たどり着いた屋敷は、目を見張るほど大きかった。
昔ながらの日本家屋が、道の先、どこまでも続いている。こんな大きな屋敷、CGじゃないの?澪は、呆気にとられながら、立派な門をくぐった。
澪と同じ年頃の女の子たちが、庭に集まっていた。日本全国から集ったに違いない。澪は改めて倍率の高さと、庭のスケールにおののく。庭に敷き詰められた丸い石が、日光を受け、白く輝いている。
「あれぇ?なんかうざいのがいる」
とんがった声に、澪はぎくりと固まる。こわごわ振り返れば、同級生の奏美と彼女の友人がこちらを見ていた。奏美は整った顔に一瞬嗜虐的な色をのせたが、目線を外し「うざ……」と、きれいな毛先を弄びだす。その態度を受け、奏美の友人たちが乗り出してきた。
「澪カス~、あんたまさかおはら様に志願してんの?」
一人が、澪の肩にのしかかるように肘を置いて聞いてきた。全力で体重をのせられて、身を小さくしながら「そうだけど」と言った。するとどっと笑いだす。
「だっせぇ!お前なんか選ばれるわけないじゃん」
「確かに規定は十八の娘だけど、お前自分が女と思ってるわけ?」
「自意識過剰~。奏美に決まってるのに」
げらげら、という効果音がとても似合う笑い方で、ぐりぐりと地面にめり込ませてくる。澪は半笑いになりながらも、「そっちはどうなんだ」と思った。
奏美に決まってるなら、あんたも来なきゃいいのに。
奏美はと言うと、何も気にした風もなく動画を見ていた。指先まで綺麗だ。
「まあいいんじゃん?どうせお金目当てでしょ」
奏美の言葉に、友人たちがへへへといやらしく嗤う。奏美はスマホから目を上げずに言った。
「あと、ユコ。汚いから、お風呂入るまで私に寄らないでね」
奏美の言葉に、肘を置いていた友人――ユコが、慌てて澪を突き飛ばした。澪は地面に倒れ込む。
号令がかかる。縁側のほうへ向かいながら、奏美は通り過ぎざまに、澪の太腿を踏んだ。
「とっとと消えろよ、お前の顔なんて吐き気してみてられないから」
綺麗な声でささやかれて、澪は息をのんだ。
去っていく奏美とユコたちに、唇をかみしめる。
こっちだって、あんたの顔なんて見たくないっての。
震える手を握りしめ、澪は心の中でいい返した。



