抱きしめた時は無我夢中であったが、徐々に心が落ち着きを取り戻し始めるにつれて、恥ずかしさが込み上げてきた。
 ふみちゃんもそう感じていたのか、自然とお互いの体が離れる。

 「急にごめん」

 「大丈夫だよ。ただ、久々のメイクが泣きすぎて落ちちゃって恥ずかしい」

 「えっと……何て答えるのが正解なんだろ」

 「啓太君相変わらず面白いね」 

 そう言うと、彼女は顔を綻ばせる。
 あの時と変わらない、紛れもない僕の大好きな笑顔だ。

 「僕のことを面白いって言ってくれるのはふみちゃんだけだよ」

 「その言葉懐かしいね。一緒に行った花火大会本当に綺麗だったな。今日はね、もしかしたら啓太君が来るかもと思ってたの」

 「立花さんがあの場所に来ること知ってたの?」

 「知らなかったよ。ただ、由香から啓太君に会わないと後悔するよってずっと言われてたから。由香が啓太君のところに行くなら高校生活最後の今日だと思ったの」

 立花さんの顔が脳裏に浮かぶ。
 立花さんがいなかったら、ふみちゃんに会うことができていなかったかもしれない。
 立花さん、本当にありがとう。

 「今日会えてよかった。ただ、未だに信じられないことばかりだけど」

 「そうだよね。いきなり病気って知らされて、さらには話せますって言われたら驚いて当たり前だよね。色々と話す前に、渡したいものがあるの」

 彼女はそう言うと、引き出しから一冊のノートを取り出した。
 それは、僕らを繋ぎ、僕らを彩った、かけがえのない〝夢物語〟だ。

 夢物語を見た瞬間、溢れ出るものを止めることができなかった。

 「啓太君今日よく泣くんだから」

 彼女の涙腺も緩んでいる。

 「夢物語をずっと預かっててごめんね。由香に渡してもらおうと思ってたんだけど、今日直接渡すことができてよかった」

 彼女は僕に渡った夢物語を、愛おしそうに見つめている。

 「今は話すことができているけど、やっぱり私と啓太君を繋いでいたのは文字だと思うの。だから、次の夢物語に私の想いを全て書いたから読んでほしい」

 「今読んでいいの?」

 「だいぶ先になってしまって申し訳ないけど、啓太君が夢を叶えてから読んでほしいの。この約束だけは必ず守ってほしい」

 内容が気になるが、彼女との約束を破るわけにはいかない。
 僕は一度、首を大きく縦に振る。

 「ありがとう。ただ、何も言わずにお別れっていうのも啓太君に申し訳ないから、一つだけ質問に答えようと思う」

 お別れという言葉が、僕の胸をキュッと締めつける。

 「どうしよう……色々聞きたいことはあるんだけど、やっぱりどうしてふみちゃんが僕に話せないって言ってたのか気になる」

 「そうだよね、そこが一番気になるよね。話せないって言った理由は丁度夢物語に書いてなかったから」

 そう言うと、彼女は大きく一度息を吐いた。