その週の、日曜日。特に頼まれてもいないのに、大路君のために勝手に焼いてしまったサブレ。
……しかもプレーンだけでなく、チーズ味と、チョコレート味の3種類も。
それを前に、ちょっと途方に暮れる僕。
だって、嬉しかったのだ。僕の作ったスイーツを、あんなにもしあわせそうに彼が食べてくれて。
なのであの翌日ではなく、週末まで大路君のためにお菓子を作るのを我慢した僕を、自分で褒めてあげたいくらいだ。
……だってすぐにまたお菓子を作って渡したら、さすがにちょっと気持ち悪がられてしまいそうだし。
とはいえ心の中では、本当は分かってもいた。
大路君はそんなこと、絶対に思ったりしないって。
それでもやっぱりこれまでまったくといっていいほど接点のなかった彼と、急激に距離を詰める勇気が僕にはなかった。
だからこうして土日を挟むことで数日空けられたのは、良いクールダウン期間になったかもしれない。
匂いが混ざってしまうのはどうしても嫌だったから、3種類のサブレを、それぞれ別の袋に詰めていく。
ラッピングも前回同様軽く施そうかとも思ったけれど、それだとなんだか特別感が出てしまいそうだったからあえて透明のビニールに入れ、それをシールで閉じるだけにしておいた。
オリジナルの、撮影用に作ったオーダーメイドのおしゃれな包材。
それを使おうかとも一瞬考えたけれど、りとるマニアの彼は、絶対にその事実に気付いてしまうに違いない。
そのためわざわざ袋をとめるためのシールを買いに行ってしまった僕には、自分でも何をやっているんだかと呆れてしまう。
でも彼はきっと今回も、すぐにすべて平らげてしまうはずだ。
そうは思ったけれど、念のため乾燥剤は入れておいたほうがいいかもしれない。
そこまで気遣う必要はないのかもしれないけれど、少しでもおいしく全部食べてほしいから。
彼の喜ぶ笑顔を想像して、自然と緩む表情筋。
それに気付いたから、誰に見られているというわけでもないのに、無理やり顔を引き締めた。
今回サブレを作る際、太陽用の試作品も用意しておいた。
こちらは近日中に公開予定の新作、抹茶味のサブレだ。
ベースとなる生地は同じだから失敗の可能性はほぼないが、やはりレシピを公開する前には、きちんと他者の感想も聞いておきたい。
ちなみに家族に試食してもらったところ、たいへん好評だった。
なのできっと太陽も、気に入ってくれるに違いない。
こちらも先ほどと同じように、袋に詰めていく。
そしていつものようにりとるオリジナルのシールで封をすると、大路君あての物とは違う紙袋にしまった。
水曜日までには今週分の動画を撮影しないといけないけれど、たぶんレシピの手直しは必要ないはずだ。
最近では海外のユーザーからもコメントをもらうことがあるから、抹茶味のサブレを作る動画はきっと、たくさんの人たちに見てもらえるだろう。
なのにそれ以上に、また大路君も見てくれるのだろうかということのほうが、なぜか気になってしまった。
***
そして迎えた、月曜の朝。
先日ほどではないものの、やはり大路君に声を掛けるのはどうしても緊張してしまう。
だからやっぱり渡すのはやめて、これはいつものように太陽にでもあげてしまおうかと迷っていたら、僕の視線に気付いた彼のほうから挨拶をしてくれた。
「おはよ、佐藤」
朝の太陽よりもまぶしい、明るく爽やかな笑顔。
……だけど彼の周りを囲むようにして集まっていたクラスのカースの上位者たちの、不思議そうな視線が痛い。
それでもこうしてせっかく話しかけてくれたのに、無言で無視をして立ち去るわけにはいかないだろう。
だから少し顔がこわばっているような気はしたけれど、笑顔で告げた。
「おはよう、大路君。……あの、ちょっとだけいいかな?」
そろりと視線を上げて、彼の表情をうかがう。
すると僕のことを見つめる彼の瞳と、完全に視線が合ってしまった。
「うん、もちろん」
それに一瞬ドキリとしたけれど、なんとか言葉を絞り出した。
