○森・昼
ヨモギを肩に乗せ、森を歩く優子。
季節は秋に移り変わり、森には紅葉が広がる。

優子「本当にこの先なのよね?」
ヨモギ「ああ、もう少し行った先だ」

優子モノ『見せたいものがあると言われ、ヨモギと共に、森を訪れていた』

ヨモギ「ここだ」「下ろしてくれ」

優子がその場にしゃがみ込むと、ヨモギは近くにあった石に飛び乗り、階段にして地面を降りると、茂みをかき分ける。
優子はしゃがみ込んだまま、後ろからヨモギの様子を見守っている。

ヨモギ「ほら見ろ!」

茂みからひょっこりと顔を出したヨモギは、茂みの中を指差し言う。
優子が茂みの中を覗くと、そこには艶のあるどんぐりや、熟した木の実がたくさんある。

優子「わぁ……!」「これ全部、ヨモギが集めたの?」

ヨモギは両腕を腰にあて、誇った顔をする。

ヨモギ「そうだ」「全ておいらが一人で集めたんだ」
優子「すごいわヨモギ!」

優子に褒められると、ヨモギは嬉しそうに笑みを浮かべる。

ヨモギ「屋敷の木の実も美味いけど、あいつに会うのは癪だからな」※屈託のない笑みを浮かべ、ヨモギを見下ろす青紫の絵。

優子「ふふふっ」

そんなヨモギを見て、楽しそうに笑う優子。

優子『ヨモギは今、この森を棲み家として暮らしている』『時間があると私を屋敷まで呼びに来て、こうして、一緒に森で過ごしている』

ヨモギ「優子になら、あげてもいいぞ」
優子「え、いいの?」

腕を組むヨモギ。

ヨモギ「もちろんだ」「おいらと優子の友情の証だ」「好きなものをやる!」
優子「ありがとう」「じゃあ、一ついただくわね」
ヨモギ「おう!」

優子(どれがいいかしら)

悩む優子。

優子「じゃあ、このどんぐりにするわ」

そう言い、優子がどんぐりに手を伸ばしたその時だった。
強い風が吹き、どんぐりや木の実が吹き飛ばされる。

ヨモギ「あっ……!」「おいらのどんぐりが……!」

言いながら、ヨモギも宙に浮き、飛ばされそうになるが、優子がヨモギをキャッチし、両手で包み込み、地面に伏せる。

優子(急にこんな風が吹くなんて……!)

しばらく地面に伏せていると風は止み、優子は安堵のため息をつく。

優子「ふぅ……」「ヨモギ、平気?」

手の中に隠していたヨモギは、丸めていた体を戻す。

ウサギ「平気だ」「優子は大丈夫か?」
優子「ええ」「それにしても、いきなりすごい風だったわね」

辺りを見回す優子。すると後ろから声がする。

?「あら?」「優子さん……?」

振り向くと、そこには紅葉の姿がある。

優子「紅葉さん……」
紅葉「奇遇ね、こんなところで会うなんて」
?「__紅葉」

茂みから白い翼が生えた、妖怪が現れる。

優子(翼……)(あれは、妖怪)

?「奴らは消えた、もうここにはいない」
紅葉「そう……」「一度、引き上げるしかないわね」

優子の肩に登ってきたヨモギは、優子の耳元で聞く。

ヨモギ「あいつら知り合いか?」
優子「ええ……」「祓い屋の漆原紅葉さんよ」

苦い顔をするウサギ。

ヨモギ「うげっ!」「祓い屋かよ……」「どうりで嫌な感じがしたわけだ」「こんな奴らと関わってないで、早く行こう」
優子「……そうね」

立ち上がり、その場を後にしようとする優子。

紅葉「優子さん」

紅葉の声に、足を止める優子。

ヨモギ「無視だ、行くぞ」

優子は小さく頷き、歩き出すが。

ヨモギ「うぎゃあああ……!!」

ヨモギの悲鳴が聞こえたかと思うと、いつの間にか、ヨモギが白い翼の妖怪に指で摘み上げられている。

優子(いつの間に……!)

