◯宿坊・深夜
お松の手元には書物の最後「TO BE CONTINUE」と書かれた部分が見える。月明かりに照らされている。
お松(TO BE CONTINUEって、どこに続きあんの?)(え? こんなのもわかんないの、侑仁って。)(でも、たぶん高校生ではありそうだよなぁ。なんなら卒業してそう。)
顎に手を当て考えるポーズをしながら、そんな独り言が頭に浮かんでいる。桜が寝返りをうち、ビクッと驚く。
お松(考えても無駄だ。とにかく寝よう。)
お松は書物と辞書を風呂敷に包んで竹で編まれた荷物カゴの奥にしまい込む。桜の顔はその様子のほうに向いて、目がパチっと開く。

◯宮中大広間・夜
数ヶ月後。
皇子さま歌会のため、多くの人が集まっている。お松は人だかりの中から侑仁を見つけたいが、人が多すぎて見つからない。
お松(あれから全っ然、侑仁見ないんだけど。都合悪くなると隠れるワザ持ってんのか?)※怒りに満ちている
司会「では、これにて。みなさまお気をつけて。」
お松(マジか、もう終わり? まぁ深夜だもんね。)(早く片付け終わりテェ〜。)
皇子さまが司会の侍従に耳打ちしている。その様子を後ろから桜が見ている。
皇子さま「だから先ほどの、金の、蘭の、お着物をお召しの姫君を。」
司会「はっ!」※敬礼をして、探しに行く
桜が先回りして、金の、蘭のお着物をお召しの姫君を見つける。姫君は道の端から足をかけられて、転び、右の草履が脱げてしまう。
姫君「痛っ! あ、でも、帰らなくては…。」
姫君が去り、残された草履をお松が拾っていると、後ろから司会の侍従がやってくる。
司会「お松殿、金の、蘭のお着物をお召しの姫君を見なかったか?」
お松「はい。ここで転ばされて、草履を置いて行かれました。」
司会「そうであったかぁ。とりあえず、草履を。」
司会は草履を受け取りそのまま去る。涼しい顔をした侑仁が通りかかる。
お松「あ! 侑仁、さん。」
侑仁「何やら大変そうだなぁ。なんでも茜の宮(皇子さま)のお妃候補が行方不明とか。」
お松「そうみたいですけど、それより、続き、どこですか?」
侑仁「続きって?」※なんの話だかわかってない
お松「ほら、例の書物! 『TO BE CONTINUE』って書いてあるから。」
侑仁「『TO BE CONTINUE』? あ! そうか、そういう意味なのね。なんか見たことあると思った。」※電球がついてヒラメいた感じで
お松(マジか、わかんなかったパターンか…。)※ゲッという感じで、引いている
侑仁「とりあえずはアレだけだ。何かわかったか?」
お松「なんか色々脱線しすぎで、『水』が関係していることと続きがあることしかわかりませんでした。」
侑仁「そうか。では帰る日はまだ遠いな。こちらでの後ろ盾を見つけねばな。」
お松(もー! 話をすり替えやがって!!)※プンプンしているが、言葉には出していない
侑仁「そうだ、例のお妃候補の姫君のことは、何も知らないのか?」
お松「あぁ、さっき司会の人に聞かれた人かな? 金の蘭のお着物をお召しの姫君ですよ。そこで転ばされて、草履を落として帰られました。」
侑仁「そうか。転ばせた者は、見てねぇか…?」
お松「あぁ、桜でしたよ。」

◯回想・姫君が転ぶシーン
姫君が小走りをしていると、道の脇から桜の足が伸びて、姫君が転ぶ。転んだのを見て、桜がニヤリと笑っている。

◯蒼の宮上の間・朝イチ
お松が、いつものように上の間に行くと、医官や数人の女官が慌ただしくしている。
医官「では、お急ぎ、産屋に。」
百合さま「お松。お支度をし。」
お松「は、はい!」(産屋って? お支度って?)(うわ〜、ハテナがいっぱい。でも、やるしかない、かぁ。)
お松以外の女官は全員荷物を持って出て行ってしまった。カラの上の間にお松と大きな腹をさする呉竹さまが取り残されている。そこに侑仁登場。
侑仁「お松殿、まだここに!?」
お松「え? んまぁ…。」※生返事
呉竹さま「う、うぅ…。」
呉竹さまは青い顔をして、腹に手を当て、苦しそうな声を漏らしている。侑仁が呉竹さまの前にしゃがみ、背中に乗るよう手を差し出す。
侑仁「さあ、私がお連れしますゆえ、早う。」
呉竹さまが渋々侑仁の背中に乗り、侑仁は風呂敷をボンとお松に押し付ける。
侑仁「こちらにございます。さ、お松殿も。」※少し怒っている
お松「はい!」
お松は少し遅れてスタートしたが、早歩きで追いつき、侑仁の少し前を歩く。
侑仁「違う、そこ、左だ。」
お松「は、はい!」「産屋って、どういうですか?」※聞いてはいけないことを聞くように恐る恐る
侑仁「いつ産まれても良いようにってことだろ!」
お松「でも予定日は2月じゃ…。」
侑仁「そうだよ。だから、ノッピキナラヌコトが起きているってコト!」
お松、呉竹さまを背負った侑仁の順に廊下を歩いている。周りの木々は紅葉しているのみで、季節は秋だとわかる。

◯産屋・夜
障子で仕切られた部屋の中で、蝋燭の灯りを頼りに、呉竹さまが出産に臨んでいる。外は大雨。
呉竹さま「んあ〜!!」
医官「もう少しにございます。」
呉竹さま「でも、今産まれては、御子は…。」
桜「御子が選んだのが今なのです。いざ、もうひとこえ。」
医官と医官付きの桜が手当をしている一方、お松は何もできず、ただただ呉竹さまの額の汗を拭いている。
医官「次で産みますぞい。次の痛みがきたら、思い切りいきむのです。」
呉竹さまは大きくうなずき、吊るしてあるヒモにしがみつく。
呉竹さま「ああ!」
呉竹さまは全力でいきむ。その様子を障子の外から見ている女がいた。
ある女の口元ズーム。ニヤついている。