○優子・過去回想シーン
優子モノ『初めて彼に会った時。彼は私とは異なる人だと思った』『自分の能力を理解し、その存在を認めてくれる人が傍にいる』『でも、それは違った。彼も私と同じだった』『常に他者から否定され、この世界に自分の居場所がない、孤独を抱えていた』

○廃墟・夕方
地面に横たわっていた優子が目を覚まし、上体を起こす。
厄の妖怪がいなくなり闇が消え去り、辺りは見晴らしが良くなっている。

薊「目が覚めたか」

優子の近くに座り込む薊。
優子の視線の先には、横たわる美月。

優子(美月……)

薊「心配するな、生きてる」「強力な封印を解いたから、ぶっ倒れただけだ」「お前は俺と一緒にこの森を出て、黒羽に戻る」「ここにいるより、屋敷にいる方がお前も安全だ」

思い詰めた顔をする優子。

薊「気持ちは分かるが、お前には何もできない」「……俺にも」

そう言い、薊は悔しそうにすると、立ち上がる。

薊「俺は美月を担がなきゃ行けねぇから、お前は自分の足で歩けよ」「こいつは置いていく、助ける義理も、情もねぇからな」

そう言い、薊は夜会にいた男を見下ろす。

優子(何もできないことは分かってる……でも……)

両手を握りしめる優子。

優子(強く優しいあの人を、私は守らないといけない)

薊「おい、ちんたらするな、行くぞ」

立ち上がった優子は、俯きながら、美月の前にいる薊の前まで来る。

優子「本当はこんなこと、したくないんですけど」「仕方がないです」
薊「あ……?」

首を傾げる薊。顔を上げた優子は、思いっきり、薊の大事なところを蹴り飛ばし、走り出す。
悶絶する薊。

薊「っ……!!」「お前っ……!!」
優子「薊さん、ごめんなさい」「私、やっぱり、青紫さんを一人で戦わせられない!」

そう言うと優子は走り去る。

薊「あっ、おい待て……っ!」

痛みを堪えきれない薊。

薊「クソっ……!」

○森の中
※外は雨が止んでいる。

廃墟を出た優子は、走りながら空を見上げる。
風が強く、雨のせいでどんよりとした、灰色の雲。その一部が黒い漆黒の覆われている。漆黒の中に、青い光を見つける。

優子(あそこに青紫さんがいるんだわ)

必死に走る優子。

優子(もっと早く走りたいのに、足が前に進んでくれない)

優子「あっ……!」

小石に躓き、転ぶ優子。水たまりに倒れ、泥水で顔と着物が汚れる。
草履を脱ぎ捨て、着物の帯を取り、着物を脱ぎ捨て、肌着になると、走り出す優子。

優子(早く……早く青紫さんの元に)

ヨモギ「優子……!」

どこからともなくヨモギの声が聞こえてきて、辺りを見回し、優子は後ろを振り向くと、そこには、紫苑の背中に乗ったヨモギがいる。
足を止める優子。

優子「ヨモギ?」「どうしたあなたがここに……」「多江さんは?」「多江さんは無事なの?」
ヨモギ「安心しろ、薊が使役している妖怪が傍についている」

多江の無事を知って、優子は安堵する。

ヨモギ「こいつが、ここまで連れてきてくれたんだ」

そう言い、ヨモギは機嫌良く、紫苑の背中を軽くポンと叩く。 

優子(白い、竜……)(すごく綺麗……)

優子「あなたは……?」

紫苑は少し身を屈め、優子を見る。

紫苑「お前があの子の嫁か」「あの子は美人だと言っていたが……」「普通だな」

乱れた髪に、泥だらけ優子の顔を見て、紫苑はおもしろそうに言う。

紫苑「乗れ、あの子の元まで行くんだろ」「私の背に乗った方が早い」

地面に伏せる紫苑。優子がヨモギを一瞥すると、ヨモギは力強く頷く。
優子が紫苑の背に乗ると、紫苑は徐々に浮遊し、空へ飛ぶ。

紫苑「小物、小娘、しっかりと掴まれ」

優子はヨモギ片手を差し出す。

優子「この方が安全でしょ」
ヨモギ「すまない、ありがとう優子」

ヨモギは差し出された優子の片手にちょんと乗ると、優子は肌着の袖の中にヨモギを入れる。
紫苑は徐々に浮遊すると、空に飛ぶ。
漆黒が大きくなるにつれ、青い光も強さを増す。
少しの間、飛んでいると、紫苑は口を開く。

