『第二十七回 夢物語』
この夢物語を読んでいるってことは、夢を叶えることができたんだね。
啓太君、本当におめでとう。
啓太君のことだからたくさん努力して、時には苦しい時期も必ずあったよね。
本当にお疲れさま。
前にも言ったけど、痛みを知っている啓太君なら一人一人の心に寄り添える素晴らしい先生になれると確信しています。
啓太君なら大丈夫。
困難もあると思うけど、自分を信じて前に進んでいってね。
今回の夢物語は、私の全ての想いを文字に込めました。
長くなると思うけど、最後まで読んでくれると嬉しいな。
私は小さい頃から病気を患っていて、啓太君と出会ったあの日は丁度余命宣告をされた日でした。
小さいながら長く生きられないことはわかっていたけど、いざ現実として突きつけられると心が引き裂かれる思いで、何よりも両親が泣いている姿が苦しくて仕方なかった。
その日はどうしても家にいたくなくて、自転車で目的地もなく走っていた時に、あの土手で啓太君の歌声を聴いたの。
最初は吃驚したけど、啓太君の歌声を聴いていたら本当に心が洗われたような感覚がして、気づいたら涙が零れてた。
私は病気のこともあって人と関わることを避けてきたんだけど、どうしても啓太君のことが気になって、少し見て帰ろうと思って河川敷に降りたんだよね。
そしたら、優しさと人の良さが滲み出てる啓太君がそこにいて、心がほっこりしたのを今でも覚えてる。
どうかこの人はずっと幸せでありますようにって願って立ち去ろうとした時に、思わず水筒を落としてしまったの。
これがあの運命的な出会いの秘密。
それから話していく中で、私が予想した通り啓太君は人当たりが良くて優しくて、そしてちょこっと不器用で、この人は心から信頼できる人だとすぐにわかった。
ただ、私と関わると傷つけてしまうことがわかってるから、会うのはこれきりにしようと思ってたの。
でも、帰ってからもどうしても啓太君のことが頭から離れなくて、いつもは出てこないわがままな気待ちが溢れ出てきたの。
また会いたいって。
それで神様に委ねたの。
またあの場所に行って啓太君がいたら自分の気持ちに蓋をするのをやめて、もしいなかったら潔く諦めようって。
だから啓太君が来てくれた時は必死に堪えたけど、涙が出るほど嬉しかったんだ。
それと同時に、これからたくさん傷つけてしまうから申し訳ない気持ちも強かった。
啓太君、まずは私と出会ったことでたくさん傷つけてしまってごめんなさい。
そして、私と出会ってくれて、私の人生に希望の光を照らしてくれてありがとう。
その奇跡の出会いを経て、私たちを繋いだこの夢物語が始まったんだよね。
私は交換日記をしたことがなかったから最初すごく緊張してたんだけど、啓太君の可愛くて温かい文字を見て、その気持ちが一気に期待へと変わったの。
啓太君の文字に、一瞬で心奪われたから。
これからこの文字を見続けられると思うと、嬉しくて胸が躍ってたのを昨日のことのように思い出すな。
そういえば、何でいきなり〝夢物語〟って名前が出てきたか不思議だったよね。
私は今まで人生の意味を見出すことができていなかったんだけど、もしかしたらこの啓太君との奇跡の出会いによって、何か意味や目標が見つけられるかもしれないと瞬間的に思ったの。
だから、夢へと登る階段っていうイメージが出てきて、名前を〝夢物語〟って名付けたの。
啓太君の希望も聞かずに、あの時は勝手に決めてごめんね。
この夢物語を交換する毎週月曜日が私は待ち遠しくて仕方なかった。
一番好きな時間だったと言っても過言ではないくらい。
啓太君に会うことができるし、啓太君がどんな内容を書くのか毎週楽しみにしてたんだ。
本当に全部の内容を覚えてるくらい、毎回心揺さぶられる文章と内容だったよ。
啓太君、私の人生初めての交換日記〝夢物語〟を一緒に付き合ってくれて、私と文字で繋がってくれて本当にありがとう。
それから、八月に四人で行った花火大会。
私の一番の思い出を聞かれたら、この花火大会って答えるな。
決まった時からドキドキが止まらなくて、由香と浴衣選んでる時は啓太君はどんなのが好きなんだろうって想像しながら選んでた。
浴衣喜んでもらえてたら嬉しいな。
啓太君もいつもと雰囲気が違って、髪形も甚平も本当に似合ってた。
平静を装ってたけど、内心漏れ出てないか心配になるほど胸が高鳴ってたのはここだけの秘密。
二人で見た綺麗な花火は、今でも私の胸に焼きついています。
最後のフィナーレで打ち上がったピンク色の牡丹の花火。
あの花火が印象的で、一番好きだったな。
人生で初めて行った花火大会だったから、隣で一緒に見てくれたのが啓太君で本当に良かった。
忘れられるはずがない、一生の思い出です。
それともう一つ、私にとって忘れることができない出来事がありました。
花火大会の最後、啓太君と手が触れ合ったことです。
触れ合った時すぐに離そうと思ったんだけど、それ以上に離したくないっていう気持ちが芽生えたの。
啓太君も離さなかったってことは、同じ気持ちだったのかな?
そうだったら嬉しいな。
それからそのことについて全く触れなかったのは、これ以上いくと気持ちに歯止めが効かなくなると思ったから。
この気持ちが膨らんでいくのが怖かったの。
自分勝手で本当にごめんね。
ただ、手が触れ合っていた時、隣にいる啓太君に心臓の音が聞こえてないか心配になるぐらいドキドキしてたよ。
この気持ちをどう伝えるか迷っていたけど、やっぱり私たちを繋いでいたのは文字だから、文字にして伝えさせてください。
啓太君、私に恋という素晴らしい気持ちを教えてくれてありがとう。
大切な人を想う、この幸せな気持ちを教えてくれてありがとう。
私は、啓太君のことが大好きです。

