君に出会ったとき、僕は思った。
これがきっと、人生最後の恋だ。
もうこんなふうに誰かを好きになることなんて、ないと思ったから。

笑うときに少しだけ右の口角が上がる癖。
本を読むとき、無意識にページを撫でる指先。
何気ない仕草まで全部、愛おしかった。

季節がめぐるたび、君は僕の人生を塗り替えていった。
古い恋の傷も、諦めていた夢も、少しずつ色を取り戻していった。

だから、あの日のことは今でも鮮明に覚えている。夕暮れの帰り道、僕は言った。

「君は、僕の最後の恋だよ」

君は少し笑って、そしてこう答えた。

「そうなんだ。私にとっては、これが最初の恋だよ」

これが何を意味しているのかが分からなかった。
でも、その瞳に映る僕は、君にとって恋というものの始まりだったのだと気づいた。
誰かをこんなふうに好きになる気持ちを、初めて知った人間。

だからこそ、別れは避けられなかった。
君は恋を知ってしまったから、これからもっと多くの人を見て、触れて、選んでいく。
僕はそれを止められない。

最後の恋と、最初の恋。
同じ時間を過ごしても、見ている未来は違っていた。

それでも、僕は思う。
もし生まれ変わったら、君の最初の恋に、またなりたい。
今度は、最後まで一緒にいられるように。