折に触れ織りをまとう

「え?」
俺がそう言ったら彼がきょとんとする。
柔らかい髪がふわっと揺れて甘い香りがほのかに漂った。和風の、花のような上品でちょっと妖艶なかおり。
「あなたとの事ですよ」
「えっ?」
「あなたとの、事です」

彼が、驚いた顔をして目を大きくする。
そして、
照れたように頬を薄桃色に染め、それから弾けるように笑いだした。
見ているこちらも胸がすくような軽やかな笑い声だった。

「うん、それは、とても素敵だ」
「そうでしょう?」
「本当に素敵です。それは」
秋の空は、何て瑞々しい色をしているんだろう。
全てが透明に繊細に染まる。自然が作り出す美しい織物の色彩。
まるであなたのようだ。

「今度はいついらっしゃるんですか」
「そうですね。また、近いうちに」
「お送りしますよ、駅まで」
「えっ?」
「お送りします」

そう言って微笑んだ彼の笑顔が瑞々しく透明感あふれる輝きをもっていて、
とても、綺麗で、美しくて、綺麗すぎて。
「じゃあ、お願いします」
「はい」
俺達と言う経糸と横糸がそっと交わる時、
そこから新しい何かが生まれて来るのかと思った。あたたかく瑞々しく、そして長くながく続く何かが。


2025.09.20
Mika Aoi 蒼井深可