〇教室・数学の時間
黒板には数式が書いてあり、教卓で男性教員が教科書を読んでいる。教科書を机の上に立てている陽菜子。
陽菜子(キラキラのJKライフを夢見てたけど、)(現実はつまらない。)
机の下で英語の本を広げている陽菜子の手元。
陽菜子(何か面白いこと、起こらないかなぁ?)
男性教員「じゃあ、この問題、松田。」
陽菜子「はい。」
陽菜子(やばい、今どこ?)
真っ白な陽菜子のノート。
陽菜子「すみません。わかりません。」
後ろから見た教室。陽菜子の前の席には男子が座っている。
陽菜子(あーあ、またやっちゃった。)(だって英語のほうが面白いんだもん。)
男性教員「じゃあ次、本間。」
本間くん「x=2です。」
◯生徒玄関・放課後
雨が降る中、立ち尽くす陽菜子。その隣を竹村さんが通り過ぎ、うしろから本間くんが追いかける。
本間くん「竹村さん、傘ある?」
竹村さん「ううん。降ると思ってなくて。」
本間くん「じゃあ一緒に帰らない? バス一緒でしょ?」
竹村さん「いいの? 蒼くんありがとう。」※ニコニコ笑顔
竹村さんと本間くんは相合い傘でグランドを歩いていく。陽菜子はガーンという顔で2人を見つめている。他に人はいない。
陽菜子「えー! リア充って本当に居るの!?」「てか、雨どうしよう。」
陽菜子手提げカバンを頭に乗せて傘がわりに。でも、ずぶ濡れになる。
陽菜子「あー、英語の◯ナ雪、濡らしたくないのに。」
グランドの石につまずいて水たまりに転ぶ。全身ずぶ濡れ泥だらけになる。
陽菜子「キャー!」
視界が暗くなる。
陽菜子「いてて。」
陽菜子(ってかめっちゃ恥ずかしいんだけど。)(こんなドジっ女に彼氏なんてできないじゃん。)
◯宮中・平安時代
縁側のある平安風の建物。中庭に池のある日本庭園が見える庭の端で、膝をさする陽菜子。綺麗な制服を着て手提げカバンを持っている。
陽菜子「え、ここ、どこ?」
陽菜子の前を通り過ぎる大勢の女官たち。もれなく大きな風呂敷包や両手いっぱいの家具を持っている。その中に風呂敷包を2つ積み上げて持ち運んでいる梅が居て、陽菜子をじっと見る。
梅「もしかして、新入り? どこ行くの?」
陽菜子「え、あ、いや。帰るところで…」
梅ニコッと笑い、陽菜子の前に風呂敷包をドサっと置く。
梅「私、梅っていうの。じゃあ帰る前に手伝ってくださいませ。猫の手も借りたいほどなの。」
梅が強引に風呂敷包みを陽菜子に持たせる。
梅「さ、こちらへ。いざたまえ。」※指をさすジェスチャーつき
陽菜子「あ、はい!」(ってか、めっちゃ重いんだけど。これ、何入ってんの?)
◯蒼の宮寝殿・午後
床は畳、壁は真っ白。部屋の真ん中に布団がひと組敷いてある。枕は2つ。
梅「ほぇ、寝殿って本当に寝るだけなのね。初めて来た。」
陽菜子「他の部屋はもっと豪華なの?」
梅「へぇ。お花や絵やお着物やら。それはそれは。」
陽菜子「これはどこに?」
梅「ありがとう。あの御簾の後ろに。」
陽菜子「はーい。」(御簾ってカーテンみたいなやつだよね?)(ちょうど古典でやったばかり。)
御簾の先は女官の仕事道具置き場。食器棚のような棚が並んでいて、床には持ち運ばれたばかりの風呂敷包みが散乱している。その中で白っぽい着物を着た百合さまが女官たちに指示していた。
百合さま「梅、こちらは?」
梅「お手伝いいただいた新人さまにございます。」
陽菜子(え、新人って何? 聞いてないんですけど。)
百合さま「名は、名は何と申す?」
陽菜子「あ、あたし、松田陽菜子…。」
百合さまがひらめいたように両手をパチンと合わせる。
百合さま「松か。ではお松とお呼びしよう。」※食い気味に
※以下、陽菜子=お松
お松(ええ!? 名前変えられた!!)
