大きな音がした。それが水面の飛沫だとわかった。何かが割れたみたいな感覚。喉がひゅっと鳴って、胸が膨らむ。酸素だ。むせるように息をして、澪は自分が池から出たのだと気づいた。
「げほっ、……」
 突然の供給に体は驚いて、跳ねていた。涙がこぼれてくる。やさしく背をあやされ、澪は誰かに自分が抱え上げられていると知った。
 なに――ぼやけた視界で見あげると、赤い光が見えた。それが目だと、瞬きし理解する。
「大丈夫だ」
 低い声は、ひたすらに静かだった。澪は頷く。
 大丈夫。
 そのひと言が、心にしみた。澪はせき込みながら、何度も頷いていた。
「大王様!」
「大事ない。湯殿を用意せよ」
「はっ」
 駆け寄ってきた者に命令し、大王は、奏美たちを見下ろした。澪をその腕に抱いたまま、柔らかく微笑する。
「申し開きがあるなら聞こう」
 大王の声は、ぞっとするほど優しかった。ユコたちはすっかり震えあがり、「ごめんなさい」と頭を抱えた。
「奏美に……」
 と言ってすすり泣く。奏美は「このブス」と吐き捨てにらんだが、さすがにその顔も青ざめていた。大王の目が、自分に定まったと見ると、決然と立ち上がり、叫んだ。
「この者が、大王様を害そうとしていたので、こらしめたのです!」
 涙を浮かべた大きな目で、澪を睨みつけた。澪は「なっ」と、息をのんだ。
「寝所で油断した大王様を殺そうとしていたのですわ!私はこの女と同級生で、よく知っています!」
「ほう?」
 大王が面白げに澪を見た。澪は反論しようと口を開いた、しかし喉が枯れていて、言葉が上手く継げない。代わりに出たのは空咳ばかりだった。
 奏美は大王が興味を示したのを見て、意気を強めた。
「信じてくださいませ!私は真のおはら様になる身として、あなたを守りたかったのです!」
 涙にぬれた目をらんらんと輝かせ、奏美ははっきりと言い切った。勝利を確信した笑みを、唇がかたどった――次の瞬間。
 奏美の舌から火の柱が昇った。