琴乃は、声の方を振り返る。
「あ、あの時の…」
麻冬の幼馴染のメガネの少女だ。彼女は幼馴染だ。麻冬が亡くなったことを少し早く知っていて、泣いたんだろう。涙は枯れているのに、目が赤い。
「あの…ふゆちゃんの家族って結構厳しくて、厳格というか…でも、ふゆちゃん自身のことはあまり知らないんです。冬休みもお家のことで色々あったみたいで…あの日もふゆちゃんは大事な用事があるって出かけてたのに、早く帰ってきなさいってふゆちゃんに連絡して…それで多分焦っちゃって…」
「はぁ…。」
突然早口で話し出したメガネの少女に、困惑した顔を見せる琴乃。
「その…ふゆちゃんは、あなたといるのが好きだったんだと思います。」
「普通のクラスメイト、ですよ。」
だから、通夜も葬式も最期のときに会うことはない、あなたと違って…まるでそういうように、琴乃は言葉を吐いた。その言葉を、ぐっと飲み込むようにしてからメガネの少女は、琴乃に問う。
「あなた、誕生日は?」
「…今日だけど?」
話の流れと関係のない質問に、琴乃は怪訝な顔をした。これ以上、このメガネの少女と話すと、麻冬がもういないことを無理矢理にでも分からせられて、涙が溢れてしまいそうで嫌だった。泣き顔を晒しながら帰りたくない。琴乃の表情を気にすることなく、返事だけを聞き、メガネの少女は目を見開く。その後、くしゃりと笑った。
「やっぱり。」
持っていたカバンをガバリと開き、中を漁る。
「これ。あなたのだから。」
くしゃくしゃになっている袋を差し出してきた。琴乃の手を掴み、無理矢理持たせる。琴乃は渡された袋を見た。その袋はラッピングもしてある。後ろを見ると『メレンゲクッキー』と書いてあった。
「これは…?」
「ふゆちゃんが事故に遭ったときに持っていたカバンの中にあったんです。」
メガネの少女は、目に涙を溜め、鼻声になった。
「ふゆちゃんの家族は、きっと来週のわたしの誕生日のプレゼントだろうって…わたしにくれたんです。でも、わたし、甘い物は苦手で。ふゆちゃんは、それを知ってるはずだから…。」
うるうると溶けそうな目が、レンズ越しにこちらを見る。
「…あなたのなんじゃないかと思って。」
「でも…」
「渡しましたからね!これは!あなたへのプレゼントなんで!」
返そうとすると、拒むように叫ばれる。そして、くるりと背中を向け、走って校舎に戻って行った。軽いはずのそのプレゼントは何よりもずっしり重く、持ち帰るのがやっとだった。
家に帰った琴乃は、袋のラッピングを解いた。真っ白のメレンゲクッキーは粉々になっていて、一部だけなんとか形を残していた。
「…ねぇ、ちょっと見た目が縁起でもなくない?」
メレンゲクッキーであったものに声をかける。その様子は、遺族が骨壷に話しかける様子によく似ていた。ぺりり…と袋を開ける。少し考えてから、キッチンから皿をとり、自室に向かった。部屋に入ってから、その皿に袋を傾ける。サラサラと白とカケラが出てきた。かけらが皿に出てくると、かろ、と軽そうな音がする。ひとかけら、つまんでサクリと齧った。しゅわしゅわと音を立てて、それは琴乃の口の中で溶けた。もうひとつ口に入れた。さくり、しゅわしゅわ…こく、と、溶けたそれが琴乃の喉を通り、喉が鳴る。琴乃は、もうひとつかけらを手に取り、ベッドに寝転んだ。白く小さいかけらを天井に向け、じっと見つめ、口元に持っていく。
「こんな風に溶けて消えちゃえばいいのに。」
気持ちも、思い出も、約束も。カケラが唇に触れる瞬間、琴乃は独りごちた。溶けて、混ざって、消えて。麻冬は私とのそれを望んだのだろうか。
唇に触れたメレンゲクッキーは何も言うことなく、しゅわ…と溶ける。
