「遅れてすみません!」
 顔合わせの儀が行われるのは、屋敷の奥の座敷だった。
 畳の香りのする上等な大広間で、昨日集められた庭くらい広いが、恐ろしく物々しかった。
 女の子たちは皆美しく着飾って、こちらを非常識そうに見ている。
 私って、飛んで火にいる夏の虫かも。
 そう思わざるを得ないくらい、屋敷の者たちの目も怖かった。鬼瓦のようにいかめしい男が、青筋を立てて澪を怒鳴りつける。
「無礼者!そのような姿で大王様の前に出ると言うか!」
「すみません!ちょっと、転んでしまって」
「出て行け!」
 迫力に、澪はひるんだ。
「お、お願いします。どうか出させてください」
 しかし、ここで終わるわけにはいかない。澪は、頼む。すると、棒を持った男たちが、ずらずらと近づいてきて、澪を気圧した。
「出て行け!このたわけが!」
 くすくす忍び笑いが漏れた。身の程知らず、一人脱落――そういう空気だ。女の子たちの群れの中にはユコたちもいる。奏美は素知らぬ顔で、大王を待っていた。
 ――負けるもんか。
 澪は、土下座をして頼み込んだ。
「お願いします!顔合わせの儀に出させてください!」
 恥も外聞もいらない。澪には目的がある。絶対に成し遂げるまでは帰らない。
「お願いします!どうしてもおはら様になりたいんです!」
「ふざけるな!離れぬか、畳が汚れる!」
「おい!引き立てよ!」
 両腕をつかまれ、澪は、外に出されそうになった。必死に踏ん張るが、畳を引きずられて行く。
「離してください!お願いします!大王様に会わせてください!」
 女の子たちが抑えきれないと言うように笑っていた。男たちは怒り、澪を廊下にたたきつけようとした――。