深淵教団の七死司祭ギルとの激闘の翌朝——
戦いの痕跡が生々しく残る森の中で、一行は休息を取っていた。
「あの魔術……『禁断開放』という技は危険すぎる」
レティシアが沈痛な面持ちで言う。彼女の鎧には深い亀裂が走っていた。
「あんな技を使われたら町一つ簡単に消えるだろうな」
アッシュが煙草を燻らせながら応じる。その目はまだ警戒心を失っていない。
「でも、なぜギルは自分ごと我々を……」
フィオネが小首を傾げる。確かに不可解な行動だった。
「おそらく……」航希が口を開く。「俺の指輪の能力を甘く見てたんじゃないかな。それに……」
「それに?」エルミナが続きを促す。
「守護龍を解放するのが目的だったのかもしれない。ギル自身の犠牲と引き換えに……」
航希の肩に留まる銀色の竜が微かに頷くように見える。
「もし主がいなければ……私は永遠に囚われたままでした。感謝いたします」
澄んだ少年の声で竜が言う。
「名前はあるの?俺たちだけ呼び名がないのも不便だからさ」
航希の問いに竜は少しだけ躊躇した後、
「『ノヴァ』と呼んでいただいて結構です。古の言葉で『新星』という意味ですが」
「ノヴァか。いい名前だね」
航希が微笑むとノヴァも嬉しそうに体を揺らした。
その時だった——
「航希さん!アッシュさん!来てください!」
フィオネの緊迫した声に全員が駆けつける。そこには血に染まった茂みがあった。
「これは……人の血痕?」
エルミナが顔色を変える。
「まだ新しい。しかも量が多い……重傷者かもしれない」
レティシアの判断に航希は即座に反応した。
「手分けして探そう。アッシュ、フィオネさんは東側。エルミナは西。俺とレティシアは南側を」
「了解!」
全員が動き出す中、航希は自分の指輪に意識を集中させた。
(指輪……『生命探索』とか使えたりしないかな?)
その思いに呼応するように指輪が淡く光を放ち始める。
(これだ……!)
航希の頭の中に周囲の地形と人間の反応が鮮明に浮かび上がってくる。
「レティシア!こっちだ!洞窟の中に誰かいる!」
航希の案内で辿り着いたのは大きな岩陰にある小さな洞穴だった。そこには——
「あ……あなたは……誰…?」
弱々しい声と共に黒髪の青年が倒れていた。全身に深い傷を負い、特に右肩からは今なお出血が続いていた。
「大丈夫か!今助ける!」
エルミナが駆け寄り治癒魔法を唱え始める。
「これはひどい……まるで拷問を受けたみたい」
彼女の表情が歪む。明らかに普通の怪我ではなかった。
「航希さん……この人……深淵教団の制服を着ています」
アッシュが険しい確かに青年の纏う衣服は昨日戦ったギルの部下たちと同じものだった。
「でも……なぜ仲間を裏切ってここに?」
航希が疑問を投げかけると、青年が苦痛に顔を歪めながらも話し始めた。
「僕は……ハルト。深淵教団の諜報部門にいた。だけど……ある日命令を受けて……自分の妹を……」
そこまで言って嗚咽を漏らす。その表情には深い後悔と絶望が刻まれていた。
「何て酷い……」
フィオネが悲しげに呟く。
「だから抜け出した。けど……追われて……」
ハルトの言葉が途切れる。意識が朦朧としてきているようだった。
「航希さん。彼を助けましょう。罪を償う機会を与えてあげるべきだと思います」
エルミナの提案に航希も同意した。
「そうだな。深淵教団の内情を知る手掛かりにもなる」
レティシアが静かに頷く。
「ただし、監視付きだ。万が一寝返ったらすぐに処分できるようにな」
冷徹とも言える判断にハルトは安堵したように見えた。
「ありがとう……どんな罰でも受け入れるよ。でも……僕が見たこと感じたことを伝えられるなら……」
