折に触れ織りをまとう

何であんなにいつもすげない態度なんだ。
俺は口の中でぶつぶつ文句を言いながら、民宿への道を歩いていた。
この村に工場を作れば、Iターンの若いひと達も働く場所が出来るし、ブランドの収入の一部は村に還元されるし良い事ずくめなのに。
「あれ、また、追い返されたのか」
「はぁ」
気がつくと、赤い稲刈り機に乗った顔見知りのじいさんが俺を愛車の上から見下ろしていた。
そう言えば、もう稲刈りの時期なのか。俺は東京生まれなので、そこらへんの歳時記が良くわからない。

「今更工場だなんて、この村の連中は誰もうんとは言わんよ」
「ですが、工場を作るメリットと言うものは、」
「おらぁ、横文字はようわからんけんど」
「ですから利益は、」
何処からかお囃子の音が聞こえる。祭りがあるんだろうか。
「ここは先祖を大切にして、静かに暮らして来た村。
これからもそれは変わらんよ」
穏やかにそう言って微笑むじいさんを見ながら、
(その考え自体が黴臭い)
俺はそう心の中で吐き捨てていた -