児童たちの下校を見送り、諸々の事務作業を完了させ、怒涛の一日が終わりを告げた。
一日中張り詰めていた糸が切れて、脱力感に見舞われる。
児童たちとの関わりの中で少しぎこちない部分もあったと思うが、初日なので及第点であろう。
明日すべき内容を整理して、夢物語を手に持ち職員室を後にする。
向かう先は、もちろん君がいる教室だ。
教室の扉を開けて黒板が目に入ると、安心感が全身を包み込み、今日の疲れを癒してくれる。
この充足感がこれからも続くと思うと、高揚せずにはいられなかった。
黒板の前まで歩を進め、まっさらな黒板と相対する。
「ふみちゃん、今日は見守ってくれてありがとう。ふみちゃんのおかげで頑張れたよ」
感謝の気持ちを込めて黒板に触れると、彼女を抱きしめた時の温かさが蘇ってきた。
「夢物語読ませてもらったよ。ふみちゃんの想い、しっかり受け取ったからね。ふみちゃんが大好きな僕の文字に乗せて、今度は僕の想い届けるね」
目を閉じて、君と過ごしたかけがえのない日々に思いを馳せる。
どの場面を切り取っても、僕の大好きな君の笑顔が思い浮かんだ。
伝えたい想いを整理して、ゆっくり目を開けチョークを手に持つ。
「僕の想い、届きますように」
そっと願いを込めて、君が住む黒板に初めての文字を書き入れた。
_______________
『第二十八回 夢物語』
届いたよ、きみの想い
だから僕も届けるね
きみが住む黒板に
きみが大好きな僕の文字で
これからの日々、毎日のように黒板を僕の文字で埋め尽くすから、覚悟しておいてね。
ふみちゃんは夢物語の中でよく謝ってたけど、謝る必要なんて何ひとつないよ。
ふみちゃんと出会えたこと
一緒に過ごしたかけがえのない日々
そして、文字で繋がった夢物語
全てが大切で、幸せで、溢れるぐらいの感謝の気持ちしかないんだ。
ふみちゃんと出会えたことで、僕の真っ暗だった日常に光が差し込み
ふみちゃんと過ごした日々のおかけで、僕の日常は彩られ
ふみちゃんが勇気をくれたことで、夢を見つけて叶えることができた
ふみちゃんが夢物語で言ってくれたこと、全部僕にも当てはまるんだよ。
感謝を伝えないといけないのは僕のほうなんだ。
心からありがとう。
まだ僕の夢物語は始まったばかりで、これからたくさんの試練があると思うんだ。
だけど怖くないよ
ふみちゃんが一緒にいてくれるから。
たくさん悩むこともあると思うけど、側で温かく見守っててね。
最後に
ふみちゃんが言ってくれたように、僕らを繋いできたのは文字だから、文字にして伝えさせてください。
ふみちゃんの笑顔
ふみちゃんの照れた顔
ふみちゃんの優しさ
ふみちゃんの温かさ
ふみちゃんの人思いなところ
そして、ふみちゃんの気品に溢れた綺麗な文字
僕はそんな魅力溢れたふみちゃんのことが大好きです。
僕の初恋が、ふみちゃんで本当に良かった。
これからもずっとずっとよろしくね。
〝黒板に住むふみちゃんの笑顔が、この先ずっと絶えませんように〟
最後の一文を書き終えたのと同時に、夕陽が教室に差し込んできた。
僕等に寄り添ってくれているかのように、黒板の文字たちを照らしている。
その夕陽は間違いなく、僕が見てきた中で一番綺麗で優しい夕陽だった。
《完》

