「――⁉」
 火柱の向こう、奏美の目が大きくむかれた。長いまつ毛のアーチの縁のアイラインまで照らされる。
 声にならない悲鳴を上げ、奏美は身を振り乱した。火を消そうと舌を打った手や、白い頬や髪にまで、火が燃え移っていく。奏美は恐慌状態となり、身を跳ねさせ、のたうち回って走り回り――池に飛び込んだ。水っぽい飛沫が立ったのも一瞬で、池の中でなお、炎は上がり続けていた。池の中の鯉は、炎に照らされながら、悠然と泳いでいた。
 澪は息さえ忘れ、その光景を見ていた。あまりの凄惨さに、思考が停止していた。
「残念だのう。真のおはら様が、われの嫌いなものも知らぬとは」
 大王が悲し気に嘆息する。大王がその実、楽しんでいるのが澪にはわかった。大王の薄く笑みを浮かべた顔は炎の中で、恐ろしく美しかった。その赤い目の中に、炎が揺らめいている。
 澪は、大王の着物のあわせを掴み、揺らした。澪の全身は汗に濡れている。それほどに炎は迫っていた。
 大王は澪の目を興味深げに一瞥し、配下の者に視線をやった。
 彼らは、ただちに奏美の身を池から引き上げた。
 奏美の髪は焼け落ち、頬はただれていた。恐怖からか、どっと老けこみ、しおれ切っていた。顔中にびっしりと苦悶のしわが走っている。
「二度と嘘をつくでないぞ。われの炎は、そなたをじっと見ているからな」
 あぁ、あぁと奏美はうめき、頭を地面にたたきつけるように頷いた。生気がすっかり抜け落ちていた。ユコたちは、奏美の豹変を呆然と見ていたが、大王の目が自分たちに向いたのを見て震えあがった。
「そなたたちもだ」
「ち、ちかいます、ちかいます……」
 ユコたちは震えあがり、身を寄せ合い何度も頷いた。そして、恐怖から逃れるために、気絶した。