正しき者の杖を振れ2

気が付けば、時計の針は午後7時を回っていた
3組のバンドはそれぞれ練習場所を後にする
鍵当番は一週間交代で、今週は八子達が担当することとなった
八子達は校舎に向けて歩き、宗麟大橋を渡る
反対側には、サッカー部がちらほらと歩いている

「サッカー部ってこの辺なんだ」
「なんかお寺の跡地みたいなところでやってるらしい」
「へぇサッカーって雨でもやるから大変だよね」
「友達が大分トリニータ好きだから見に行ったけど
土砂降りの雨で最悪だった」
「あの亀の」
「そうニータン
なんかバカ流行りしなかった」
「確かにサッカー観てなくても鞄にマスコット付けている子多かったし」
「謎に流行るよね」

太陽で熱せられた風が吹く
遮るものがないと余計に暑い
火花はチョーカーに触れた

「そういえば火花さんはスポーツで好きなチームある?」
「バドミントンのNTT東日本」
「バドミントンか
国際大会しか見ないな」
「国内リーグから見始めるとさらに面白くなる」
「わかるー」

響は立ち止まる

「そうだ!私達バンド名決めてない」
「あっ確かに」
「ねぇなんか案ある?」
「マシュマロプリン」
「いやースイーツの名前は地下アイドルっぽくね」

火花はむくれる

「シナモンロックンロール」
「無理矢理ロック付けただけじゃん」
「かき氷」
「渋っ!」
「マリトッツォ・クリスマスケーキ・ロールケーキ」
「いやもう投げやりになっている」

八子の脳内に閃光が走る

「MXR
なんてロックな響きなんだ」
「もうちゃんと考えてよ」
「ならorange cubeは?」
「オレンジキューブ?」 
「私が普段使っているアンプのメーカーから取った」 
「いいじゃんそれ
そういうの求めてたんだ」
「むー可愛くない」

火花は納得してないようだが、この名前で活動すると決定した



八子達は職員室で円に今日の報告をする
円はご満悦と言ったところだ

「よかったわ順調そうで」
「そうですね」

円はプリントを八子に渡す

「じゃあこれオーディションのエントリーシート
なるべく同じ日にオーディションやってくれると助かる」
「負担にならないようにします」

円は胸の前で両手の拳を固める

「ファイト!!」

八子達は踵を返し職員室を出る
円は慌てて呼び止める

「火花さん」

火花は振り返る

「校内はアクセサリー付けちゃダメ」
「すいません」

火花は慌ててチョーカーを外す
八子達は職員室を出る

「失礼いたしました」

円は机に向き直り怪訝な顔をする

「火花さん
耳が聴こえているわよね」

向かいに座るミナカはしまったと顔をする
円は見逃さず、不敵な笑みを浮かべる

「あららなにかご存知のようで」
「うっさい」

ミナカは引き出しを開き、円にガムを投げつける
円はガムを手にすると中身を口に入れ、包装紙を丁寧に畳み、引き出しに入れる
円の引き出しには45枚、ミナカの引き出しには44枚
年度終わりに一番枚数が少ない方が食事を奢るという事になっている

「ミナカ先生きちんと引継ぎをお願いします」
「安心してください
絶対に次からはミスをしないので」
「絶対?
世の中には存在しませんよそんな言葉」

二人が火花を散らす中、職員室にいた教員達は静かに廊下に出た



昇降口前には見慣れた車が止められている
火花は車に駆け寄る

「火花じゃあね」

火花は振り返り小さく頷く
八子も続けて、

「またな」

火花はツンと鼻を鳴らしそのまま車に乗り込む
車はほどなくして発進する

「ありゃ解散の危機ですか」
「寝れば忘れるでしょ」
「これは駄目な彼氏の典型例」
「うるさい
行くぞ」

八子と響は駅に向けて歩き出す