「はあ……」
 澪は布団の上で、正座をしていた。あれから説明を受け、各々部屋で一泊し、明日の「顔合わせの儀」を待つ。あてがわれた一室は、自室より広く感じる。
「顔合わせの儀」とは、相手が自分の「おはら様」を選ぶための場だ。
 つまり、正念場。
 気合いを入れなければならないのに、どうにも気持ちが盛り上がらない。
 それもこれも、奏美のせいだ。
「そりゃそうだよね。来ないわけない」
 クラスのカーストトップの奏美。
 高校に入学して三年、ずっといじめられていた。奏美は「興味がありません」という顔をしながら、澪の人生を邪魔してくる。
 やれ「貧乏人」だとか「ブス」だとか「低能」だとか。
 言い返しきらないのが余計に悔しい。奏美はお嬢様で美人で、成績もトップなのだ。
 澪は服の袖をまくり上げる。腕には無数の傷跡が這っていた。根性焼きに切り傷――全部、この三年間で奏美がつけたものだ。
 なんでも持ってるんだから、もっと余裕を持ってくれたらいいのに。
 いじめが酷くなるのが怖くて、何も抵抗できないでいた。
「やめよ。考えても仕方ないこと……」
 澪は、布団に仰向けに倒れ込んだ。天井の木目を目でたどった。目が二つこっちを見てるみたいだ。
「大王様か。どんな方なんだろう」
 今回、おはら様を求めた人ならざる者。彼に仕える者にそう説明された。
 その方の仔細を今日きいた。こんな大事な情報を、後出しでいいのだ。人ならざる者と人間の大きな隔たりを実感する。
 その男の子どもを産むのか。
 澪はお腹にそっと手を当てた。ざわりとわき起こった恐怖を、首を振って吹き飛ばす。
「みんなやってることじゃん。大丈夫大丈夫」
 おはら様になれたら、一攫千金だ。
 名誉はどうでもいいけど、お金が入れば両親も楽させてあげられるし、何より弟に夢を追わせてあげられる。もしかしたら、自分だって――。
「いや、私は関係ないか」
 笑って、頭を振る。とにかく、何としても気に入られないと。
 明日の顔合わせに備え、布団にもぐった。