この街には、あるポスターが貼ってあります。

 静かな街にある警察署の一室で。
「何だよ、これ。」
○○中央署に勤める、30代後半の男があるポスターを見つめてぼやく。彼の名は倉元、といった。
倉元は手に取ったポスターを指さした。すると、倉元の部下である赤羽が言った。
「ポスターです。殺人依頼と自殺呼びかけの。」
それは分かっている。だが、こんなもの、街に貼ってあったら怖いだろう。
街の名誉にも関わることだ。心霊スポットとして流行ってしまったら、街に悪戯をしだす人もいるかもしれない。
何にせよ、どうせ若者の悪戯だろう。これを信じるやつなんかいない。
倉元はポスターを投げ捨てた。慌てて赤羽が拾う。まるで、このポスターを粗末に扱っている倉元に、呆れているような態度だ。
ー俺は街の人たちを信じてるんだ。みんないい人じゃないか。
勝手に話をまとめる。悪質な悪戯系の事件はよく目にする。倉元は毎回、気にしないようにしていた。
倉元がこの街に住み始めて10年近く。街の人に信頼され、街の人と協力し合った10年間だった。
ーこんな悪戯、誰がするのか。どうせ、都会で遊びまくっている馬鹿な高校生なんじゃないか。
自分の中で必死に議論をする自分が、何だか馬鹿らしく思い、気になったことを赤羽に聞いてみた。
「これ、全部剥がしたのか?大変だよな。でも、こんなに大事になるもんなのか?防犯カメラを見て犯人を特定すれば良いじゃないか。最近の素晴らしい技術を使うのさ。犯人も分かるだろ。街を荒らすのは立派な犯罪だからな。」
倉元が一人で熱弁していると、赤羽は納得いかなそうな顔で倉元に言う。
「それが…」
「一筋縄ではいかないってことだろ?この辺は防犯カメラも少ないしな」
赤羽がうなずく。この辺り、八王子○○○は畑と住宅街しかない田舎だ。防犯カメラなんて、この辺では道によくついているようなものじゃない。
最近は田舎でも多くなっていると聞くが、それでも少ないのだ。
もちろん、山奥でもないし、とても入り組んだ場所にあるところでもない。意外と住み心地がいいものだ。
でも、ここは人が少ない。小中学校の子供も減って来たし、お年寄りも養護老人ホームに行ってしまい、街に住んでいないのと同様なのだ。
「八王子市」と言っても、とても栄えている街の中心部と、ここのように少し都心とは離れている場所もある。
そして、工場がある。大きい工場がたくさん。いつも煙っぽいし、緑が多い割には空気が汚い。
だから最近の技術は離れて行ってしまうのだ。ここ、○○中央署も人が減ってきている。
先ほどのポスターのコピーを見た。よく見ると、酷い現実について、たくさん書かれている。とても残酷だ。

『私たちがあなたの「苦痛」を和らぎます。』

これも最近の社会問題からの苦痛なのではないか。このポスターを書いた人も苦痛から解放された?だから殺人を…。
倉元は恐ろしいことを考えてしまった。気を取り直してポスターをじっくりと読む。

『・日々苦しんでいるあなたに』

仕事や家庭での暴力、暴言。友達からのいじめ。この世には恐ろしいものがたくさんある。

『・いつも笑っているあの人を』

誰かを憎むこともあるだろう。ヘラヘラしている人をみると、イライラする人もいるだろう。
だが、このポスターは明らかに違っている。困っている人、自分にむしゃくしゃしている人を助ける内容ではない。
「辛いよね。じゃあ死んじゃえばいいじゃん。」
「憎いよね、じゃあ、その人を殺そう。」
そんなの、人間ではない。自分の子供や家族、大事な人を平気で殺せる奴は人じゃない。
ーもう、動物と同じじゃないか。
倉元には、8歳の娘と5歳の息子がいる為、より一層辛いのだ。
でも倉元は、絶対に子供達を殺そうとは思わない。洗脳で人が亡くなるのは一番辛い。
そのために警察がいるんだ。洗脳人間を守るから警察がいる。
倉元はなぜか燃え上がってしまった。
絶対に、捕まえるから待ってろよ、という固い決意が、悪魔の選択であることを、倉元はまだ知らないー。