その日の放課後、ぼくは放送室へは向かわなかった。蒼空と顔を合わせるのが気まずかったからだ。
真っすぐ家に帰り、自分の部屋に閉じこもる。鞄を床に放り投げ、制服のまま机に突っ伏した。
「なんで、あんなこといってしまったんだろう……」
頭を抱えてベッドに倒れ込む。天井を見上げながら、朝の出来事を何度も頭の中で繰り返した。
本当はあんなことをいうつもりじゃなかった。蒼空に迷惑をかけたことを謝って、これからのことを一緒に考えたいと思っていたのに。
「こんなことになったら、蒼空はきっと部活を辞めてしまうよ!」
今になって、自分のしでかしたことの重大さに愕然とする。
でも、だからといって暴力を振るうのは、やっぱりよくない。それだけは確かだ。
そう自分に言い聞かせる。しかし、蒼空の行動は、ぼくを守ろうとした結果だった。本当は自分で立ち向かうべきだったのに、蒼空が代わりに怒ってくれたのだ。
「もう! どうしたらいいの!」
頭をぐしゃぐしゃとかきむしって、今度は仰向けに寝転んだ。
このまま文化祭に出ることもなく、放送部が廃部になってしまってもいいのか。そんなことを考えてみる。
「廃部になって、いいわけない」
はっきりと口に出すと、自分の気持ちが明確になった。ベッドから起き上がり、机の前の椅子に座る。
背筋を伸ばし、肩の力を抜く。基本の姿勢を作り、喉を開けて深呼吸をした。いつもの発声練習の準備だ。
スマートフォンを取り出し、ボイスメモアプリを立ち上げる。録音ボタンを押した。
「みなさん、こんにちは。今日は『赤ずきんちゃん』の朗読をします」
手元にあった童話集を広げて朗読を始める。いつも通り、ゆっくりとしたスピードで読む。聞き手が内容を理解しやすいよう、一音一音をはっきり発音した。
物語の世界に没頭していると、不思議と心が落ち着いてくる。赤ずきんちゃんの純真さ、おばあさんへの愛情、そして最後にやってくる希望。声に込めて表現していると、自分自身も物語に救われているような気持ちになった。
読み終えて録音を停止し、すぐに再生してみる。
スマートフォンから流れてくる自分の声に、思わず耳を塞ぎたくなった。やっぱりこの高い声が嫌だ。変な響きがする。
「やっぱり自分の声は嫌いだ……」
でも、最後まで聞いてみる。すると、確かに高い声ではあるけれど、物語の内容はちゃんと伝わってくる。感情も込められている。
蒼空がいってくれた「温かい声」という言葉を思い出した。佳奈の「私は好きだよ」という言葉も。妹の美羽が「落ち着く」といってくれたことも。
「逃げたくない」
蒼空から逃げることも、自分のコンプレックスから逃げることも、もうしたくない。
ぼくは大きく息を吐いて、目を閉じた。明日は、ちゃんと蒼空と話をしよう。今度は感情的にならずに。お互いの気持ちをちゃんと伝え合って、これからのことを一緒に決めよう。
そう心に誓うと、不思議と気持ちが軽くなった。
真っすぐ家に帰り、自分の部屋に閉じこもる。鞄を床に放り投げ、制服のまま机に突っ伏した。
「なんで、あんなこといってしまったんだろう……」
頭を抱えてベッドに倒れ込む。天井を見上げながら、朝の出来事を何度も頭の中で繰り返した。
本当はあんなことをいうつもりじゃなかった。蒼空に迷惑をかけたことを謝って、これからのことを一緒に考えたいと思っていたのに。
「こんなことになったら、蒼空はきっと部活を辞めてしまうよ!」
今になって、自分のしでかしたことの重大さに愕然とする。
でも、だからといって暴力を振るうのは、やっぱりよくない。それだけは確かだ。
そう自分に言い聞かせる。しかし、蒼空の行動は、ぼくを守ろうとした結果だった。本当は自分で立ち向かうべきだったのに、蒼空が代わりに怒ってくれたのだ。
「もう! どうしたらいいの!」
頭をぐしゃぐしゃとかきむしって、今度は仰向けに寝転んだ。
このまま文化祭に出ることもなく、放送部が廃部になってしまってもいいのか。そんなことを考えてみる。
「廃部になって、いいわけない」
はっきりと口に出すと、自分の気持ちが明確になった。ベッドから起き上がり、机の前の椅子に座る。
背筋を伸ばし、肩の力を抜く。基本の姿勢を作り、喉を開けて深呼吸をした。いつもの発声練習の準備だ。
スマートフォンを取り出し、ボイスメモアプリを立ち上げる。録音ボタンを押した。
「みなさん、こんにちは。今日は『赤ずきんちゃん』の朗読をします」
手元にあった童話集を広げて朗読を始める。いつも通り、ゆっくりとしたスピードで読む。聞き手が内容を理解しやすいよう、一音一音をはっきり発音した。
物語の世界に没頭していると、不思議と心が落ち着いてくる。赤ずきんちゃんの純真さ、おばあさんへの愛情、そして最後にやってくる希望。声に込めて表現していると、自分自身も物語に救われているような気持ちになった。
読み終えて録音を停止し、すぐに再生してみる。
スマートフォンから流れてくる自分の声に、思わず耳を塞ぎたくなった。やっぱりこの高い声が嫌だ。変な響きがする。
「やっぱり自分の声は嫌いだ……」
でも、最後まで聞いてみる。すると、確かに高い声ではあるけれど、物語の内容はちゃんと伝わってくる。感情も込められている。
蒼空がいってくれた「温かい声」という言葉を思い出した。佳奈の「私は好きだよ」という言葉も。妹の美羽が「落ち着く」といってくれたことも。
「逃げたくない」
蒼空から逃げることも、自分のコンプレックスから逃げることも、もうしたくない。
ぼくは大きく息を吐いて、目を閉じた。明日は、ちゃんと蒼空と話をしよう。今度は感情的にならずに。お互いの気持ちをちゃんと伝え合って、これからのことを一緒に決めよう。
そう心に誓うと、不思議と気持ちが軽くなった。



