彼女は、いつも泣かなかった。
ケンカをした夜も、別れを切り出したことがある夜も、彼女は笑っていた。

「泣いたら終わりな気がするから」

そう言って、強がるように笑った顔を、僕は何度も見てきた。

その夜、病室は静かだった。
機械の音が小さく響く中、僕は彼女の手を握っていた。
熱はもうなく、手は少し冷たい。

「ねえ」

かすかな声に顔を上げると、彼女は僕を見ていた。
潤んだ瞳が、かすかな光を映している。

「泣いてもいい?」

その一言に、胸が詰まる。
頷くと、ぽろぽろと涙がこぼれた。
声も出さず、ただ静かに泣く彼女を、僕は初めて見た。

こんなに苦しそうな泣き顔は、見たくなかった。
でも、この涙はきっと、僕を愛してくれた証だ。

握った手は離さないまま、彼女は笑った。

「....ありがとう」

その笑顔と涙が、僕の心に一生消えない跡を残した。