百合さま「梅、お松を宿坊にご案内しなさい。」
梅「はい。ですが、寝殿のお支度は…。」
百合さま「今日はこれまで。また明日といたしましょう。」
梅「わかりました。」「宿坊はこちらにございます。」
陽菜子「ありがとうございます。」
陽菜子(いや、自分の家に帰りたいんだけど。)(あなたの家じゃなくて。)
◯女官宿坊・夕方
広い畳敷の部屋。壁はベージュ系。日当たりは良くない。宿坊の中に入って、梅が部屋を案内する。部屋の奥に百合さま専用の四角い背もたれのついた王様椅子があり、部屋の両端に布団が10組ほどそれぞれ畳んで置いてある。
梅「ここが宿坊。」「みんな好きな場所に寝ているけど、」「ここなら空いてるよ。私の隣。」「あの椅子は百合さまの。座らないでね。」
お松「ありがとう、ございます。」
梅は梅の寝床、お松は梅に言われた隣の布団の前に座る。
お松(わぁー、めっちゃ畳じゃん。)(うちは和室ないから新鮮。)(てか、広。)
梅がお松に着物を手渡す。
梅「服はこれね。お松ってなんか変な服着てるわね。」
お松「ああ、これ制服。」「うち、令和…。」
お松を頭痛が襲う。すごく痛がり、床に倒れ込む。その後ろから桜が入ってくる。
桜「どうしたの?」
梅「新人を連れて来たんだけど、具合悪いみたいで。」
お松「大丈夫、いや、頭痛が。」「イテテ。」
桜「まあまあ、横になって、ほら。」
桜が枕を差し出す。お松は頭を抱えながら横になる。梅がタオルケットのような掛け物をかけてあげる。
梅「この子、お松っていうの。」「変な服着てるけど、仕事はやってくれそう。」
お松「いや、本当の名前は…あー!」「私は令和から…あー!」
さらに頭が痛くなる。
桜「苦しそうね。ゆっくり休まないと。私、桜。よろしくね。」
梅「『礼は、礼は』って、そんなのいいからゆっくり休みましょ。」
お松(なんか、色々、話したいんだけど、)(今は、マジ、つらたん。)
お松は寝息を立てて寝始める。梅と桜はお松が持っていた手提げカバンに興味を示す。手提げカバンのチャックは開いていた。
◯女官宿坊・夜
お松が目を覚ますと、梅と桜がキャッキャキャッキャ騒いでいる。手提げカバンの中から英語のア◯雪の本と辞書、スマホ、タブレットなどが出ていて、畳の上に散乱している。
お松「え? っちょ、何してんの?」
梅と桜で英語の本を見て笑い合っている。起き抜けのお松が寝ぼけた顔のまま、2人の元に擦り寄ってくる。
梅「お松って変なものたくさん持って来たのね。」
桜「これとか、みみずがそんなに好きなのね。」※英語のアルファベットのことを言っている。
お松「ねえ、ちょっと!」
お松が英語の本を取り上げる。2人が笑っていたのは大事にしてた◯ナ雪の英語版だった。
お松(しかも◯ナ雪じゃん。)「これは」「私が大切にしてるものなの。」
お松は本を抱きしめて涙目になる。
お松「だから、◯ナ雪のこと」「バカにしないでもらえる?」
梅と桜は固まって平謝り、というか「そんなつもりはない」という意味で顔の前で手を横に振り始める。
桜「いやいや、そんなつもりなくて。」
梅「バカになんてしてないの。」「世の中にはこんな本もあるのねぇって、ねぇ?」※桜に同意を求め首をかしげる。
桜「そう、そうそう!」
2人の話を聞いても正座に膝の上で拳を握って、肘をピンと伸ばしているお松。目から手の甲に雫が落ちている。
梅「ま、今日はもう寝ましょう。明日も大忙しだし。」
桜「そうね、じゃあ寝るお支度しなくちゃ。」
梅と桜が席を外し、お松1人になる。
3人の様子を廊下から見る男の足元。くらい緑の袴を着ていて、足袋も履いている。きちんとした身分と思われる男。廊下から見える部屋の様子は、御簾の隙間に見える分厚い辞書とスマホくらい。お松はただただ涙を流している。
男「スマホ。」「さては、この者。」※独り言
御簾の間から男がお松に声をかける。まだ足元しか見えない。
男「そち、後の世より来ること、決して他言するでないぞ。」
お松「え、なんでわかったの?」(てか、女子の宿坊に男って…。もしかして悪いヤツ? 狙われてる??)
