○黒羽家・本邸
優子モノ『あの日から一週間が経ち、私たちの日常には、穏やかさが戻ってきた』『あの一件に絡んだ祓い屋は、お祖父様からお咎めを受け、祓い屋としての権利を剥奪され、帝都から姿を消した』『問題は……』
美月の寝室の前で花束を持った優子と青紫に、頭を下げる鶴岡。
鶴岡「申し訳ありません、美月様はご体調が悪く、お会いできないと」
青紫「……そうですか」
優子モノ『一向に、美月が会ってくれないこと』『あの日から、美月は屋敷で療養していた』『お医者様の話では、体は回復し、元の生活を送れるまでになったけど、部屋から出てきてくれない』
浮かない表情をする青紫。そんな青紫の姿を見て、優子は美月にご立腹な様子。
優子(みんなこんなに心配しているのに、いつまでへそを曲げているつもりなの)
優子は青紫に花束を押し付けると、鶴岡を押し退け、襖を開けて勝手に美月の部屋の中に入る。
青紫「ゆ、優子さん?」
青紫と鶴岡は戸惑った様子で、優子を追いかけ、美月の寝室に入る。
座り込み、窓辺で外を眺めていた美月は、驚いた様子で入ってきた優子を見る。
美月「何しに来たのさ、僕、具合が悪いんだけど」「鶴岡、通すなって言ったよね?」
鶴岡「はい……」
そっぽを向き、意地を張る美月。
優子「どこか具合が悪いのよ」「私たちに会わないために、仮病を使っているだけでしょ」
美月「なっ……」
優子の言葉に、美月は苛立つ。
優子「みんながあなたを心配しているのに、あなたはいつまでもうじうじして、こうして部屋に籠って」「ほんとしょうもないわ」
美月「しょうもないだって?」
立ち上がる美月。
美月「お前なんかに何が分かるんだよ」「華族の生まれで、何不自由なく育って、綺麗なお前に、一から色んなものを積み上げてきた僕の何が……」
肩を震わせ歯を食いしばる美月。
美月「誰にも愛されない、頭首にもなれない……」「こんな惨めな人生なら、あの時、死んだ方がましだった ……!!」
青紫「美月……」
優子「……死んだ方がまし……?」「ふざけないでよ……!!」
怒鳴る優子に、一同は驚く。
優子「死んだ方がよかったことなんてない!」「どんなに惨めでも、生きるのよ!」「今日が辛い、明日も辛い、明後日も辛い」「でも……その次には、幸せだって思えることが、待っているかもしれないじゃない!」※青紫に出会い、幸せな優子の絵。
我に変える優子。
優子「あっ…」「すいません、私ってば、出過ぎたことを……」
優子(私ったら……)
一縷「さすがは優子さん、根性があって、素敵だね」
気づくと、一縷が襖のところに立っている。
優子「お祖父様……!」
一縷はにこやかな表情で、青紫と優子を見る。
一縷「少し、いいかな?」「美月、お前も来なさい」
○黒羽家・当主別邸
優子と青紫が並び、一縷と正面に向かい合う。少し離れたところで、美月も正座している。
一縷「まずは、礼を言わせてほしい」
そう言い、一縷は頭を下げる。
驚き、焦る優子と青紫。
一縷「青紫、優子さん、此度のこと、二人のおかげで、災いは免れた」「本当にありがとう」
青紫「顔を上げてください、お祖父様」
優子「そうですよお祖父様」
一縷はゆっくりと顔を上げる。
一縷「この子がやったことは、決して許されることではない」「だが、この子が全て悪いわけじゃない。私にも責任がある」
一縷の言葉に、申し訳なさそうに顔を俯ける美月。
一縷「美月にはこれから先、許されるように、黒羽の尽力させるつもりだ」
一縷のその言葉を聞き、青紫は「ふっ」と目を伏せる。
青紫「そうですね……美月には、黒羽のために生きてもらう必要がある。今までのように」「やはり、頭首は美月が相応しいですし」
美月「何言って……」
意味が分からないという顔をする美月。
美月「同情しないでよ!」
青紫「同情じゃありません」
美月「僕は優子を攫って、兄さんのことを殺しかけたんたんだよ?」「それだけじゃない、みんなを危険な目に遭わせた」「それなのに……僕を頭首にだなんて、頭がおかしくなったんじゃないの?」
そう言い、自嘲した笑みを浮かべる美月。
