休み時間、彼女は駆け寄ってきて、いつもの元気いっぱいの声を響かせた。
「ねえ、期末テストまであと二週間だって!」
「さては今回も教えてって?」
「お願い!」
「ちなみに授業で理解は...?」
「してない!」
「しょうがないなぁ。僕の話はちゃんと聞いてよ?」
「もちろん!透様一!」

とても嬉しそうに彼女は笑っている。
なんせ僕達は自他ともに認めるラブラブカップル。彼女のために時間を使うのなんて当たり前だと思ってしまうんだ。
たまに集中が切れる彼女と他愛もない話をしたりするのも、ふざけあったりするのも、天真爛漫な彼女のペースに合わせて根気強く勉強を教えるのも楽しかった。

放課後、僕たちは図書室に向かった。静かな空間には、整然と机と椅子が並び、窓から柔らかい光が差し込む。
棚には教科書や参考書がぎっしり並び、鉛筆の芯を削る音やページをめくる音がほのかに響いている。

「ここの問題はわかる?」
「うーん、わからない、数学ってどうしてこんなに複雑なの?」
「数学は単純だよ。だって答えは1つしかないんだよ?」
「無理無理!これじゃあ赤点取って夏休みなくなっちゃうよー!」

図書室は落ち着くところだから、いつもより集中できると思ったのに。
彼女は、項垂れて口をふくらませながらシャープペンをくるくる回し始めた。

「なくなったら嫌なの?」
「だってそりゃあ!!実はね、夏休みのために立てた計画があるんだー!なんだと思う?」

ニヤニヤしながら僕の目をじーっと見つめてきた。

「じゃあ三択にするから答えてね!
じゃーん!私がこの夏やりたいことクイーズ!
一、水族館に行きたい
二、動物園に行きたい
三、夏祭りに行って花火を見たい
どれだと思う??」
「答えればいいの?」
「うん!」

八月の真夏に動物園は個人的に無いな。あったとしても暑くて絶対に嫌。
水族館もいつでも行けるのに、わざわざこの夏にやりたいこととして取り上げない気がする。と、なると消去法で答えは一つしかない。

「答えは三番の夏祭りへ行って花火をみたい、かな?」
「正解!私は透と花火を見に行きたいの!」

花火か。懐かしいな。
夏祭り自体が、祖母と小さい頃に数回だけ行った時以来と考えるといつぶりだろうか。

「わかったよ。行こう。でもその前にテスト勉強して赤点回避だよ?」
「やりたくないです」
「ここで辞めたら、赤点たくさん取って、補習だらけで、夏祭り行けないなぁ…残念だなぁ…」
「それは嫌だ!!」

彼女はメラメラ燃えていた。
感情がコロコロ変わって小動物みたいで本当に可愛い。

「じゃあ頑張る!さあさあやろうではないか、透殿。」
「わかった、頑張ろうね」

大きな壁を突破するために、僕達は手を動かし始めた。

そしてテスト期間も終え、とうとう期末テストが返ってくる日になってしまった。
結果はどうなのだろうか。
僕は今回も上位をキープしていたが、やはり彼女が心配だ。
視線を移すと彼女がぶるぶると震えていて、
休み時間になった途端、彼女がぎこちなく歩きながら僕の席にきた。

「紡どうした?もしかして赤点?」

僕は恐る恐る聞いてみた。

「怖いからみてない。自分ではみれないから、一緒にみてお願い!」

今にも怪獣に食べられる寸前のように怯えてる彼女と、僕らの夏祭りがかかった運命の通知表を開く。

「や...やったー!回避した!補習なし!よかったあ。透ありがとう!」
「よかったね。数学はギリギリだったけどよく頑張りました。」

甘い笑顔を見せる彼女の頭を撫でるという小恥ずかしいことをしたが故に、彼女の顔はたこのように真っ赤に染まった。

「ちょ、何してるの!純粋無垢の私の頭撫でるなんてセクハラ!!」

真っ赤になって怒る彼女が本当におかしくて、可愛い。
思わず、ちょっと意地悪したくなる。

「じゃあセクハラ男とは花火大会に行けないね。」

彼女は、してやられたという目線むけてきた。

「茶番は置いといて、希望の花火大会行きが決まったわけだけど予定どうする?何時に集まる?」

僕がそう聞くと彼女は

「意地悪」

と、拗ねていた。

「ごめんって笑」
「ちゃんと行くんだからね!」
「分かってるよ。」

そう話すと彼女は、パンフレットを鞄から取り出した。
驚くほどに用意周到だった彼女と、花火が始まる時刻を確認し、二人で集まる待ち合わせ場所を決めた。

「よし決まったね。花火大会は二十時からだからその前までの二時間はご飯食べたりしよう。」
「じゃあきまり!当日楽しもう!」

二人でそうかわすとちょうど予鈴がなりいつもの日常へと戻って行った。
放課後、静かな部屋で日記を開いた。
シャープペンを手に取り、今日の出来事を書き始める。

彼女が夏祭りを楽しみにしている姿を想像していると手が進んだ。彼女の無邪気さや、勉強を頑張る姿が思い浮かび、心が温かくなる。

「紡と一緒に花火を見られるのが待ち遠しい。紡の笑顔を見ながら、夏の夜空に色を付ける、大きな花火を見るのが楽しみだ。」

日記を閉じると、自然と笑みが零れていた。
僕も夏祭りが楽しみだ。
浴衣なんていつ以来だろう。彼女と並んで歩く夏の夜を想像すると、それだけで胸が少し弾んだ。