「今日の空、ちゃんと見た?」

朝8時、スマホが震える。
画面に表示されたのは、リマインダーの通知。
設定者:彼女

彼女が病気でこの世を去ってから、もうすぐ3ヶ月。通知の中身は、全部彼女が生前にこっそり仕込んでいたものだった。
毎日、決まった時間に彼女が好きだったことを俺に知らせてくる。

「ベンチで飲む缶コーヒー、秋が一番美味しいよ」

「映画のエンドロールまでちゃんと見る派だったよね?」

「たまにはさ、笑って」

最初は開くたびに泣いていた。
だけどある日、通知のあとに空を見上げたら、泣きながら笑っている自分がいた。

「君が前を向けるように、毎日ちょっとだけ手を貸すね」

設定されたメモの最後には、そんな言葉が残っていた。
3ヶ月間、毎日届く彼女の好きだったこと。
それはきっと、彼女が「俺を生きさせる」ために残してくれたものだった。
そして今日、リマインダーが初めてこう告げた。

「これで最後の通知です。明日からは、君の好きなことを見つけて」

涙が止まらなかった。
でもスマホを閉じて、俺はそっとつぶやいた。

「ここからは、俺の番だね」