この街には、あるポスターが貼ってあります。

 狭いアパートの一番奥。
背伸びをしながら滝沢は、明日中に編集長に渡さなくてはいけない原稿に目を通す。
白紙が半分以上。そして、内容がまとまっていない。
これを渡すわけにはいかないが、なかなかやる気が出ない。
「Stella」の記者になって1年が経つ。なんとなくため息をついた。

滝沢が記者になったのには理由があった。
「ある事件」の真相を知りたかったからだ。いや、世間的には「事故」と呼ばれている。
神奈川県川崎市で起きた、一家心中。亡くなったのは、滝沢の父・母・そして弟。
大事な人を一気に失う気持ちは、考えるまでもない。
ー当時の現場の様子から見て、この事故には不可解な個所がいくつかあった。
だが、警察は「加害者がいる」という可能性を撤回した。
発見当時の様子や、インタビューから得た情報をここに記す。

「資料➀ 発見当時の様子
川崎市「○○海岸」にて発見。
男二人。女一人。
3人の財布は見つからず、指紋で身元を調べることに。
結果⇒栃木県に住む滝沢さん一家ということが判明した。
警察は一家心中ということで捜査を進めている。」

「インタビュー➀ 第一発見者・通報者 40代男性
 
 夏の夕方のことでした。
 普通に会社から家に帰ろうとしたんですよ。
 そしたら、見ちゃって。
 ええ、滝沢さん一家のことです。
 私の会社、海沿いにあって、後ろには森があるんです。
 駅に行くときには港町の大通りを歩いて帰るんですけど。
 で、船とかが並んでまして。
 そしたら、海に赤いものが浮かんでて。
 魚の死体かな?とか思って、覗いてみたんですよ。本当に後悔しています。
 単純な興味で覗いたら、魚じゃなかったんです。
 人の血でした。でも、その血、結構広い範囲に広がってて。
 最初は一人だと思ってたんですけど、2・3人ぐらいいるなぁって思って。
 それで、急いで通報しました。
 でも、なんか、死体の様子から見て、結構時間が経っているように見えて。
 すごく不思議でした。私以外に、海を覗いてみた人はいないのかなぁって。
 こんなこと言うと、馬鹿みたいで信じてもらえないと思うんですけど。
 亡くなられた女性の方の顔に、殴られた痕みたいのがあって。
 あの日の事を思い出すと、今も恐ろしいです。背筋が凍ります。」

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まず、資料➀には発見当時の様子と父たちの身元が書かれている。