医師に言われたのは、たった一言だった。
「このまま進行すれば、半年以内に記憶がほとんど消えていきます」
若年性アルツハイマー。まだ29歳。あまりに早すぎる終わりだった。
彼女に別れを告げようとした夜、彼女は言った。
「じゃあ、未来のあなたに伝えてあげて。私がどれだけあなたを愛してるか」
それが始まりだった。
1通目の手紙には、今の自分の性格。
2通目には、彼女と出会った日。
3通目には、彼女の好きな食べ物。
10通目には、ケンカして仲直りしたときのこと。
25通目には、プロポーズの場所について。
50通目には、"記憶を失っても、君は絶対に手を離さないって約束したよ"と書いた。
そして――99通目には、涙でにじんだ文字で、こう記した。
「あと1通で、全部を君に託すよ。もう、自分の名前を書くのに5分かかってる。
でも、最後まで伝えたい。未来の僕へ。君がどれだけ素晴らしい人を愛していたかを」
そして、100通目。
ただ、一行だけ。震える手で綴った言葉が残されていた。
「この人を、どうかもう一度、好きになってくれますように」
数ヶ月後。
記憶の消えた彼は、自分の部屋にあった100通の封筒を見つける。
一通、また一通と読み進めるたび、心がざわめく。
名前も顔も思い出せないはずの女性の、声が聞こえる気がした。
100通目を読み終えた夜、インターホンが鳴りドアを開くと、そこには女性が立っていた。
そして僕は、その女性に向かって言った。
「……はじめまして。でも、なんだか懐かしいですね」
彼女は泣きながら微笑んだ。
「はじめまして。あなたに、もう一度恋をさせに来ました」
「このまま進行すれば、半年以内に記憶がほとんど消えていきます」
若年性アルツハイマー。まだ29歳。あまりに早すぎる終わりだった。
彼女に別れを告げようとした夜、彼女は言った。
「じゃあ、未来のあなたに伝えてあげて。私がどれだけあなたを愛してるか」
それが始まりだった。
1通目の手紙には、今の自分の性格。
2通目には、彼女と出会った日。
3通目には、彼女の好きな食べ物。
10通目には、ケンカして仲直りしたときのこと。
25通目には、プロポーズの場所について。
50通目には、"記憶を失っても、君は絶対に手を離さないって約束したよ"と書いた。
そして――99通目には、涙でにじんだ文字で、こう記した。
「あと1通で、全部を君に託すよ。もう、自分の名前を書くのに5分かかってる。
でも、最後まで伝えたい。未来の僕へ。君がどれだけ素晴らしい人を愛していたかを」
そして、100通目。
ただ、一行だけ。震える手で綴った言葉が残されていた。
「この人を、どうかもう一度、好きになってくれますように」
数ヶ月後。
記憶の消えた彼は、自分の部屋にあった100通の封筒を見つける。
一通、また一通と読み進めるたび、心がざわめく。
名前も顔も思い出せないはずの女性の、声が聞こえる気がした。
100通目を読み終えた夜、インターホンが鳴りドアを開くと、そこには女性が立っていた。
そして僕は、その女性に向かって言った。
「……はじめまして。でも、なんだか懐かしいですね」
彼女は泣きながら微笑んだ。
「はじめまして。あなたに、もう一度恋をさせに来ました」