紫苑「紅葉に頼まれたんだ」
優子「紅葉さんが……?」
紫苑「対価は払うから、お前の力になってくれと」「対価など払わなくても、可愛い息子のためなら私は力を貸したが、面白そうだから、話に乗ると言ってやった」
優子「かわいい息子……」「じゃあ、あなたが青紫さんを育てたっていう」

優子の言葉に、紫苑はおかしそうに目を伏せる。

紫苑「そんな大層なものじゃないさ」「私はただ、半妖のあの子が一人でも生きていけるように、異能の使い方や、祓い術をかける相手をしてやっただけさ」「一人では、生きていくことにならなかったようだが」

そう言い、紫苑は嬉しそうに口元に小さな笑みを浮かべる。

優子「あの、もしよければ、名前を教えてくれないかしら」
紫苑「は?」「悪いが、風の音でよく聞こえない」「もっと大きな声で話してくれ」
優子「名前、なんていうのですか……!」

強い風に耐えながら、優子は問う。その問いに、紫苑はお腹から大きな声を出して笑う。
そんな紫苑に、優子は少し拗ねたように眉間に皺を寄せる。

優子「そんなにおかしいことじゃないでしょ、名前くらい」
紫苑「人間が妖怪に名前を尋ねるなんて、そうないさ」「お前は変わり者だな」

優子の懐にいたヨモギが、ひょっこり顔を出す。

ヨモギ「おいらも聞かれた時は、驚いたものだ」「でも、やっぱり嬉しいものだ」「名というものは、妖怪にとっても、特別だからな」
紫苑「……そうか」「そんなお前だから、あの子も心を開いたんだろうな」※優子には聞こえていない。
優子「何か言った?」
紫苑「いや、なんでもない」
優子「それで、名前は教えてくれるの? くれないの?」
紫苑「紫苑だ」
優子「え?」

前のめりになり、耳を澄ます優子。

紫苑「私の名は、紫苑という」
優子「紫苑……あなたも素敵な名だわ」
紫苑「漢字というものは、紫に苑」「青紫がつけてくれた」
優子「青紫さんが?」
紫苑「ああ……」「おかしいよな、子供が親に命名なんて」

そう言い、紫苑は楽しそうに笑う。

○紫苑・過去回想シーン
少年の青紫が筆を取り、和洋紙に自分の名前を書くと、紫苑に見せる。

目を凝らし、和洋紙を見る紫苑。

シオン「これは……なんて読むんだ?」
青紫「あおし」「私の母がつけてくれた、私の名です」
シオン「へー、どんな意味が込められているんだろうな」
青紫「さあ? それは分かりませんが」「祖父の話だと、この字には、希望という意味が込められているとか」
シオン「希望……」「なんだか、良い響きだな」

腑に落ちず、パッとしない顔をする青紫に、紫苑は愛情を向けるようにすり寄る。

シオン「きっと、お前の母親は、お前の幸せを願ったんだろうな」
青紫「……そうでしょうか」

少し考え込むと、青紫は再び筆を手に取り書く。そして、紫苑に見せる。
そこには紫苑と書かれている。

青紫「私と同じ紫という漢字を使いました」「苑には、囲いという意味があります」「あなたはこの森一体のボス的な存在ですから、ピッタリでしょう?」

そう言って、青紫は笑みを浮かべる。

青紫「私からのプレゼントです」「紫苑」

楽しそうに笑う青紫。和洋紙を見つめる紫苑。

紫苑「……ああ、そうだな」「ありがとう、愛おしい息子」

そう言い、紫苑は目を閉じ、青紫に自分の額をつける。青紫も目を閉じる。

紫苑モノ『私も願いうよ、青紫』『お前の生きる道が、幸せであるようにと』

○現在に戻る
紫苑が昔話に老けていると、風が緩やかになる。

優子「何、急に風が弱まった」
紫苑「風早だな」「私が上手く飛べるように、風の抵抗をなくしてくれているのだ」

※森で、風早が異能を使っている。傍には、紅葉の姿もある絵。

優子(風早……ありがとう)