席を立ち、一歩、また一歩と彼が僕に向かい歩いてくる。
たったそれだけのことで、驚くほどの大音量で心臓がドクンドクンと鳴っているのを感じた。
「あの……。この間の君の感想を伝えたら、母さんめちゃくちゃ喜んじゃって。だからもし迷惑じゃなかったら、またお菓子を受け取ってくれるかな?」
本当はもう、嫌っていうくらいよく分かっていた。
優しい彼は絶対に、拒絶したりしないって。
喜んで僕の焼いたサブレを、受け取ってくれるって。
それでもやっぱり緊張してしまうのは、彼と僕が違う人種だから。
陽キャと陰キャの間には、目に見えない高い壁がそびえ立っているのだ。
とはいえこんなことを言おうものなら、大路君はきっと大爆笑をして、そんなものは存在しないと答えてくれるに違いない。
でもこの壁は、確実に存在していて。
同じ教室にいて、同じ空気を吸っていても、やっぱり僕と彼とが同じ種類の人間だとはどうしても思えそうになかった。
現に今だって、なんで大路君が僕なんかと話しているのだろうと、言葉にはしないけれどみんなが不思議そうに見ているのが分かる。
……やっぱりこんな物、渡すべきじゃなかったかもしれない。
そんなふうに落ち込みかけたタイミングで、大路君は心から嬉しそうに、笑って言ってくれたのだ。
「ありがと、佐藤! やばい、めちゃくちゃ嬉しい!」
まるでおひさまみたいな、明るい笑顔。
嘘のない心からの言葉に、沈んでいた気持ちが一気に浮上していくのを感じる。
「喜んでもらえて、良かったよ。サブレを3種類、用意したんだ。……って、母さんが言ってた。チーズ味と、チョコレート味、それからプレーン。りとる君のレシピを見て作ったらしいから、きっと気に入ってもらえると思うよ」
浮かれたせいで母さんが作ったという設定を忘れそうになり、慌てて繕うように言葉を紡いだ。
だけどすでに意識が完全に紙袋に向かってしまっている彼は、それにはまったく気がつかなったようだ。
「まじか! すっげぇ楽しみ。そんなの、絶対にうまいに決まってるじゃん!」
無邪気に笑う彼の笑顔を前に、僕の心までほっこりあたたかくなった。
だけどそこで、ふと思い出した。
この間みたいに授業中に開封して、また彼が食べだしたら困る!
だって僕の趣味がお菓子作りだと知られることで、万が一にも僕=スイーツ研究家で配信者のりとるだとバレるのは非常にまずいのだ。
そのため、条件をひとつ付け足した。
「あの、大路君! それを開けるのは、家に着いてから! 授業中に食べるのなんて、もってのほかだよ? 絶対に、禁止だからね!」
「えー……」
「えー、じゃないよ! また先生に叱られても、知らないからね」
まるで幼い子どもみたいに、形の良い唇をとがらせる大路君。
なんだよ? その顔。……かわいすぎるんだけど。
「分かった? 大路君。ちゃんと約束を守れたら、また母さんになんか作ってくれるようにお願いしてあげるから」
ちょっと恩着せがましい発言だっただろうかと少し心配になったけれど、それは杞憂だったらしい。
というのも彼は僕の言葉を聞き、またしても瞳を輝かせたからだ。
「分かった! 約束する!」
キラキラと輝く深いブルーの瞳は、まるで一対の美しい宝石みたいだ。
だけど輝かせているその理由を思い、ついまたクスクスと笑ってしまった。
「うん、約束。あ、そうだ。あとでまた、感想だけ聞かせてくれる?」
「もちろん! 感想文、原稿用紙に100枚くらい書けそうかも」
「大路君。……さすがにそれは、いらないかも。母さんが、困惑するよ」
あまりにも重い彼のスイーツにかける想いに、逆に僕のほうが軽く引いてしまった。
なのに同時に、こうも思うのだ。
……こんなにも喜んでくれて、僕のほうこそめちゃくちゃ嬉しい。
だけどこの気持ちを、彼に伝えることはできない。
だってこのサブレを焼いたのは僕ではなく、母さんということになっているからだ。
僕がりとるだと教えることはできなくても、最初から僕が焼いたと素直に言えば良かっただろうか。