青紫「自分が過ちを犯したと認め、悔いることができるあなたなら、誰よりも黒羽のために尽力できる」「……それに、私は頭首という柄じゃなありません」「私は影から、黒羽を支えたい」
優子(青紫さん……)
青紫は一縷を見る。
青紫「いいですよね、お祖父様」
一縷は少しの間、沈黙すると、頷く。
青紫は笑みを浮かベると、美月を真っ直ぐに見る。
青紫「頼めますか、美月」
美月は少しの間、沈黙すると口を開く。
美月「……また裏切るかもよ」
青紫「もしそうなったのなら、もう一度、止めるだけです」「何度でも何度でも、あなたに喝を入れて差し上げますよ」「優子さんと一緒にね」
優子「えっ……」
面白がりながらそう言った青紫。その言葉に、優子は気後れするも、すぐにいつもの毅然とした態度を見せる。
優子「そうよ。何度だって、止めてみせるわ」
美月「……ちゃんと支えてよね」
青紫「はい」
俯き、ぶっきらぼうにそう言う美月。青紫は穏やかで明るい笑みを浮かべる。
美月は笑いかけてくれる青紫に、照れながらも小さな笑みを浮かべる。
そんな二人を見て、優子の顔にも笑みが浮かぶ。
一縷「さて、一件落着ってことで大丈夫かな?」「美月へのお説教は優子さんがしてくれたし、あとはもう大丈夫だね」
そう言われ、優子は顔を赤くして、体を小さく丸め萎縮する。
優子「本当に申し訳ありませんでした……」
一縷「いやいや、怒ってくれて良かったよ」「ねえ、青紫」
青紫「ええ、怒った優子さんも素敵ですし」
優子「もう……またそう言うこと言って……」
恥ずかしがって、頬を赤く染めそう言う優子に、青紫は幸せそうな笑みを浮かべる。
優子が美月を見ると、美月は気まずそうに優子から目を逸らす。
優子は背立ち上がり、美月の元に行き正面に座ると、凛とした瞳で美月を見る。
優子「美月」
美月は肩をビックとさせると、ゆっくりと優子を見る。
優子「私のこと、お義姉さんとして、家族に迎えてくれる……?」
優子の言葉に、美月はゆっくりと頷く。
美月「うん、こんな僕でいいなら、僕も優子と家族になりたい」
嬉しそうな笑みを浮かべると、優子は美月をそっと抱き寄せる。
美月は息を呑む。※優子の愛を感じ、心が満たされた様子。
美月はぎこちなくも、そっと優子の背中に両手を回す。
そんな二人を、青紫は優しく見守る。
○屋敷・裏庭・昼
椅子に座り、みんなでお茶をしている。
薊「それにしても、お前が巫女の血を引いていたとは驚いたぜ」「珍しい髪色をしているなとは思っていたけどよ」
優子「私も、いまだに実感が湧きません」
優子(私にあんな力があったなんて)
優子「今まで何もなかったのに、どうしてあの時、力が目覚めたんでしょうか」
紅葉「みんなを守りたいって想いが、力を呼び起こしたのかもしれないわね」
優子(想い……そうなのね)
優子は楽しそうにお茶をする、青紫、薊、多江、紅葉、庵、風早、ヨモギを見る。
優子モノ『愛する人たちを守れた。この髪も、力も、あってよかった。今は心から、そう思える』
薊「にしても……まさか本当に美月が頭首になるとはな」
薊は考え深そうに言う。
青紫「あの子なら、頭首として必ず黒羽を守り抜いてくれる」「私の役目は、あの子が迷った時、道を示してあげること。それが、兄というものでしょう」
青紫は口元に小さな笑みを浮かべ、どこか誇らしげにそう言う。
そんな青紫に、薊と紅葉は顔を見合わせると、ほっとしたような笑みを浮かべる。
薊「さてと、じゃあ、今のうちに美月に恩でも売っとかないとな」
そう言い、席を立つ薊。
紅葉「そうね」「紅葉さんが黒羽一門のご頭首になられたのだから、ご挨拶にも行かないとだし
」
言いながら、紅葉も席を立つ。
優子「みなさん、もうお帰りですか?」
きょとんとする優子に、紅葉は優子の肩に手を置き、耳打ちをする。
紅葉「あとは二人で過ごしなさい」
そう言い、紅葉と風早、薊は帰っていく。
青紫「気を遣ってくれたようですね」
優子「はい……」
席を立つ青紫。
青紫「優子さん、少し散歩をしませんか?」
○森の中・花畑
川を渡るのに、飛び石の上を歩く二人、青紫が優子に片手を差し出し、優子は飛び石の上を渡り切る。