紫苑「私の異能で、ここら一体に結界を張っている。そうすぐには災いは広がらないだろう」「帝都とこの近隣の街には、黒羽と漆原がいる」

※一縷と庵を含めた黒羽一門が帝都で、紅葉の父親を含めた漆原一門が近隣の街で災いに備えている絵。

紫苑「だが、私もいつまで持ち堪えられるか分からない」「早くあの妖怪を壺に封印しなおさなければ」

優子の両手に力がが入る。

紫苑「風は味方になった」「スピードを上げる、しっかり掴まれ!」
優子「はい……!」

紫苑は一気にスピードを上げる。

○空中・厄の妖怪の上
青紫は厄の妖怪の上に立っている。

青紫「っ……!」

厄の妖怪の体には、青紫の異能で、氷の矢が刺さっていて、氷で動きを止められている。
厄の妖怪からは邪悪は邪気と妖気が出ていて、森の木や川の水を死なせている。
逃げ遅れた妖怪が、邪気に飲まれてしまっている。

青紫(もっと抑え込まなければ、さらに犠牲者が出る)

青紫は異能を使おうとするが、咳き込み、片膝をつく。

青紫「ゲホッ……!」

口元で片手を押さえ、手を見ると、血がついている。※力を使いすぎている青紫は、吐血してしまう。

青紫(思っていたよりも、この体で異能を使うのは危ういようだ……)

それでも、青紫の攻撃の手を緩めない。厄の妖怪から離れ、飛び立った青紫は、両手から氷の結晶を出し、厄の妖怪を囲い込む。結晶を体の中に埋め込むと、厄の妖怪の中で爆発させる。
厄の妖怪は悲鳴を上げる。

青紫「ゲホゲホッッ……!!」

飛びながら、さらに吐血した青紫の顔には、霜ができ、吐かれる吐息は白く凍えるように冷たい。

青紫(こんな姿になってまで、まだ戦うなんてな)(かつての自分なら、こんなことはできなかった)※優子の笑顔が青紫の頭に浮かぶ。(……母さん、私、やっと分かりました)

青紫モノ『ずっと……母のことを愚かな人だと思っていた』『地位も名声も、何もかも捨てて、妖怪である父と一緒になるなんて』『でも、今なら分かる』『たとえ全てを失ってでも、守りたい人がいる』

青紫は自分を奮い立たせ、力を振り絞る。

○空中・紫苑の上
漆黒に近づく優子たち。
何かに気づく優子。

優子「あれ……!」

優子が指差した先には、異能を使い、一人、厄の妖怪に立ち向かう青紫がいる。

紫苑「あそこか」

紫苑は慎重に厄の妖怪に近づく。

ヨモギ「そうだ」「優子、これを紅葉から預かってきたんだ!」

ヨモギは懐から、折り畳まれた小さな札を取り出すと、優子の着物の袖から出てくる。
優子の肌着に捕まりながら、腕をよじ登り肩までくると、札を広げ、優子の額に貼る。
札は赤く光ると消え、優子の額に連なった黒い文字が浮かぶ。

ヨモギ「魔除けの術が施されている」「優子はおいらたち妖怪と同じくらい妖気が強いから、妖気に当てられやすい」「だから、紅葉が札に術を書き記して、優子に使えって言ってくれたんだ」「自分はここには来られなけど、せめてもって」

優子(紅葉さん……ありがとうございます)

紫苑「いくら術があるとはいえ、大丈夫な訳じゃない」「それを忘れるなよ」
優子「……ええ」
紫苑「おそらく、あの子は異能を使いすぎている、私が代わってやるから、その間、お前は少しでもあの子を休ませろ」「だが、妖怪も人間同様、邪気の影響は受ける、お前も私も、触れてしまえば終わりだ」「……悔しいが、あの妖怪を止められるのは、あの子だけだ」「人と、妖怪の血を引き、異能を使うあの子だけ」
優子「……青紫さん」