そんなふうに一瞬だけ考えたけれど、その時ちょうど始業のベルが鳴ったから、あわてて席に戻った。
その日大路君はは僕との約束を守り、ちゃんとサブレを食べるのを学校にいる間ずっとマテができたようだ。
だからその結果、感想を聞くのは明日以降に持ち越しになってしまった。
それが少し残念な気もするが、そこは僕が我慢すべきだろう。
今回は余計なアレンジは加えず、元々配信したものと同じレシピどおり作ってみた。
そのため大路君がどんな感想を抱くのか、本音としてはとても気にはなるから早く聞きたい。
あぁ、明日が待ち遠しい! 早く、明日になってくれたらいいのに。
いつも太陽に食べてもらった時はこんなふうに考えたことはなかったのに、なぜか大路君の感想が気になって仕方がない。
そのためこの日僕はそわそわし過ぎたせいで夜なかなか眠りにつくことができず、翌日目の下にみっともないクマができてしまった。
そのせいで大路君には心配されてしまったけれど、その理由を彼には言えるはずもない。
僕のことを気遣うように見つめる、彼の瞳。
それを間近で見た瞬間、またしても心臓が馬鹿みたいにドクンドクンと激しく脈を打つ。
そこで鈍感な僕も、さすがに気付いてしまった。なんで僕が彼の反応が、こんなにも気になるのか。
そしてなんでこんなにも彼の、喜ぶ顔が見たいのかというその理由に。
そう。僕は大路君のことが、好きなんだ。……それもたぶん、恋愛感情として。
その事実に、愕然とした。
だけど彼は、みんなの王子様的な存在で。……しかも僕と同じ、男だぞ!?
ハハ……、嘘だろ。ほんと、不毛すぎる。
僕の顔を覗き込む大路君を前に、無理やり笑顔を作って答えた。
「心配してくれて、ありがとう。でも、大丈夫。特に体調が悪いとかじゃ、ないから。昨夜はつい夜更かしをしちゃって」
……しかもプレーンだけでなく、チーズ味と、チョコレート味の3種類も。
それを前に、ちょっと途方に暮れる僕。
だって、嬉しかったのだ。僕の作ったスイーツを、あんなにもしあわせそうに彼が食べてくれて。
なのであの翌日ではなく、週末まで大路君のためにお菓子を作るのを我慢した僕を、自分で褒めてあげたいくらいだ。
……だってすぐにまたお菓子を作って渡したら、さすがにちょっと気持ち悪がられてしまいそうだし。
とはいえ心の中では、本当は分かってもいた。
大路君はそんなこと、絶対に思ったりしないって。
それでもやっぱりこれまでまったくといっていいほど接点のなかった彼と、急激に距離を詰める勇気が僕にはなかった。
だからこうして土日を挟むことで数日空けられたのは、良いクールダウン期間になったかもしれない。
匂いが混ざってしまうのはどうしても嫌だったから、3種類のサブレを、それぞれ別の袋に詰めていく。
ラッピングも前回同様軽く施そうかとも思ったけれど、それだとなんだか特別感が出てしまいそうだったからあえて透明のビニールに入れ、それをシールで閉じるだけにしておいた。
オリジナルの、撮影用に作ったオーダーメイドのおしゃれな包材。
それを使おうかとも一瞬考えたけれど、りとるマニアの彼は、絶対にその事実に気付いてしまうに違いない。
そのためわざわざ袋をとめるためのシールを買いに行ってしまった僕には、自分でも何をやっているんだかと呆れてしまう。
でも彼はきっと今回も、すぐにすべて平らげてしまうはずだ。
そうは思ったけれど、念のため乾燥剤は入れておいたほうがいいかもしれない。
そこまで気遣う必要はないのかもしれないけれど、少しでもおいしく全部食べてほしいから。
彼の喜ぶ笑顔を想像して、自然と緩む表情筋。
それに気付いたから、誰に見られているというわけでもないのに、無理やり顔を引き締めた。
今回サブレを作る際、太陽用の試作品も用意しておいた。
こちらは近日中に公開予定の新作、抹茶味のサブレだ。
ベースとなる生地は同じだから失敗の可能性はほぼないが、やはりレシピを公開する前には、きちんと他者の感想も聞いておきたい。