よもぎ「優子〜!」

ヨモギは泣きそうな顔をしながら、優子に助けを乞う。

優子「その子を離して!」「嫌がっているわ」
?「主人を無視するからだ」

白い翼の妖怪は、泣き叫ぶヨモギを一瞥することもなく、淡々とした態度で言う。
優子がヨモギを掴もうとすると白い翼の妖怪はするりとそれをかわす。食い下がらず、優子は何度も掴もうとするが、相手にならない。

紅葉「風早、よしなさい」

紅葉がそう言うと、風早と呼ばれた妖怪は、興味を失ったように、ヨモギをパッと離す。
ヨモギは盛大に地面に尻餅をつく。

風早(かぜはや)紅葉の使役する天狗の妖怪で紅葉とは恋仲 風の異能が使える 

優子「ヨモギ……!」

駆け寄り、しゃがみ込む優子。
ヨモギはお尻を摩り痛がっている。

優子「何もこんな乱暴にすることないでしょう」
風早「最初から止まっていればよかったんだ」
優子「なんですって?」

立ち上がり、風早を睨む優子。
そんな優子を、風早は冷めた目で見下ろす。
優子も負けじと、睨み続ける。

紅葉「もうやめなさい」「すぐ人に突っかかるのは、おまえの悪いところよ」

紅葉がそう言うと、風早は優子から顔を背ける。

紅葉「ごめんなさいね、優子さん」「この子、私のためとなったら、手段を選ばないところがあって」
優子「……野蛮ですね」

優子の言葉に、紅葉は納得したように笑う。

紅葉「ええ、そうね」「よかったら、お茶でもどうかしら?」
優子「すいません、今日はちょっと」
紅葉「私のことを好いていないのは分かるわ」「何せ、私はあなたの夫の婚約者だったのだから」

硬い優子の表情を見て、紅葉はクスリと笑う。

紅葉「でも、話をすれば、そうでもなくなるはずよ」
優子「そうでしょうか」
紅葉「ええ」
優子「……」

優子(引く気はないって感じね)(断りたいけど、青紫さんのために、漆原家を敵に回すようなことはしない方がいいのかもしれない)(……仕方がないわ)

小さくため息をつく優子。

優子「夕飯の支度があるので、少しだけなら」

優子がそう言うと、紅葉にっこり笑う。

紅葉「よかった」「じゃあ行きましょう」

歩き始める紅葉、そのすぐ後ろに風早が歩く。
優子はヨモギを肩に乗せると、後に続く。

○屋敷・裏庭
花が咲いている裏庭で、テーブルを挟み、椅子に座りお茶をする優子と紅葉。テーブルの上にはヨモギがいて、優子のカップの近くに座ってお菓子を食べている。風早は少し離れたところに立っている。

優子「で、どうしてうちなんですか」
紅葉「だって、帝都まで行くのは時間がないし、田舎町にはお茶できるところはないし、ここなら、あなたも時間を気にせずいられるでしょう?」
優子「そうですけど……」

優子(だからってお屋敷って……)

紅葉「いいお庭ね、あなたのために用意したのでしょうね」

紅茶のカップを片手に、紅葉は辺りを見まわし言う。

紅葉「青紫さん、あなたのこと、本当に大事に想っているみたいね」

言いながら、紅葉は笑みを浮かべる。

優子「話があって、私を引き留めたのではないのですか」

紅葉はゆっくりとカップをソーサーの上に置く。

紅葉「敵意剥き出しって感じね」「まぁ無理もないわよね、元婚約者なんて、妻からしたら、気分のいいものではないでしょうし」「でも安心して、私たちの間には、何もなかったの」
優子「……どういうことですか」

紅葉は考えるように少しだけ間を空けると、話だす。

紅葉「私、好きな人がいるの」「相手は、妖怪よ」
優子「え……妖怪って……」

紅葉の視線が木の下で涼む風早に向く。

優子(まさか、あの妖怪のことを……)

紅葉「父の言いつけで、青紫さんとお見合いすることになった」「でも、彼はすべてを見抜いていたわ」「私に、特別な相手がいると」

○紅葉・過去回想シーン 青紫とのお見合い
和室で着飾った紅葉が青紫と向き合っている。

紅葉モノ『父は家柄と血筋を重んじる権力者主義』『そんな父が私の結婚相手に選んだのは、同じ祓い屋の名門一族で、異能持ちの半妖』『彼はまさに、父が欲しがる人物だった』『この人と結婚するのは免れない。私はそう思っていた』

