目覚まし時計の音が部屋に響き渡る。ぼくは重いまぶたをなんとか開け、ベッドの中で寝返りを打った。枕元のデジタル時計が六時を指している。いつもより一時間も早く目が覚めてしまった。

「もう……朝、か」

 昨夜は緊張のあまりよく眠れなかった。寝たと思ったら目が覚めて、また夢の中へ戻る。それを何度も繰り返したせいか、体が鉛のように重い。

 今日の文化祭は、蒼空とふたりで必ず成功させたい。

 そう心の中で強く誓っているのに、どうしても胸の奥に不安が燻っている。だから眠れなかったのだろう。

 いいや、そんなはずはない。

 ぼくは首を振って、両手で頬を軽く叩いて気合を入れた。重い体をベッドから引きずり出す。

「今日は必ず成功する」

 ぼそりと呟いて、勢いよくカーテンを開けた。窓の向こうには雲ひとつない秋晴れが広がっている。キラキラと輝く朝日が、ぼくを応援してくれている気がした。

 朝早く学校に到着すると、職員室で鍵を借りて放送室へと向かった。今日は文化祭なので朝の放送は休み。その分の時間を使って、本番へ向けて最後の練習をしようと思っていた。

 緊張なんてしていない。

 自分にそう言い聞かせているのに、体は小刻みに震えて、喉も詰まってうまく声が出ない。発声練習を繰り返していると、「コンコン」とドアをノックする音が聞こえた。

「失礼します」

 蒼空が放送室に入ってきた。顔色もよく、昨夜はしっかり眠れたようだ。

「おはよう、翔。早いね」

「……おはよう、蒼空」

 口から出たのはかすれ声だった。蒼空が少し心配そうな表情を浮かべた。

「どうしたの? 声がかすれてるけど……練習のしすぎ?」

「そうじゃない、けど……」

 ぼくは手の震えを止めようと左手で右手を押さえ込んだ。けれど震えは一向に止まらない。むしろひどくなっているような気がする。

「緊張してる?」

 蒼空はゆっくりとぼくに近づき、そっと背中をさすってくれた。その温もりが制服越しに伝わってくる。

「べ、別に……緊張しているわけじゃないけど……」

「手、震えてるね」

 蒼空がぼくの震える手をそっと両手で包んでくれた。その手の温もりがじんわりと伝わってくる。自分の手がこんなにも冷たかったことに気づいた。

「手、冷たいね」

「……ごめん」

「謝ることないよ。しばらく温めてあげる」

 蒼空はぼくの手を優しく包んだままでいてくれた。指先にじんわりと血が通ってきて、温かくなっていくのがわかった。

「ありがとう。もう大丈夫そう」

「俺がずっと隣にいるから、大丈夫。絶対に成功するよ」

 蒼空は名残惜しそうにぼくの手を解放した。その瞬間、なんだか心も軽くなったような気がした。

「さ、ホームルームが始まるから、教室に行こう」

 蒼空はぼくの手を引いて放送室を後にした。