戦いの痕跡が生々しく残る森の中で、一行は休息を取っていた。
「あの魔術……『禁断開放』という技は危険すぎる」
レティシアが沈痛な面持ちで言う。彼女の鎧には深い亀裂が走っていた。
「あんな技を使われたら町一つ簡単に消えるだろうな」
アッシュが煙草を燻らせながら応じる。その目はまだ警戒心を失っていない。
「でも、なぜギルは自分ごと我々を……」
フィオネが小首を傾げる。確かに不可解な行動だった。
「おそらく……」航希が口を開く。「俺の指輪の能力を甘く見てたんじゃないかな。それに……」
「それに?」エルミナが続きを促す。
「守護龍を解放するのが目的だったのかもしれない。ギル自身の犠牲と引き換えに……」
航希の肩に留まる銀色の竜が微かに頷くように見える。
「もし主がいなければ……私は永遠に囚われたままでした。感謝いたします」
澄んだ少年の声で竜が言う。
「名前はあるの?俺たちだけ呼び名がないのも不便だからさ」
航希の問いに竜は少しだけ躊躇した後、
「『ノヴァ』と呼んでいただいて結構です。古の言葉で『新星』という意味ですが」
「ノヴァか。いい名前だね」
航希が微笑むとノヴァも嬉しそうに体を揺らした。
その時だった——
「航希さん!アッシュさん!来てください!」
フィオネの緊迫した声に全員が駆けつける。そこには血に染まった茂みがあった。
「これは……人の血痕?」
エルミナが顔色を変える。
「まだ新しい。しかも量が多い……重傷者かもしれない」
レティシアの判断に航希は即座に反応した。
「手分けして探そう。アッシュ、フィオネさんは東側。エルミナは西。俺とレティシアは南側を」
「了解!」
全員が動き出す中、航希は自分の指輪に意識を集中させた。
(指輪……『生命探索』とか使えたりしないかな?)
その思いに呼応するように指輪が淡く光を放ち始める。
(これだ……!)
航希の頭の中に周囲の地形と人間の反応が鮮明に浮かび上がってくる。
「レティシア!こっちだ!洞窟の中に誰かいる!」
航希の案内で辿り着いたのは大きな岩陰にある小さな洞穴だった。そこには——
「あ……あなたは……誰…?」
弱々しい声と共に黒髪の青年が倒れていた。全身に深い傷を負い、特に右肩からは今なお出血が続いていた。
「大丈夫か!今助ける!」
エルミナが駆け寄り治癒魔法を唱え始める。
「これはひどい……まるで拷問を受けたみたい」
彼女の表情が歪む。明らかに普通の怪我ではなかった。
「航希さん……この人……深淵教団の制服を着ています」
アッシュが険しい確かに青年の纏う衣服は昨日戦ったギルの部下たちと同じものだった。
「でも……なぜ仲間を裏切ってここに?」
航希が疑問を投げかけると、青年が苦痛に顔を歪めながらも話し始めた。
「僕は……ハルト。深淵教団の諜報部門にいた。だけど……ある日命令を受けて……自分の妹を……」
そこまで言って嗚咽を漏らす。その表情には深い後悔と絶望が刻まれていた。
「何て酷い……」
フィオネが悲しげに呟く。
「だから抜け出した。けど……追われて……」
ハルトの言葉が途切れる。意識が朦朧としてきているようだった。
「航希さん。彼を助けましょう。罪を償う機会を与えてあげるべきだと思います」
エルミナの提案に航希も同意した。
「そうだな。深淵教団の内情を知る手掛かりにもなる」
レティシアが静かに頷く。
「ただし、監視付きだ。万が一寝返ったらすぐに処分できるようにな」
冷徹とも言える判断にハルトは安堵したように見えた。
「ありがとう……どんな罰でも受け入れるよ。でも……僕が見たこと感じたことを伝えられるなら……」