ちなみに家族に試食してもらったところ、たいへん好評だった。
なのできっと太陽も、気に入ってくれるに違いない。
こちらも先ほどと同じように、袋に詰めていく。
そしていつものようにりとるオリジナルのシールで封をすると、大路君あての物とは違う紙袋にしまった。
水曜日までには今週分の動画を撮影しないといけないけれど、たぶんレシピの手直しは必要ないはずだ。
最近では海外のユーザーからもコメントをもらうことがあるから、抹茶味のサブレを作る動画はきっと、たくさんの人たちに見てもらえるだろう。
なのにそれ以上に、また大路君も見てくれるのだろうかということのほうが、なぜか気になってしまった。
***
そして迎えた、月曜の朝。
先日ほどではないものの、やはり大路君に声を掛けるのはどうしても緊張してしまう。
だからやっぱり渡すのはやめて、これはいつものように太陽にでもあげてしまおうかと迷っていたら、僕の視線に気付いた彼のほうから挨拶をしてくれた。
「おはよ、佐藤」
朝の太陽よりもまぶしい、明るく爽やかな笑顔。
……だけど彼の周りを囲むようにして集まっていたクラスのカースの上位者たちの、不思議そうな視線が痛い。
それでもこうしてせっかく話しかけてくれたのに、無言で無視をして立ち去るわけにはいかないだろう。
だから少し顔がこわばっているような気はしたけれど、笑顔で告げた。
「おはよう、大路君。……あの、ちょっとだけいいかな?」
そろりと視線を上げて、彼の表情をうかがう。
すると僕のことを見つめる彼の瞳と、完全に視線が合ってしまった。
「うん、もちろん」
それに一瞬ドキリとしたけれど、なんとか言葉を絞り出した。
席を立ち、一歩、また一歩と彼が僕に向かい歩いてくる。
たったそれだけのことで、驚くほどの大音量で心臓がドクンドクンと鳴っているのを感じた。
「あの……。この間の君の感想を伝えたら、母さんめちゃくちゃ喜んじゃって。だからもし迷惑じゃなかったら、またお菓子を受け取ってくれるかな?」
本当はもう、嫌っていうくらいよく分かっていた。
優しい彼は絶対に、拒絶したりしないって。
喜んで僕の焼いたサブレを、受け取ってくれるって。
それでもやっぱり緊張してしまうのは、彼と僕が違う人種だから。
陽キャと陰キャの間には、目に見えない高い壁がそびえ立っているのだ。
とはいえこんなことを言おうものなら、大路君はきっと大爆笑をして、そんなものは存在しないと答えてくれるに違いない。
でもこの壁は、確実に存在していて。
同じ教室にいて、同じ空気を吸っていても、やっぱり僕と彼とが同じ種類の人間だとはどうしても思えそうになかった。
現に今だって、なんで大路君が僕なんかと話しているのだろうと、言葉にはしないけれどみんなが不思議そうに見ているのが分かる。
……やっぱりこんな物、渡すべきじゃなかったかもしれない。
そんなふうに落ち込みかけたタイミングで、大路君は心から嬉しそうに、笑って言ってくれたのだ。
「ありがと、佐藤! やばい、めちゃくちゃ嬉しい!」
まるでおひさまみたいな、明るい笑顔。
嘘のない心からの言葉に、沈んでいた気持ちが一気に浮上していくのを感じる。
「喜んでもらえて、良かったよ。サブレを3種類、用意したんだ。……って、母さんが言ってた。チーズ味と、チョコレート味、それからプレーン。りとる君のレシピを見て作ったらしいから、きっと気に入ってもらえると思うよ」
浮かれたせいで母さんが作ったという設定を忘れそうになり、慌てて繕うように言葉を紡いだ。
だけどすでに意識が完全に紙袋に向かってしまっている彼は、それにはまったく気がつかなったようだ。
「まじか! すっげぇ楽しみ。そんなの、絶対にうまいに決まってるじゃん!」
無邪気に笑う彼の笑顔を前に、僕の心までほっこりあたたかくなった。
だけどそこで、ふと思い出した。
この間みたいに授業中に開封して、また彼が食べだしたら困る!