優子は肩にそっと触れる。スカーフがないことに気づき、不安がさらに募る。
優子は身をかがめ、紫苑を見る。

優子「紫苑、私は覚悟はできてる」「できる限り、青紫さんに近づいて」「私が、青紫さんを無理矢理にでも、あの妖怪から引き離すわ」

横目で優子を見る紫苑。

紫苑(一点の濁りもない、真っ直ぐな瞳……)(この小娘は、今までいったいどれだけのことに耐え、努力してきたのだろうか)

紫苑は優子の覚悟を感じ取ると、青紫へ一気に近づく。

優子「青紫さん……!!」

優子を見た青紫は大きく目を見開く。

青紫「優子さん……どうして」

近づいてくる優子に、青紫は動揺する。優子は青紫に片手を差し出す。

優子「捕まって……!!」

青紫は言われるがまま、優子の手を掴むと、そのまま紫苑の背の飛び乗る。

○地上・森
紫苑は厄の妖怪から離れ、地上に降り立つ。

青紫「はぁ……はぁ……はぁ……」

青紫の体は氷に包まれ、息が上手くできない青紫。※力を使いすぎて、姿は半分、人間の姿に戻る。血のように赤い両目はそのまま。

優子「青紫さん……!」

優子は青紫の背に手を回す。

優子「っ……!」

優子(顔や体に霜が出ている。息も白く、冷え切っている)(……これは、かなりまずい状態だわ)

紫苑「小娘、青紫を連れて私から降りろ!」

優子は青紫の肩に腕を回し、青紫を紫苑から降ろす。

ヨモギ「おいらはお前と一緒に行く」
紫苑「いいのか小物」「命がどうなるか分からんぞ」
ヨモギ「おいらだって妖怪だ。ここで立ち向かわなきゃだろ」

紫苑は満足げに鼻で笑うと、そのまま、ヨモギを背に乗せ、厄の妖怪に向かっていく。

青紫「どうして来たんですか!」「あなたを守るために、あの場を離れたというのに……ゲホォゲホォッ……」
優子「青紫さん……!」

咳き込む青紫の背中を摩る優子。
吐血しながらも、青紫はなんとか息を整える。

優子「ごめんなさい……」「でも、青紫さんが命懸けで戦っているのに、ただ見ているだけなんて、できなかったんです」

青紫の体はどんどん氷に覆われていく。
寒さで、唇の色は紫色に変わり、体もガクガクと震える。

優子(異能が……青紫さんの体を蝕んでいる)(このままでは、本当に青紫さんが死んでしまう)

優子は咄嗟に青紫を抱き締める。

青紫「何をしている離れて……!」
優子「嫌! 離れないわ!」

優子は抱擁を強める。
優子の体にも霜が出始め、息が苦しくなる。

優子「うっ……!っ……」

優子(肺が……凍ったように冷たい……)

青紫「優子さん……!!」

苦しさに耐え、優子は青紫を抱きしめ続ける。

青紫「私のことはいいから! このままでは、あなたも死んでしうまう!」
優子「それでも構わないっ……!」「あなたと一緒なら、死ぬことなんて怖くない……!!」

息が苦しくなっても、優子は必死に言葉を紡ぐ。

優子「っ……私たちは、何があっても、最後まで一緒でしょ……?」

苦しくても、笑みを浮かべて青紫にそう言う優子。
体を震わせながらも、優子は力一杯、青紫を抱きしめ続ける。
青紫の片目から、すーっと涙が流れ、優子の愛に、青紫の視界は涙でぼやける。
すると、優子の体から黄金色の光が溢れる。
光はどんどん強さを増し、二人を包み込み、体を回復させていく。

青紫「これは……まさか……治癒の力?」
優子「治癒……?」
青紫「優子さん、あなた、巫女の血を引いていられたのですね」

優子は自分から発せられる黄金色の光に驚き、両手を見つめる。

優子(霜が消えてる……)(それに、息もしやすい)

驚いた優子は青紫を見ると、青紫にもあったはずの霜が消え、顔色も良くなっている。

優子(これが、私にあった特別な力……?」)