青紫「他の方がいるなら、そちらに行ってください」

紅葉モノ『そう彼は、嫌味なく言った』

紅葉「……え?」

紅葉モノ『あまりにも的を射抜いた言葉に、私は聞き返しながら、思わず笑ってしまった』

紅葉「どうして分かったんですか」

紅葉モノ『私がそう聞くと、彼はおかしそうな笑みを浮かべ、こう答えた』

青紫「勘です」
紅葉「勘ですって?」

紅葉『適当なことを言っただけだ』『最初はそう思ったけど、すぐそうではないと分かった』

青紫「簡単なことですよ」「あなたのあの眼差し……それは、愛というものなのでしょう?」「私には、分かりかねますが」

不敵に笑う青紫。
※親しそうに寄り添い。愛おしそうに風早を見つめる紅葉の絵。

紅葉「……分かっているんです」「相手は妖怪、これは許されないこと」「妖怪の血を引くあなたなら、痛いほど理解されていると思いますが、人と妖怪は決して共には生きられない」「生きる時間が違うから……」

紅葉モノ『私は体も不自由になって、顔にはシワができる。そうやって、どんどん年老いていく』『でも風早は変わらない。ずっとあの頃のまま』『それが、とても辛い……』『叶うのなら、私も共に生きたい』

青紫「でも、愛しているのでしょう?」「好いた者同士が一緒にいられることほど、幸せなことはありません」

そう言い、掴みどころのない笑みを見せる青紫に、驚いた顔をする紅葉。

紅葉モノ『意外だった、半妖である彼が、妖怪を愛した私の背中を押してくれるなんて』

紅葉(……いや、半妖である彼だからこそなのかもしれない)

青紫「この縁談は、私の方からお断りしておきます」「あなたは、自分の思う通りに生きるべきだ」

○現在に戻る
紅葉「彼の言葉に気づかされたわ」「本当に愛しているのなら、感情に蓋をして、目を背けるべきではないと」
優子「お父様は、納得してくださったのですか」

首を横に振る紅葉。

紅葉「このままだと、次期頭首にはしてもらえそうにないわね」「今のところ、風早が異能のある妖怪だからと、契約を剥奪されず、一門においてもらえているけど」「これから先、どうなるのか……」

優子(知らなかった……紅葉さんが、そんな不安と戦っていたなんて)

紅葉「でも、諦めるつもりはないわ」「頭首の座も、彼も」「今は分かってもらえなくても、いつか父にも理解してもらえる日がくると、私は信じている」

いつの間にか、風早が紅葉の横に立っている。紅葉が風早を見上げると、ずっと無愛想な顔をしていた風早が優しく笑い、紅葉を見つめる。
緩やかな風が吹く。

優子(優しい風だわ……これはきっと、風早の紅葉さんへの想い)

優子「……私、青紫さんに、愛していると言われました」
紅葉「あら、よかったじゃない」

紅葉はあっさりとした様子でそう言う。
黙る優子に、紅葉は首を傾げる。

紅葉「何? 不服なの?」
優子「い、いえ。そういうわけでは、ないんですけど……」
紅葉「けど?」
優子「青紫さんが、私のことをそんな風に思ってくれているとは、思わなくて」

優子(大切に思ってくれているのは分かっている)(でも、愛されているとは思わなかった)

優子「私、お料理もお裁縫も全然ダメで、妖力は強いらしいですけど、札を書くだけで精一杯で……」「いつも青紫さんに、迷惑をかけてしまっているんです」

優子モノ『あの夜の後、各自部屋に戻って、眠りについた』『次の日になって、あれが夢ではなかったのだと分かると、恥ずかしくて、顔が真っ赤になった』※布団から上体を起こし、顔を両手で覆う優子の絵。
『青紫さんはいつも通りだし、私もあの告白に触れることはなかった』

優子(青紫さんは優しいから、私を気遣ってくれてるはず)

紅葉「青紫さんは、あなたのできることや、あなたがしてくれることなんかじゃなくて……」

立ち上がった紅葉は、優子の隣まで来ると、背中を丸め、優子の胸に片手を置く。

紅葉「あなたが、好きなの」「あなただって、そうでしょ?」

出会ってから今日までの出来事が、優子の頭に思い浮かぶ。

優子「はい……」

優子の返事に、紅葉は満足げに笑う。

紅葉「私は応援するわよ」「というかもうしてるし」
優子「……どうして私に、そんなに良くしてくださるんですか」

不思議そうにする優子に、紅葉は「ふっ」と笑うと言う。

紅葉「あなたが素敵な人だからよ」「あなたは気づいていないみたいだけど、あなたには、容姿よりも魅力的なところが山ほどある」「青紫さんは、それを誰よりも知っているはず」