黒板には数式が書いてあり、教卓で男性教員が教科書を読んでいる。教科書を机の上に立てている陽菜子。
陽菜子(キラキラのJKライフを夢見てたけど、)(現実はつまらない。)
机の下で英語の本を広げている陽菜子の手元。
陽菜子(何か面白いこと、起こらないかなぁ?)
男性教員「じゃあ、この問題、松田。」
陽菜子「はい。」
陽菜子(やばい、今どこ?)
真っ白な陽菜子のノート。
陽菜子「すみません。わかりません。」
後ろから見た教室。陽菜子の前の席には男子が座っている。
陽菜子(あーあ、またやっちゃった。)(だって英語のほうが面白いんだもん。)
男性教員「じゃあ次、本間。」
本間くん「x=2です。」
◯生徒玄関・放課後
雨が降る中、立ち尽くす陽菜子。その隣を竹村さんが通り過ぎ、うしろから本間くんが追いかける。
本間くん「竹村さん、傘ある?」
竹村さん「ううん。降ると思ってなくて。」
本間くん「じゃあ一緒に帰らない? バス一緒でしょ?」
竹村さん「いいの? 蒼くんありがとう。」※ニコニコ笑顔
竹村さんと本間くんは相合い傘でグランドを歩いていく。陽菜子はガーンという顔で2人を見つめている。他に人はいない。
陽菜子「えー! リア充って本当に居るの!?」「てか、雨どうしよう。」
陽菜子手提げカバンを頭に乗せて傘がわりに。でも、ずぶ濡れになる。
陽菜子「あー、英語の◯ナ雪、濡らしたくないのに。」
グランドの石につまずいて水たまりに転ぶ。全身ずぶ濡れ泥だらけになる。
陽菜子「キャー!」
視界が暗くなる。
陽菜子「いてて。」
陽菜子(ってかめっちゃ恥ずかしいんだけど。)(こんなドジっ女に彼氏なんてできないじゃん。)
◯宮中・平安時代
縁側のある平安風の建物。中庭に池のある日本庭園が見える庭の端で、膝をさする陽菜子。綺麗な制服を着て手提げカバンを持っている。
陽菜子「え、ここ、どこ?」
陽菜子の前を通り過ぎる大勢の女官たち。もれなく大きな風呂敷包や両手いっぱいの家具を持っている。その中に風呂敷包を2つ積み上げて持ち運んでいる梅が居て、陽菜子をじっと見る。
梅「もしかして、新入り? どこ行くの?」
陽菜子「え、あ、いや。帰るところで…」
梅ニコッと笑い、陽菜子の前に風呂敷包をドサっと置く。
梅「私、梅っていうの。じゃあ帰る前に手伝ってくださいませ。猫の手も借りたいほどなの。」
梅が強引に風呂敷包みを陽菜子に持たせる。
梅「さ、こちらへ。いざたまえ。」※指をさすジェスチャーつき
陽菜子「あ、はい!」(ってか、めっちゃ重いんだけど。これ、何入ってんの?)
◯蒼の宮寝殿・午後
床は畳、壁は真っ白。部屋の真ん中に布団がひと組敷いてある。枕は2つ。
梅「ほぇ、寝殿って本当に寝るだけなのね。初めて来た。」
陽菜子「他の部屋はもっと豪華なの?」
梅「へぇ。お花や絵やお着物やら。それはそれは。」
陽菜子「これはどこに?」
梅「ありがとう。あの御簾の後ろに。」
陽菜子「はーい。」(御簾ってカーテンみたいなやつだよね?)(ちょうど古典でやったばかり。)
御簾の先は女官の仕事道具置き場。食器棚のような棚が並んでいて、床には持ち運ばれたばかりの風呂敷包みが散乱している。その中で白っぽい着物を着た百合さまが女官たちに指示していた。
百合さま「梅、こちらは?」
梅「お手伝いいただいた新人さまにございます。」
陽菜子(え、新人って何? 聞いてないんですけど。)
百合さま「名は、名は何と申す?」
陽菜子「あ、あたし、松田陽菜子…。」
百合さまがひらめいたように両手をパチンと合わせる。
百合さま「松か。ではお松とお呼びしよう。」※食い気味に
※以下、陽菜子=お松
お松(ええ!? 名前変えられた!!)