青紫に手を引かれ、優子が木々の中を抜けると、一面にエキゾカムの花が広がっている。
美しい花畑に目を奪われ、息を呑む優子。
青紫「毎年、この時期になると、ここで咲いているそうです」「もう終わりぎわですが、優子さんと一緒に見たかったんです」
優子「……すごく綺麗」
優子(小さくて愛らしい花が、こちらに笑いかけているかのよう)(愛おしいわ……)
ふと、青紫の視線を感じ、優子は青紫を見る。
真摯な眼差しで、優子を見つめる青紫。
優子「なんですか……そんなじっと見つめて」
青紫の熱い視線に、照れる優子。
青紫「いや、ガラス玉のような瞳をしているなと思って」※青紫の瞳に、優子が映っている絵。
真っ直ぐに優子を見て、ふと微笑む青紫。
青紫「本当に綺麗だ」
青紫の言葉にドキッとし、顔を赤く染める優子。
優子「……いつもいつも、思うのですが、その突然、褒めるのやめていただけませんか」
青紫「そう言われましても、思ったことをストレートに表現するのが私ですから」
優子(それ、前に私が青紫さんに言ったことじゃない)
優子を見てニコニコとして、楽しそうにする青紫。
優子(また面白がっているわね)
優子「あの……一つ、気になっていることがあって」
青紫「なんでしょう?」
優子「半妖である青紫さんは、どのくらい生きられるのですか」
優子(妖怪の寿命は、人の命があっという間に感じるくらいに長い。半妖である青紫さんは、どうなのかしら。もしかして、あまり長く生きられないのでは)
青紫「事例がないので、何とも言えませんが、おそらく、妖怪の血を引く私は、あなたよりも長い時を生きるでしょう」
優子「そう……ですか」
安堵する優子。
優子(長く生きられるのね。でも、それは私とは同じ時は生きられないってことよね……)
優子「……私も、青紫さんと一緒に生きられたらな……」
ポツリとそう呟き、肩を落とす優子に、青紫は励ますようにニコッと微笑み、優子の片手を取る。
青紫「死が……私たち二人を分つことはありません。私の想いは、あなたの中で生き続ける。あなたの想いも、私の中で生き続ける」「この愛は不滅です」
優子「青紫さん……」
優子の瞳が揺れ動く。青紫の言葉に胸を打たれ、感動する。
浮かび上がる涙を指先で振り払うと、優子は笑顔で青紫を見る。
優子「私、長生きしますね」「ご飯、たくさん食べて、たくさん寝て」「青紫さんと少しでも長く生きられるように頑張ります!」
見つめ合う二人。
優子モノ『いつかくるその時__』『それは、私たち人間が思う以上に早いのかもしれない』『……それでも、私は彼と生きることを選んだことに、後悔はない』
優子(何があっても、私は青紫さんに出会えて、幸せなんだから)
青紫「そうだ、これを」
青紫は何かを思い出したかのようにそう言うと、着物の懐からスカーフを取り出し、優子の肩の上に置く。
優子「これ……!」
青紫「美月に連れ去られた時、落としてしまったようですね」
優子「すいません、青紫さんからいただいた大事なものを」
優子(このスカーフがないと気づいた時、さらに不安になった)
青紫「やはりそのスカーフは、あなたの元にあってこそ輝く」「そのスカーフを買った時、店主に教えてもらいました」「エキゾカム花言葉は__」
優子「あなたを愛します」
青紫は驚いたように目を見開くと、笑みをこぼす。
青紫「ご存知でしたか」
優子はしゃがみ込み、エキゾカムの花を一輪摘む。
立ち上がった優子は、青紫に差し出す。
優子「私も、あなたを愛します」「これから先も、ずっと……」
青紫は優子から差し出されたエキゾカムの花を受け取ると、愛しむような眼差しをその花に向ける。
優子は青紫の片手を自分の頬に当てる。そして、目を閉じ、愛おしそうに青紫の手に擦り寄ると、目を開け、青紫を見つめる。
風が吹き、辺りに広がっているエキゾカムの花が空に舞うと、同時に、青紫の血のように赤い瞳が垣間見える。
青紫は隠すこともなく、その瞳で、優子を見つめ返す。
そして、二人は互いに身を寄せ合う。※最後は引きの絵で終わる。
