「離してよ!」
 ユコたちに腕を引かれ、澪は叫んだ。しかし多勢に無勢、ずるずると廊下を引き立てられていく。
 連れて行かれたのは、今朝、雀を見つけたあの庭だった。
 自分が見つけたものは、奏美は当然見つけているらしい。靴下で引きずられていく砂利は痛い。池の前に連れて行かれて、奏美の前に跪かせられる。
「なんであんたなの?」
 奏美に顔を思い切り、蹴り上げられた。
 痛みにうめくと、奏美と目が合う。不愉快だとはっきりわかる冷たい目が、澪を見ていた。ポケットから出したカッターナイフを、ちきちきと繰り出す。
「そこに落ちて二度と上がってくるな。でないと顔をずたずたにする」
 澪は息をのんだ。カッターナイフの刃先が、頬に食い込む。ぶつり、と音がして頬に温いものが伝う。
 こいつ、本気だ。
 澪の体が勝手に震え出す。ユコたちもさすがに怖いのだろう。澪が決めるより早く、池のほうに追いやりだした。澪は本能で暴れる。
「離して!」
「言うこと聞けよ!」
 嫌だ。暴れたら、顔に、カッターが走った。痛みさえ麻痺する恐怖が、全身を襲っていた。死にたくない。私の顔、くそっ、くそ……!
「離せ、この――」
 なんで!
 せっかくおはら様に選ばれたのに。
 父さん、母さん、巧。
 三人の顔が、澪の脳裏に映った。池に顔を押し付けられ、頭を踏まれる。ごぼっと気泡が上った。池に蹴り落とされ、上から重しがわりに石か何か落とされた。腹の上に重みが乗って、動けない。
 池の底から、奏美の勝ち誇った顔だけが見えた。
 死にたくない。ここで終わりたくない。けれども、澪の体は持ち上がらず、鈍い痛みに意識は沈んでいく。悔しさと恐怖に、指先までしびれていく。
 これが忠告を聞かなかった罰なのか。それにしたって重すぎるだろう。
 ごめんなさい、ごめんなさい。でも死にたくない。誰か助けて、誰か。
 意識が白み、途切れる。
 ――強い力が、澪の体を引いた。