昼過ぎに起き上がっても、まだ体がだるかった。少しだけ開いたカーテンから日差しが差し込んでいる。

 額の熱冷ましシートが温くなって、ゆっくり剥がす。

 ベッドから出て起きるのはもう少し後でもいいか。スマホを確認すると、圭吾からお大事にと来ていた。

 春輝くんからは、当然来るはずもなかった。今思い出すのはやめよう。昨日のことは、反省したってもう取り返せるものはない。

 明日からのことは今はもう考えたくねぇな。

 スマホを適当に触っていると、Asterについての通知が来ていた。春輝くんから教わって入れたラジオのアプリ。

 Asterの昨日放送のラジオが配信されたらしい。確か、次回は柊奏多なんだっけ。嬉しそうだったなぁ。昨日も聞いたのかな。

 最後に俺も聞いてみようかな。あんま聞くとしんどくなりそうだし、ちょっとだけ。

 イヤホンをつけて、再生ボタンをタップした。枕の横に置いて目を閉じる。

 最初から楽しげな柊奏多と有栖川悠真。春輝くんが教えてくれたユマカナの2人だった。

 かけあいが面白くて、思わず笑ってしまう。

『えー、じゃあ読みます。ラジオネーム、お、奏多担のハルさん。Asterの皆さんこんばんは。こんばんは〜』

 有栖川悠真が読み上げると、柊奏多も合わせてこんばんはと挨拶をする。

『僕は気になる先輩がいます。奏多くんをきっかけに仲良くなって、映画に行ったり夏祭りに行ったり……たくさん出かける機会ができました』

 最初から恋のお悩み相談だった。春輝くんが言ってたけど、その通りなんだなぁ。

『先輩はいつもマスクをつけているんですが、一緒に食事をするときだけ外してくれます。自分は特別になれてるんじゃないかと思うんですが、今いち踏み込めません。どうしたらいいですか?』

 ちょっとだけ春輝くんみたいだと思ってしまった。けど、そうなると先輩が俺ってことになる。

 映画も夏祭りも行ったし、マスクもしてるし。もしかして、俺が春輝くんの気になる先輩?

 なんて、ぼんやりした頭で考えてるから、こんなことを思いつくのかもしれない。

 そんな都合のいいことあるか。当てはまって浮かれたところで、どうにもなんねぇだろ。

『まず、俺きっかけに好きな人と仲良くなれたとか嬉しいなー』
『ねー、すごいよね。奏多はどうしたらいいと思う? あと一歩ってことじゃんね』
『俺はもうストレートに言っちゃうと思う。好きだって』
『ヒュー、さすがだわ。奏多やっぱそういうとこ、いいね』

 盛り上がっていく2人に、俺の心臓が速くなる。落ち着け。

 スマホ画面をつけて、停止ボタンをタップする。と、圭吾から新たな通知。

 〈風邪の理玖に効果ありそうなもの送っといた。1時間以内に届けるから寝るなよ〉って、何を?

 返事を送ってみても、圭吾からはうなずいているトリのスタンプしか返ってこない。いたずらか?

 圭吾が来るってことか。着替えておいたほうがいいかなと思っていたのに、気づけばまた舟を漕いでいた。