優子モノ『あの日から一週間が経ち、私たちの日常には、穏やかさが戻ってきた』『あの一件に絡んだ祓い屋は、お祖父様からお咎めを受け、祓い屋としての権利を剥奪され、帝都から姿を消した』『問題は……』
美月の寝室の前で花束を持った優子と青紫に、頭を下げる鶴岡。
鶴岡「申し訳ありません、美月様はご体調が悪く、お会いできないと」
青紫「……そうですか」
優子モノ『一向に、美月が会ってくれないこと』『あの日から、美月は屋敷で療養していた』『お医者様の話では、体は回復し、元の生活を送れるまでになったけど、部屋から出てきてくれない』
浮かない表情をする青紫。そんな青紫の姿を見て、優子は美月にご立腹な様子。
優子(みんなこんなに心配しているのに、いつまでへそを曲げているつもりなの)
優子は青紫に花束を押し付けると、鶴岡を押し退け、襖を開けて勝手に美月の部屋の中に入る。
青紫「ゆ、優子さん?」
青紫と鶴岡は戸惑った様子で、優子を追いかけ、美月の寝室に入る。
座り込み、窓辺で外を眺めていた美月は、驚いた様子で入ってきた優子を見る。
美月「何しに来たのさ、僕、具合が悪いんだけど」「鶴岡、通すなって言ったよね?」
鶴岡「はい……」
そっぽを向き、意地を張る美月。
優子「どこか具合が悪いのよ」「私たちに会わないために、仮病を使っているだけでしょ」
美月「なっ……」
優子の言葉に、美月は苛立つ。
優子「みんながあなたを心配しているのに、あなたはいつまでもうじうじして、こうして部屋に籠って」「ほんとしょうもないわ」
美月「しょうもないだって?」
立ち上がる美月。
美月「お前なんかに何が分かるんだよ」「華族の生まれで、何不自由なく育って、綺麗なお前に、一から色んなものを積み上げてきた僕の何が……」
肩を震わせ歯を食いしばる美月。
美月「誰にも愛されない、頭首にもなれない……」「こんな惨めな人生なら、あの時、死んだ方がましだった ……!!」
青紫「美月……」
優子「……死んだ方がまし……?」「ふざけないでよ……!!」
怒鳴る優子に、一同は驚く。
優子「死んだ方がよかったことなんてない!」「どんなに惨めでも、生きるのよ!」「今日が辛い、明日も辛い、明後日も辛い」「でも……その次には、幸せだって思えることが、待っているかもしれないじゃない!」※青紫に出会い、幸せな優子の絵。
我に変える優子。
優子「あっ…」「すいません、私ってば、出過ぎたことを……」
優子(私ったら……)
一縷「さすがは優子さん、根性があって、素敵だね」
気づくと、一縷が襖のところに立っている。
優子「お祖父様……!」
一縷はにこやかな表情で、青紫と優子を見る。
一縷「少し、いいかな?」「美月、お前も来なさい」
○黒羽家・当主別邸
優子と青紫が並び、一縷と正面に向かい合う。少し離れたところで、美月も正座している。
一縷「まずは、礼を言わせてほしい」
そう言い、一縷は頭を下げる。
驚き、焦る優子と青紫。
一縷「青紫、優子さん、此度のこと、二人のおかげで、災いは免れた」「本当にありがとう」
青紫「顔を上げてください、お祖父様」
優子「そうですよお祖父様」
一縷はゆっくりと顔を上げる。
一縷「この子がやったことは、決して許されることではない」「だが、この子が全て悪いわけじゃない。私にも責任がある」
一縷の言葉に、申し訳なさそうに顔を俯ける美月。
一縷「美月にはこれから先、許されるように、黒羽の尽力させるつもりだ」
一縷のその言葉を聞き、青紫は「ふっ」と目を伏せる。
青紫「そうですね……美月には、黒羽のために生きてもらう必要がある。今までのように」「やはり、頭首は美月が相応しいですし」
美月「何言って……」
意味が分からないという顔をする美月。
美月「同情しないでよ!」
青紫「同情じゃありません」
美月「僕は優子を攫って、兄さんのことを殺しかけたんたんだよ?」「それだけじゃない、みんなを危険な目に遭わせた」「それなのに……僕を頭首にだなんて、頭がおかしくなったんじゃないの?」
そう言い、自嘲した笑みを浮かべる美月。