ぶつかり合う、大きな物音が聞こえ、空を見上げると、紫音が厄の妖怪にぶつかり、結界を出るのを止めようとしている、邪気に触れ、黒くなっていく紫苑の体。
思わず、立ち上がる優子。

優子「あのままでは紫苑が……!」

青紫は優子の片手を掴む。

青紫「優子さん、意識を集中させて、イメージするんです」「守りたいものを、救いたい人たちを」「大丈夫、あなたならきっとできる」

優子は頷くと、目を閉じる。
まずは紫苑に意識を集中させる。

優子(紫苑……)

優子から黄金色の光が放たれ、少しずつ紫苑まで届く。
紫苑から徐々に邪気が消えていき、弱っていた体が力を取り戻す。
目を開け、パッと明るい笑みを浮かべ、青紫を見る優子。

青紫「その調子です」

優子はさらに紫苑に意識を集中させる。紫苑の体を守るように優子の黄金色の光が包み込む。

青紫(あの力は治癒だけではなく、盾にもなれるのか)(優子さん、あなたは本当にすごい力をお持ちだったのですね)

紫苑は今まで以上に力を発揮し、紫苑の力に押され、厄の妖怪は帝都から引き離され、結界の中に戻っていく。

優子(もっと、もっとこの力を広げないと)

優子は力を込め、黄金色の光が厄の妖怪を包み込み、少しずつ、厄の妖怪が小さくなりはじめる。

青紫「今ならいける」

立ち上がる青紫。そこに薊がやって来る。

薊「青紫……!!」
青紫「薊!」「いいところに来ましたね」

薊は優子を見て驚く。

薊「あいつ、こんな力を隠し持ってやがったのか」
青紫「今のうちに、あの妖怪を封印します」

薊はポケットから壺を取り出し、青紫に投げる。

薊「じゃあ、これが必要だろ」

壺を受けとった青紫は口元に笑みを浮かべる。

青紫「お祖父様、ご立腹なさるのではないですか」「お気に入りだったでしょうに」
薊「まあーな」「でも、世界の一大事だ。ここで使わないで、どこに使うんだよ」
※壺は、薊の祖父が大切に保管していた封印専門の強力なもの。
青紫「ありがとう、薊」
薊「……ああ」

青紫は壺を手に、優子の隣に並ぶと優子の手を取り握る。
優子と青紫の二人を黄金色の光が包み込む。
二人は互いを見合うと頷く。
青紫は壺を片手に構えると目を閉じ、呪文を唱える。

青紫「__汝、我が声に耳を傾けよ」

青紫の呪文に、厄の妖怪は抵抗し、邪気を飛ばしてくるが、優子の盾に跳ね返さられてしまう。
青い光が放たれ、厄の妖怪は壺に吸い込まれていく。

青紫「っ……!!」

厄の妖怪の力に押されそうになる青紫。優子は青紫の手をぎゅっと握り、青紫の持つ壺に片手を添える。
青紫も、優子の手をぎゅっと握り返す。
優子は意識を青紫だけい意識を向け守る。

青紫「静まりたまえ静まりたまえ……!!」

青紫の青い光と優子の黄金色の光が重なり合い、強い光が放たれる。
厄の妖怪は壺の中に吸い込まれ、封印される。

青紫「……やったか」

力が抜け、青紫はその場に崩れ落ちる。

優子「青紫さん!」

かがみ込んだ優子は青紫の背中に片手を置く。
青紫は優子を見上げると、笑みを浮かべる。
優子は今にでも泣き出しそうな顔をしながら、青紫を見つめる。
どんよりとしていた雲は晴れ、夕暮れ時の太陽が顔を出し、温かい日差しが二人に降り注ぐ。
優子が青紫の体を支えながら、二人は立ち上がる。

優子は「帰りましょう青紫さん、私たちの家に」「みんなが待つあの場所に」
青紫「ええ……帰りましょう」

微笑み合う二人を、薊は後ろで静かに見守る。そこに、ヨモギを乗せた紫苑が優子たち元へやってきて、みんなで笑い合う。