百合さま「梅、お松を宿坊にご案内しなさい。」
梅「はい。ですが、寝殿のお支度は…。」
百合さま「今日はこれまで。また明日といたしましょう。」
梅「わかりました。」「宿坊はこちらにございます。」
陽菜子「ありがとうございます。」
陽菜子(いや、自分の家に帰りたいんだけど。)(あなたの家じゃなくて。)
◯女官宿坊・夕方
広い畳敷の部屋。壁はベージュ系。日当たりは良くない。宿坊の中に入って、梅が部屋を案内する。部屋の奥に百合さま専用の四角い背もたれのついた王様椅子があり、部屋の両端に布団が10組ほどそれぞれ畳んで置いてある。
梅「ここが宿坊。」「みんな好きな場所に寝ているけど、」「ここなら空いてるよ。私の隣。」「あの椅子は百合さまの。座らないでね。」
お松「ありがとう、ございます。」
梅は梅の寝床、お松は梅に言われた隣の布団の前に座る。
お松(わぁー、めっちゃ畳じゃん。)(うちは和室ないから新鮮。)(てか、広。)
梅がお松に着物を手渡す。
梅「服はこれね。お松ってなんか変な服着てるわね。」
お松「ああ、これ制服。」「うち、令和…。」
お松を頭痛が襲う。すごく痛がり、床に倒れ込む。その後ろから桜が入ってくる。
桜「どうしたの?」
梅「新人を連れて来たんだけど、具合悪いみたいで。」
お松「大丈夫、いや、頭痛が。」「イテテ。」
桜「まあまあ、横になって、ほら。」
桜が枕を差し出す。お松は頭を抱えながら横になる。梅がタオルケットのような掛け物をかけてあげる。
梅「この子、お松っていうの。」「変な服着てるけど、仕事はやってくれそう。」
お松「いや、本当の名前は…あー!」「私は令和から…あー!」
さらに頭が痛くなる。
桜「苦しそうね。ゆっくり休まないと。私、桜。よろしくね。」
梅「『礼は、礼は』って、そんなのいいからゆっくり休みましょ。」
お松(なんか、色々、話したいんだけど、)(今は、マジ、つらたん。)
お松は寝息を立てて寝始める。梅と桜はお松が持っていた手提げカバンに興味を示す。手提げカバンのチャックは開いていた。
◯女官宿坊・夜
お松が目を覚ますと、梅と桜がキャッキャキャッキャ騒いでいる。手提げカバンの中から英語のア◯雪の本と辞書、スマホ、タブレットなどが出ていて、畳の上に散乱している。
お松「え? っちょ、何してんの?」
梅と桜で英語の本を見て笑い合っている。起き抜けのお松が寝ぼけた顔のまま、2人の元に擦り寄ってくる。
梅「お松って変なものたくさん持って来たのね。」
桜「これとか、みみずがそんなに好きなのね。」※英語のアルファベットのことを言っている。
お松「ねえ、ちょっと!」
お松が英語の本を取り上げる。2人が笑っていたのは大事にしてた◯ナ雪の英語版だった。
お松(しかも◯ナ雪じゃん。)「これは」「私が大切にしてるものなの。」
お松は本を抱きしめて涙目になる。
お松「だから、◯ナ雪のこと」「バカにしないでもらえる?」
梅と桜は固まって平謝り、というか「そんなつもりはない」という意味で顔の前で手を横に振り始める。
桜「いやいや、そんなつもりなくて。」
梅「バカになんてしてないの。」「世の中にはこんな本もあるのねぇって、ねぇ?」※桜に同意を求め首をかしげる。
桜「そう、そうそう!」
2人の話を聞いても正座に膝の上で拳を握って、肘をピンと伸ばしているお松。目から手の甲に雫が落ちている。
梅「ま、今日はもう寝ましょう。明日も大忙しだし。」
桜「そうね、じゃあ寝るお支度しなくちゃ。」
梅と桜が席を外し、お松1人になる。
3人の様子を廊下から見る男の足元。くらい緑の袴を着ていて、足袋も履いている。きちんとした身分と思われる男。廊下から見える部屋の様子は、御簾の隙間に見える分厚い辞書とスマホくらい。お松はただただ涙を流している。
男「スマホ。」「さては、この者。」※独り言
御簾の間から男がお松に声をかける。まだ足元しか見えない。
男「そち、後の世より来ること、決して他言するでないぞ。」
お松「え、なんでわかったの?」(てか、女子の宿坊に男って…。もしかして悪いヤツ? 狙われてる??)