だって僕の趣味がお菓子作りだと知られることで、万が一にも僕=スイーツ研究家で配信者のりとるだとバレるのは非常にまずいのだ。
そのため、条件をひとつ付け足した。
「あの、大路君! それを開けるのは、家に着いてから! 授業中に食べるのなんて、もってのほかだよ? 絶対に、禁止だからね!」
「えー……」
「えー、じゃないよ! また先生に叱られても、知らないからね」
まるで幼い子どもみたいに、形の良い唇をとがらせる大路君。
なんだよ? その顔。……かわいすぎるんだけど。
「分かった? 大路君。ちゃんと約束を守れたら、また母さんになんか作ってくれるようにお願いしてあげるから」
ちょっと恩着せがましい発言だっただろうかと少し心配になったけれど、それは杞憂だったらしい。
というのも彼は僕の言葉を聞き、またしても瞳を輝かせたからだ。
「分かった! 約束する!」
キラキラと輝く深いブルーの瞳は、まるで一対の美しい宝石みたいだ。
だけど輝かせているその理由を思い、ついまたクスクスと笑ってしまった。
「うん、約束。あ、そうだ。あとでまた、感想だけ聞かせてくれる?」
「もちろん! 感想文、原稿用紙に100枚くらい書けそうかも」
「大路君。……さすがにそれは、いらないかも。母さんが、困惑するよ」
あまりにも重い彼のスイーツにかける想いに、逆に僕のほうが軽く引いてしまった。
なのに同時に、こうも思うのだ。
……こんなにも喜んでくれて、僕のほうこそめちゃくちゃ嬉しい。
だけどこの気持ちを、彼に伝えることはできない。
だってこのサブレを焼いたのは僕ではなく、母さんということになっているからだ。
僕がりとるだと教えることはできなくても、最初から僕が焼いたと素直に言えば良かっただろうか。
そんなふうに一瞬だけ考えたけれど、その時ちょうど始業のベルが鳴ったから、あわてて席に戻った。
その日大路君はは僕との約束を守り、ちゃんとサブレを食べるのを学校にいる間ずっとマテができたようだ。
だからその結果、感想を聞くのは明日以降に持ち越しになってしまった。
それが少し残念な気もするが、そこは僕が我慢すべきだろう。
今回は余計なアレンジは加えず、元々配信したものと同じレシピどおり作ってみた。
そのため大路君がどんな感想を抱くのか、本音としてはとても気にはなるから早く聞きたい。
あぁ、明日が待ち遠しい! 早く、明日になってくれたらいいのに。
いつも太陽に食べてもらった時はこんなふうに考えたことはなかったのに、なぜか大路君の感想が気になって仕方がない。
そのためこの日僕はそわそわし過ぎたせいで夜なかなか眠りにつくことができず、翌日目の下にみっともないクマができてしまった。
そのせいで大路君には心配されてしまったけれど、その理由を彼には言えるはずもない。
僕のことを気遣うように見つめる、彼の瞳。
それを間近で見た瞬間、またしても心臓が馬鹿みたいにドクンドクンと激しく脈を打つ。
そこで鈍感な僕も、さすがに気付いてしまった。なんで僕が彼の反応が、こんなにも気になるのか。
そしてなんでこんなにも彼の、喜ぶ顔が見たいのかというその理由に。
そう。僕は大路君のことが、好きなんだ。……それもたぶん、恋愛感情として。
その事実に、愕然とした。
だけど彼は、みんなの王子様的な存在で。……しかも僕と同じ、男だぞ!?
ハハ……、嘘だろ。ほんと、不毛すぎる。
僕の顔を覗き込む大路君を前に、無理やり笑顔を作って答えた。
「心配してくれて、ありがとう。でも、大丈夫。特に体調が悪いとかじゃ、ないから。昨夜はつい夜更かしをしちゃって」

