブを揺らしながら小走りで近づいてきた。その明るい表情が、今のぼくには少し眩しく感じられる。
「音羽くん、文化祭の公開放送、すごくよかったね」
「……うん。ありがとう……」
ぼくがはっきりしない返事をしたからか、佳奈が眉を寄せた。
「どうしたの? 元気ないじゃない」
「別に……」
「やるだけのことはやったんだから、あとはもう、なるようになるよ」
あっけらかんという佳奈に対して、ぼくは苛立ちを感じた。
「……そうだね」
佳奈は放送部が廃部になるかもしれないと先生から聞いたとき、『廃部になってもいい』といっていた。おそらく彼女にとっては、放送部がもう以前ほど大切な場所ではなくなっていたのだろう。
けれど、ぼくにとっては、これからもずっと必要な部活だ。それなのに、そんなに簡単にいうなよ――。ぼくは唇を噛んでいた。
顧問の藤原先生から放課後に放送室に集まるよう連絡があった。その連絡を受けてからは授業が全く頭に入らなかった。黒板の文字も、先生の声も、すべてが遠く感じられる。
――放送部、どうなるんだろう……。
そのことばかりが頭の中を支配していた。



