君と唇で触れる

「こっちゃん、新年あけましておめでと〜!今年もよろしくね!」
「きーちゃん、あけましておめでとう〜。」
冬休み明け、琴乃はクラスメイトと挨拶をする。年末番組は何見ていたとか、お年玉で何買ったとか、そういう年始ならではの話をする。麻冬はまだ来ていない。冬休み中に会えたらと思っていたけど、長期休みは親族の集まりが忙しいらしく、会えなかった。
「お。」
「きーちゃん?」
話していたクラスメイトが琴乃の後ろを見て、ニコッと笑い、何も言わずに別のところへ行く。不思議に思うと、後ろから、ぎゅっと力強く抱きしめられた。ふわふわの感触といい匂いが琴乃を包む。「熱烈〜」とクラスメイトが小さい声で言ったのが聞こえた。
「麻冬?あけましておめでとう。」
「…ん。おめでとう。」
少し眠たそうな疲れたような麻冬が、ぐ〜っと琴乃を抱きしめたまま体を預けた。琴乃が前に倒れていく。
「麻冬、首、首が折れちゃうから。」
「ふふふ。」
「笑い事じゃないよ?」
寝ぼけたように笑いながら、麻冬が琴乃から離れて自席についた。

冬休みが明け、1週間。そろそろ寝正月の生活スタイルを矯正し終えた頃。
「来週、琴乃の誕生日だね。」
麻冬が言った。
「そうだよ〜。月曜日だってね。どうせなら土日が良かったな〜。」
「まぁまぁ。誕生日プレゼント楽しみにしてて。」
「あんまり、すごいものはだめだよ?」
「はいはい。」
色々もらっちゃったんだから、と琴乃は言った。分かったのか分かってないのか適当に笑う麻冬。
「琴乃が喜びそうなもの、見つけたから。」
麻冬は綺麗な黒髪をさらりと揺らし、目を細めてそう言った。

―――それが麻冬との最後の会話だった。

週明け。
「こっちゃん、誕生日おめでとー!」
「ありがとう!きーちゃん、これいいの⁉︎」
「こっちゃんの好きなキャラクターのコラボ見つけちゃってさ!」
可愛らしいボールペンとハンカチのセット。学生らしいプレゼントだ。
「…麻冬さん、まだ来ないね?」
クラスメイトのその一言に、琴乃は麻冬の席を見た。普段も遅い時間に登校しているイメージの麻冬だが、今日はいつもよりも遅い。
「ん〜寝坊かも?朝、弱いし。」
「え〜、こっちゃん、誕生日なのに。」
関係ないよ、と琴乃がいうと、クラスメイトは納得いかなさそうに唇を尖らせた。ガラリと教室の前側の扉が開く。担任が入ってきた。いつもより早めにきた担任に、クラスがざわめく。ホームルームを少し早めに始めるらしく「みんな座れ〜」という一言で、琴乃とクラスメイトは席についた。重苦しそうに口を開いた担任からでた言葉に琴乃はガツンと殴られた。
『麻冬が亡くなった。』
交通事故。金曜日の夜だったそうだ。通夜と葬式は終わっており、担任も行っていたらしい。家族の意向で、すぐには生徒に言わず、週明けの報告になったそうだ。話を聞くほどに、琴乃の体には変な重力がかかっていった。重いような、むしろ何もなくて浮いてしまいそうな、ぐらぐらした変な感覚だった。そのまま続くホームルーム。終わると、クラスメイトがなんともいえない顔で私を見た。何人かが話しかけてくれた気もするが、なんて返したかも覚えていない。その日の琴乃は、1日が虚だった。
「こっちゃん…」
放課後、泣きそうな顔をしたクラスメイトが心配そうに琴乃を見る。たった1日で、琴乃は世界の色を失ったような顔をしていた。
「あ…帰るね。」
「うん。部活あるから一緒に帰れないけど、気をつけて帰るんだよ?」
「きーちゃん…ありがと。」
力なく笑う琴乃。ふらふらと帰る準備をして廊下に出た。廊下でふざけていた男子生徒とぶつかってしまった気がするが、気にもならない。下駄箱で靴を変え、ひゅ、と掠れた音で息を吸い、マフラーを巻く。

「…いた!あの!」
ある人物が琴乃を呼び止めた。