それから僕は、完全に気持ちを入れ替えて目の前の課題に取り組んだ。
 まず、先生になるという夢をより具体化する必要があった為、僕は小学校教諭を目指すことに決めた。
 夢を持つきっかけが小学生時代にあったことも理由としては大きいが、小学生は成長や心の変化が著しく、中高に比べて一緒に過ごす時間も長くて密なので、僕が目指す先生像に最も合致していると感じたのだ。
 住田先生も『黒木に合ってると思うぞ』と僕の決断を後押ししてくれた。
 
 次に、志望校も県で教育に力をいれている大学に狙いを定め、傾向と対策を綿密に練った。
 僕が頑張れる根源は、やはりふみちゃんと立花さんの存在が大きく、この夢への軌跡がどうか二人に繋がるようにという一心で勉強に励んだ。
 
 一方で野球部を夏の県予選を最後に引退したとしも、目標に向けて全力で努力していた。
 彼の引退試合を直接見に行ったのだが、誰よりも大きな声を出し、全力でプレーしている姿は目を背けたくなるほどに眩しかった。
 最後彼が顔をぐちゃぐちゃにしながら挨拶している姿が、この三年間どれだけ必死に努力してきたかを物語っていて、自然と涙が溢れた。
 としには心からお疲れさまでしたと言いたい。
 
 そして彼は、志望校への試験が推薦入試であった為、僕より先に受験をして見事合格を勝ち取った。
 としの人間性を考えたら合格は間違いないと思っていたのだが、『合格した!』と彼からメッセージが届いた時の安堵感は今でも覚えている。
 合格すると大体の人は気持ちが楽になってゆっくりしたり、残りの学校生活を楽しんだりすると思うのだが、としは自分の受験が終わっても休むことなく、僕の受験勉強に付き合ってくれた。
 『啓太の戦いはまだ終わってないだろ!』と言ってくれた彼の言葉に、孤独感が芽生え始めた僕の心がどれだけ救われたかは計り知れない。
 ありふれた感謝の言葉を口にするだけでは足りないくらい、としに対して感謝と尊敬の念に堪えなかった。
 
 それから心血を注いで受験に向けて努力し続けた結果、僕は無事に志望校に合格することができた。
 もちろん何かをやり遂げた達成感は込み上げてきたのだが、それと同じぐらいにこのことを伝えたい人に伝えられない寂しさが募った。
 ただ、僕が合格したと知らせると満面の笑みを浮かべながら飛んできてくれた友の顔を見た途端、その寂しさは一気に掻き消され、充足感に包まれていった。
 お互いにおめでとうと抱き合った、あの感触を僕は忘れることはないだろう。
 
 そして、僕等は人生を変えたと言っても過言ではないぐらい濃い日々を過ごした高校三年間を締め括る、卒業の日を迎えた。