「あ、あの時の…」
麻冬の幼馴染のメガネの少女だ。彼女は幼馴染だ。麻冬が亡くなったことを少し早く知っていて、泣いたんだろう。涙は枯れているのに、目が赤い。
「あの…ふゆちゃんの家族って結構厳しくて、厳格というか…でも、ふゆちゃん自身のことはあまり知らないんです。冬休みもお家のことで色々あったみたいで…あの日もふゆちゃんは大事な用事があるって出かけてたのに、早く帰ってきなさいってふゆちゃんに連絡して…それで多分焦っちゃって…」
「はぁ…。」
突然早口で話し出したメガネの少女に、困惑した顔を見せる琴乃。
「その…ふゆちゃんは、あなたといるのが好きだったんだと思います。」
「普通のクラスメイト、ですよ。」
だから、通夜も葬式も最期のときに会うことはない、あなたと違って…まるでそういうように、琴乃は言葉を吐いた。その言葉を、ぐっと飲み込むようにしてからメガネの少女は、琴乃に問う。
「あなた、誕生日は?」
「…今日だけど?」
話の流れと関係のない質問に、琴乃は怪訝な顔をした。これ以上、このメガネの少女と話すと、麻冬がもういないことを無理矢理にでも分からせられて、涙が溢れてしまいそうで嫌だった。泣き顔を晒しながら帰りたくない。琴乃の表情を気にすることなく、返事だけを聞き、メガネの少女は目を見開く。その後、くしゃりと笑った。
「やっぱり。」
持っていたカバンをガバリと開き、中を漁る。
「これ。あなたのだから。」
くしゃくしゃになっている袋を差し出してきた。琴乃の手を掴み、無理矢理持たせる。琴乃は渡された袋を見た。その袋はラッピングもしてある。後ろを見ると『メレンゲクッキー』と書いてあった。
「これは…?」
「ふゆちゃんが事故に遭ったときに持っていたカバンの中にあったんです。」
メガネの少女は、目に涙を溜め、鼻声になった。
「ふゆちゃんの家族は、きっと来週のわたしの誕生日のプレゼントだろうって…わたしにくれたんです。でも、わたし、甘い物は苦手で。ふゆちゃんは、それを知ってるはずだから…。」
うるうると溶けそうな目が、レンズ越しにこちらを見る。
「…あなたのなんじゃないかと思って。」
「でも…」
「渡しましたからね!これは!あなたへのプレゼントなんで!」
返そうとすると、拒むように叫ばれる。そして、くるりと背中を向け、走って校舎に戻って行った。軽いはずのそのプレゼントは何よりもずっしり重く、持ち帰るのがやっとだった。
家に帰った琴乃は、袋のラッピングを解いた。真っ白のメレンゲクッキーは粉々になっていて、一部だけなんとか形を残していた。
「…ねぇ、ちょっと見た目が縁起でもなくない?」
メレンゲクッキーであったものに声をかける。その様子は、遺族が骨壷に話しかける様子によく似ていた。ぺりり…と袋を開ける。少し考えてから、キッチンから皿をとり、自室に向かった。部屋に入ってから、その皿に袋を傾ける。サラサラと白とカケラが出てきた。かけらが皿に出てくると、かろ、と軽そうな音がする。ひとかけら、つまんでサクリと齧った。しゅわしゅわと音を立てて、それは琴乃の口の中で溶けた。もうひとつ口に入れた。さくり、しゅわしゅわ…こく、と、溶けたそれが琴乃の喉を通り、喉が鳴る。琴乃は、もうひとつかけらを手に取り、ベッドに寝転んだ。白く小さいかけらを天井に向け、じっと見つめ、口元に持っていく。
「こんな風に溶けて消えちゃえばいいのに。」
気持ちも、思い出も、約束も。カケラが唇に触れる瞬間、琴乃は独りごちた。溶けて、混ざって、消えて。麻冬は私とのそれを望んだのだろうか。
唇に触れたメレンゲクッキーは何も言うことなく、しゅわ…と溶ける。