青紫「自分が過ちを犯したと認め、悔いることができるあなたなら、誰よりも黒羽のために尽力できる」「……それに、私は頭首という柄じゃなありません」「私は影から、黒羽を支えたい」
優子(青紫さん……)
青紫は一縷を見る。
青紫「いいですよね、お祖父様」
一縷は少しの間、沈黙すると、頷く。
青紫は笑みを浮かベると、美月を真っ直ぐに見る。
青紫「頼めますか、美月」
美月は少しの間、沈黙すると口を開く。
美月「……また裏切るかもよ」
青紫「もしそうなったのなら、もう一度、止めるだけです」「何度でも何度でも、あなたに喝を入れて差し上げますよ」「優子さんと一緒にね」
優子「えっ……」
面白がりながらそう言った青紫。その言葉に、優子は気後れするも、すぐにいつもの毅然とした態度を見せる。
優子「そうよ。何度だって、止めてみせるわ」
美月「……ちゃんと支えてよね」
青紫「はい」
俯き、ぶっきらぼうにそう言う美月。青紫は穏やかで明るい笑みを浮かべる。
美月は笑いかけてくれる青紫に、照れながらも小さな笑みを浮かべる。
そんな二人を見て、優子の顔にも笑みが浮かぶ。
一縷「さて、一件落着ってことで大丈夫かな?」「美月へのお説教は優子さんがしてくれたし、あとはもう大丈夫だね」
そう言われ、優子は顔を赤くして、体を小さく丸め萎縮する。
優子「本当に申し訳ありませんでした……」
一縷「いやいや、怒ってくれて良かったよ」「ねえ、青紫」
青紫「ええ、怒った優子さんも素敵ですし」
優子「もう……またそう言うこと言って……」
恥ずかしがって、頬を赤く染めそう言う優子に、青紫は幸せそうな笑みを浮かべる。
優子が美月を見ると、美月は気まずそうに優子から目を逸らす。
優子は背立ち上がり、美月の元に行き正面に座ると、凛とした瞳で美月を見る。
優子「美月」
美月は肩をビックとさせると、ゆっくりと優子を見る。
優子「私のこと、お義姉さんとして、家族に迎えてくれる……?」
優子の言葉に、美月はゆっくりと頷く。
美月「うん、こんな僕でいいなら、僕も優子と家族になりたい」
嬉しそうな笑みを浮かべると、優子は美月をそっと抱き寄せる。
美月は息を呑む。※優子の愛を感じ、心が満たされた様子。
美月はぎこちなくも、そっと優子の背中に両手を回す。
そんな二人を、青紫は優しく見守る。
○屋敷・裏庭・昼
椅子に座り、みんなでお茶をしている。
薊「それにしても、お前が巫女の血を引いていたとは驚いたぜ」「珍しい髪色をしているなとは思っていたけどよ」
優子「私も、いまだに実感が湧きません」
優子(私にあんな力があったなんて)
優子「今まで何もなかったのに、どうしてあの時、力が目覚めたんでしょうか」
紅葉「みんなを守りたいって想いが、力を呼び起こしたのかもしれないわね」
優子(想い……そうなのね)
優子は楽しそうにお茶をする、青紫、薊、多江、紅葉、庵、風早、ヨモギを見る。
優子モノ『愛する人たちを守れた。この髪も、力も、あってよかった。今は心から、そう思える』
薊「にしても……まさか本当に美月が頭首になるとはな」
薊は考え深そうに言う。
青紫「あの子なら、頭首として必ず黒羽を守り抜いてくれる」「私の役目は、あの子が迷った時、道を示してあげること。それが、兄というものでしょう」
青紫は口元に小さな笑みを浮かべ、どこか誇らしげにそう言う。
そんな青紫に、薊と紅葉は顔を見合わせると、ほっとしたような笑みを浮かべる。
薊「さてと、じゃあ、今のうちに美月に恩でも売っとかないとな」
そう言い、席を立つ薊。
紅葉「そうね」「紅葉さんが黒羽一門のご頭首になられたのだから、ご挨拶にも行かないとだし
」
言いながら、紅葉も席を立つ。
優子「みなさん、もうお帰りですか?」
きょとんとする優子に、紅葉は優子の肩に手を置き、耳打ちをする。
紅葉「あとは二人で過ごしなさい」
そう言い、紅葉と風早、薊は帰っていく。
青紫「気を遣ってくれたようですね」
優子「はい……」
席を立つ青紫。
青紫「優子さん、少し散歩をしませんか?」
○森の中・花畑
川を渡るのに、飛び石の上を歩く二人、青紫が優子に片手を差し出し、優子は飛び石の上を渡り切る。