優子(今まで、自分の容姿ばかりを気に留める人たちしかいなかった。だから、こうして自分の内面とかを褒めてもらうことは、変な感じがするけど……)(とっても、嬉しい……)

優子「私、紅葉さんのこと、勘違いしていました」
紅葉「元婚約者に未練がある、嫌な女だって?」
優子「……すいません」

優子(夜会の時、親密そうにする二人を見て、私は嫉妬してた)

素直に認め、頬をほんのり赤く染め恥ずかしそうにする優子に、紅葉は優しげに微笑む。

紅葉「いいのよ」「それも、あなたが彼を好きだって証じゃない」

そう言って、紅葉は優子にウィンクをする。

優子(私……もう随分前から、青紫さんのこと……)

風早「紅葉、そろそろ行こう」
紅葉「そうね」「あ、その前にお手洗いお借りしてもいいかしら?」
優子「入って、廊下を進んだ右手にあります」
紅葉「ありがとう」

紅葉はそう言い、屋敷の中に入っていく。

優子「紅葉さんって、強くて優しい方なのね」
風早「……そうでもないさ」「初めて会った時、あいつは泣いていた」※森の中、木の下でめそめそと泣いている紅葉の絵。「頭首は厳格な人でな、片親であったこともあって、それはそれは紅葉を厳しく育てた」「そんな父親の元で育ったあいつは、人前で泣くこともできないから、一人で森に隠れて泣いていたんだ」「そこが、俺のくつろぎの場だとも知らずにな」

○風早・過去回想シーン
木の上でごろ寝をする風早の視界には、まだ幼い紅葉が泣いている背中が映る。

風早(なんだ、人間か……)

紅葉「うっ……っ…ううっ」

膝を抱え、めそめそと泣く紅葉。

風早モノ『ほっとけば、そのうちにすぐにいなくなるだろうと思っていた』『でも、あまりにも泣いているものだから、つい、声をかけてしまったんだ』

木の上に立ち上がり、下にいる紅葉に声をかける風早。

風早「おい、そこの人間」「うるさくて、昼寝に集中できん」「泣くならどこか他の所に行って泣け」

風早(あっ……)(……何をしているんだ俺は。人の子などに、俺の声が聞こえるはずもないのに)

風早の声に、紅葉がゆっくりと顔を上げると、目が合う二人。
緩やかな風が吹き、木の葉が二人の間を舞う。

風早(なんだこの子供……なぜ、そんなにじっと俺を見る)

紅葉「ううっ……」

風早の顔を見た紅葉は、もっと泣き出してしまう。

風早「え……」

そんな紅葉に慌てた風早は、木から下りる。

風早「おい泣くなって」

隣に立った風早に、紅葉は抱きつき、声を上げて泣く。

風早(なんでそんなに泣くんだよ……)

風早モノ『めんどくさい。そう思っても、俺はあいつを突き放せなかった』

風早「……」

風早はゆっくりと紅葉の背中に腕を回すと、ぎこちなくも、その小さな背中を撫でる。

風早(人間とはおかしなものだな)

風早「もう泣くのはやめろ、お前は男なんだろ?」「人間の男は泣かないんだろ?」

風早がそう言うと、めそめそと泣いていた紅葉が鼻を啜りながら、顔を上げる。

紅葉「女の子だもん」
風早「髪が短いから、男かと思った」
紅葉「これは、お父さんがしろって言うから」「長いと邪魔だし、か弱く見えるって」

紅葉「紅葉が男の子だったら、お父さんは、喜んでくれたのに……」

風早(男とか女とか、そんなものはさほど大事なことではないだろうに)(人間はなぜそんなことを気にするのか)

風早「お前が男でも女でも、髪が短くても長くても、俺は良いと思うけどな」

風早の言葉に、紅葉は心動かされる。

風早モノ『それから、嫌なことがあって泣きたくなると、あいつは決まって俺の元へ来た』※幼女からから、少女へと成長する紅葉と、出会った時から変わらない姿の風早が、木の上で並んで話している絵。『そうしていつしか、俺たちは互いを大切に想うようになった』※大人の女性へと成長した紅葉が、風早の肩に頭を寄りかかっている絵。

紅葉「私の家、祓い屋を生業としているの」
風早「ああ」

肩から頭を上げ、風早を見る紅葉。

紅葉「……もしかして、知ってたの?」「なんで聞かないのよ」
風早「別に、お前が祓い屋でも、俺にとっては重要でない」
紅葉「漆原一門」
風早「漆原……」「ああー、あの異能好きで有名な一門か」「使役される妖怪の気が知れないな」「俺は自由を奪われるのはごめんだ」
紅葉「……」

落ち込んだように黙る紅葉。

紅葉「そうよね」
風早「でも」

風早は紅葉の腕を取り、自分に引き寄せる。至近距離で見つめ合う二人。

風早「お前に使役されるなら、悪くないな」

そう言って、風早は不敵に笑う。

○現在に戻る
優子「あなたが使役される妖怪になったのは、紅葉さんと、ずっと一緒にいるためなのね」

遠くを見ていた風早が、優子を見る。

風早「お前も妖怪と共に生きることを選んだのなら、覚悟を決めた方がいい」「……別れは、お前ら人間が思うより、早く訪れる」「あいつが居なくなることなんて、考えたくもないが……」

○屋敷・玄関前
紅葉「じゃあね、優子さん」「今度はゆっくりお茶しましょ」
優子「はい」

紅葉は優子の肩に乗ったたヨモギを見る。

紅葉「大事なものを無くして悪かったわ」「今度、お詫びをさせて」

ヨモギは一瞬、目を丸くすると、腕を組む。

ヨモギ「まあ、そういうことなら、許してやらないこともないな」
紅葉「ありがとう」

仲良く並んで帰って行く紅葉と風早。
そんな二人を見送る優子。

優子モノ『誰かを愛する気持ち、それは人も妖怪も変わらない』『二人を見て、そう思った』

○屋敷・縁側・昼
優子『数日後、紅葉さんからお詫びの品と言い、手紙と一緒に、たくさんのどんぐりと木の実が届いた』

お詫びの品に目を輝かせ、喜ぶヨモギ。
手紙を読む優子。

優子(風早も一緒に探してくれたのね)

そこに青紫がやって来る。

青紫「これはまた、随分な量ですね」

青紫は優子の後ろに立ちそう言うと、正座をしている優子の隣にしゃがみ込み、包の中を見る。

青紫「漆原一門の次期頭首と打ち解け合うとは、優子さんもやりますね」

言いながら、青紫は優子を見て笑みを浮かべる。
ヨモギはどんぐりを頭の上に抱え、裏庭をぴょうんぴょんと跳ねている。

優子「あの、青紫さん」
青紫「はい?」
優子「その……」

視線を横や下に向けた優子は、自分の両手をぎゅっと握り、覚悟を決める。
そして、凛とした瞳で、青紫を真っ直ぐに見つめる。

優子「私も、あなたを愛しています」

笑みも浮かべず、青紫はなんともいない表情をして、時が止まったかのよう停止する。そんな青紫を見て、優子は驚く。

優子(青紫さんのこんな顔、初めて見た……)

我に返った青紫は、大きく息を吐く。

青紫「突然、何を言い出すかと思えば……」
優子「あっ……」

優子(私ったら、いきなり何を……!)

顔を赤く染める優子。

優子「あ、えっと、その……これはですね」

焦る優子。
青紫は落ち着くように一呼吸置くと、優子を見る。

青紫「……本当に……?」

どこか信じきれていない、怯えたような青紫。
優子は青紫の瞳を覗き込みながら、ゆっくりとした動きで、何度か頷く。
青紫は興奮する気持ちを抑えるように、ぎゅっと優子を抱きしめる。
驚きながらも、優子はその背中に両手を回し、抱きしめ返す。
しばらく抱きしめ合うと、青紫がそっと抱擁を解く。
そして、愛おしそうに優子を見つめると、今までにないくらい、幸せに笑う。

青紫「ありがとう……」

再び優子を抱きしめる青紫。優子はその腕の中で、静かに目を閉じ、青紫の鼓動に耳を澄ませる。

優子モノ『彼の胸に包まれながら願った。少しでも長く、この人と生きたいと』