青紫に手を引かれ、優子が木々の中を抜けると、一面にエキゾカムの花が広がっている。
美しい花畑に目を奪われ、息を呑む優子。
青紫「毎年、この時期になると、ここで咲いているそうです」「もう終わりぎわですが、優子さんと一緒に見たかったんです」
優子「……すごく綺麗」
優子(小さくて愛らしい花が、こちらに笑いかけているかのよう)(愛おしいわ……)
ふと、青紫の視線を感じ、優子は青紫を見る。
真摯な眼差しで、優子を見つめる青紫。
優子「なんですか……そんなじっと見つめて」
青紫の熱い視線に、照れる優子。
青紫「いや、ガラス玉のような瞳をしているなと思って」※青紫の瞳に、優子が映っている絵。
真っ直ぐに優子を見て、ふと微笑む青紫。
青紫「本当に綺麗だ」
青紫の言葉にドキッとし、顔を赤く染める優子。
優子「……いつもいつも、思うのですが、その突然、褒めるのやめていただけませんか」
青紫「そう言われましても、思ったことをストレートに表現するのが私ですから」
優子(それ、前に私が青紫さんに言ったことじゃない)
優子を見てニコニコとして、楽しそうにする青紫。
優子(また面白がっているわね)
優子「あの……一つ、気になっていることがあって」
青紫「なんでしょう?」
優子「半妖である青紫さんは、どのくらい生きられるのですか」
優子(妖怪の寿命は、人の命があっという間に感じるくらいに長い。半妖である青紫さんは、どうなのかしら。もしかして、あまり長く生きられないのでは)
青紫「事例がないので、何とも言えませんが、おそらく、妖怪の血を引く私は、あなたよりも長い時を生きるでしょう」
優子「そう……ですか」
安堵する優子。
優子(長く生きられるのね。でも、それは私とは同じ時は生きられないってことよね……)
優子「……私も、青紫さんと一緒に生きられたらな……」
ポツリとそう呟き、肩を落とす優子に、青紫は励ますようにニコッと微笑み、優子の片手を取る。
青紫「死が……私たち二人を分つことはありません。私の想いは、あなたの中で生き続ける。あなたの想いも、私の中で生き続ける」「この愛は不滅です」
優子「青紫さん……」
優子の瞳が揺れ動く。青紫の言葉に胸を打たれ、感動する。
浮かび上がる涙を指先で振り払うと、優子は笑顔で青紫を見る。
優子「私、長生きしますね」「ご飯、たくさん食べて、たくさん寝て」「青紫さんと少しでも長く生きられるように頑張ります!」
見つめ合う二人。
優子モノ『いつかくるその時__』『それは、私たち人間が思う以上に早いのかもしれない』『……それでも、私は彼と生きることを選んだことに、後悔はない』
優子(何があっても、私は青紫さんに出会えて、幸せなんだから)
青紫「そうだ、これを」
青紫は何かを思い出したかのようにそう言うと、着物の懐からスカーフを取り出し、優子の肩の上に置く。
優子「これ……!」
青紫「美月に連れ去られた時、落としてしまったようですね」
優子「すいません、青紫さんからいただいた大事なものを」
優子(このスカーフがないと気づいた時、さらに不安になった)
青紫「やはりそのスカーフは、あなたの元にあってこそ輝く」「そのスカーフを買った時、店主に教えてもらいました」「エキゾカム花言葉は__」
優子「あなたを愛します」
青紫は驚いたように目を見開くと、笑みをこぼす。
青紫「ご存知でしたか」
優子はしゃがみ込み、エキゾカムの花を一輪摘む。
立ち上がった優子は、青紫に差し出す。
優子「私も、あなたを愛します」「これから先も、ずっと……」
青紫は優子から差し出されたエキゾカムの花を受け取ると、愛しむような眼差しをその花に向ける。
優子は青紫の片手を自分の頬に当てる。そして、目を閉じ、愛おしそうに青紫の手に擦り寄ると、目を開け、青紫を見つめる。
風が吹き、辺りに広がっているエキゾカムの花が空に舞うと、同時に、青紫の血のように赤い瞳が垣間見える。
青紫は隠すこともなく、その瞳で、優子を見つめ返す。
そして、二人は互いに身を寄せ合う。※最後は引きの絵で終わる。
