今日は、退院してから毎日続いていた補習の最終日だった。
勉強で苦戦していたわけじゃないけど、彼女の友達がくれたノートと、根気強い先生のおかげで、なんとか乗り越えることができた。
授業中、僕は何度も窓の外に目をやった。
午後の光が柔らかく教室に差し込んで、机に落ちた文字が揺れるたび、彼女がその文字を見て笑うだろうと想像する。
友達が冗談交じりに声をかけてくれると、一瞬笑顔を作るけれど、その裏で胸の奥にぽっかりと穴が空いているのを感じていた。
そして今日も、僕は彼女に会いに行く。
この二週間、毎日彼女に会いに病院に通った。
彼女の幻影を求めて、ただ会いに行った。
今日は目を覚ましているかな。明日はどうなんだろう。
そんな淡い期待を胸に抱いて、何度も会いに行った。
病院の廊下をいつものように歩いていると、異様なざわめきが耳に入った。
最初は誰かの軽口かと考えていたが、彼女の部屋に近づくにつれて、そのざわめきは次第に大きくなっていった。
白い壁に反射する蛍光灯の光が冷たく、靴底が硬い床を打つ音が心臓にまで響く。
廊下の先に、医師や看護師が誰かをベッドごと運んでいるのが見えた。
その後ろを光さんが必死で追っていた。
…運ばれていたのは、彼女だった。
その瞬間、全身の血が引いていった。
体が凍りついて、まるで彫刻のように動けなくなった。心臓の鼓動が耳の奥で激しく跳ねる。
「な…なにかの間違いだよな?」
腰が抜けて、僕はその場に座り込んでしまった。
時間感覚が飛び、どれだけ経ったか分からない。
次に体を動かせたのは、あの日彼女に会わせてくれた看護師さんが、僕に声をかけてくれたときだった。
お礼も言えず、僕は一目散に走り出した。
「….紡っ!!!!!!」
彼女なら大丈夫。
明るくて、優しくて、僕なんかと仲良くしてくれた、一緒にいるだけで心あたたかくなる人。
だから、きっと大したことにはなっていない。そう信じたかった。
走り抜けようとした部屋の前で、スローモーションのように見えたのは、何かを話している光さん、スーツが乱れた朝日奈さん、そして、今まで繋がれていた管がすべて外されていた彼女だった。
震えが止まらなかった。
無意識に病室へ足を踏み入れる。
医師が僕を見ると、悲しげに言った。
「君は…朝日奈さんのご家族ですか?」
「……いえ、恋人です。」
冷静な光さんが床に座り込み、ベッドに顔を伏せていた。その姿から、どれだけ涙をながひていたか、伝わってくる。
呆然と立ち尽くしている朝日奈さんに、僕は声をかけた。
「あ、朝日奈さん…。紡は…?」
「心肺停止で…そのまま…」
掠れた声でそう言った朝日奈さんの瞳は、涙に濡れていた。自分の魂を吸い取られるよう感覚があった。
「最善を尽くしたのですが」という医師の言葉が、胸に鋭く突き刺さる。
僕は彼女に近づき、これまで何十回、何百回と繋いできた手を、強く握りしめた。
「……まだ暖かいじゃないか。」
涙が止まらなかった。
頬を伝って落ちた雫が、床に静かに響いた。
「紡…。今日で補習が終わったんだ。これから紡に教える用にって、専用ノートを作ったんだ。紡が苦手なポイントを理解できるように、心を込めて書いたんだ…。」
光さんがそっと僕の背をさすってくれる。
こんなに辛いはずなのに、他人を気遣えるその姿は、まるで彼女そのものだった。
「君の頼りにしていた透様は…ここにいるよ。だからお願い、紡、目を開けてよ…。」
窓からキラキラと日差しが差し込む。
澄んだ青が空いっぱいに広がる文句のない晴れの日だった。
━━そんな素敵な日に、僕の人生で一番愛した君が、短い生涯を終えた。
僕の心には、一生癒えることのない、深く鋭い傷跡が残った。
過去を思い出す。夏祭りの花火、浴衣で手を握り合った瞬間。日常の小さな記憶が、今は胸を締め付ける。
帰宅すると、玄関先で祖母が待っていた。
でも僕はもう、何も考えられず、その場に倒れ込む。
ずっと涙が止まらなかった。
苦しくて、苦しくて、楽になりたかった。
視界の先に映った自分の手。
蘇る彼女の手の感触を忘れたくなくて、ぎゅっと胸に抱きしめた。
「紡...僕、君がいなかったら、どうやって生きていけばいいのか分からない。」
「紡、紡...」
名前を呼ぶ度、胸が締め付けられた。
でもどこかで、まだ生きているんじゃないか、また目を覚ますんじゃないか、と願わずには居られなかった。
それでも現実は厳しくて、学校に行かなければならなかった。
教室の扉を開けた瞬間、音が消えたような気がした。
誰かの笑い声が途中で途切れ、数秒の静寂のあと、椅子の軋む音だけが残った。
いつも通りの時間、いつも通りの制服。
でもそこにいる「僕」は、もう、何かが変わってしまっていた。
「……おはよう」
言葉が喉の奥で乾いた。
誰かが、曖昧に頷いた。けれど、その声はなかった。
机と椅子の間に、目に見えない線が引かれたようだった。
隣の席は空いている。
彼女が、いつも座っていた場所。
教科書を開いても、文字は目に入らない。
先生の声も、雑音のようにしか届かない。
僕はただ、背筋を伸ばして座っていた。
まるで"普通の生徒"を演じるように。
ふと、前の席の女子が、振り向いてプリントを渡してくれた。
一瞬だけ、目が合った。
彼女の目には、同情でも、共感でもない、何も言えない何かが宿っていた。
「……ありがとう」
その一言を言うまでに、ほんの少しだけ勇気が要った。
誰かと話すということが、こんなにも緊張することだっただろうか。
昼休み。
僕の机の周りだけ、ぽっかりと空間があった。
気を使って避けられているのか、それとも自然に、みんなの中で“僕の存在”が浮いているのか。
「……ねえ…あの事故の…」
「うん、よく学校来れたよね……」
「紡ちゃん亡くなったんでしょ?」
耳を澄まさなくても、会話の断片が聞こえてくる。
ひそひそと、でも明確に。
その声のトーンに、悪意はない。むしろ純粋な好奇心と、距離感の迷いが滲んでいた。
「でもさ、雨宮さんだけ助かったって、なんか……ねぇ....」
その言葉で、思考が止まった。
"雨宮さんだけ助かった"そうか。僕はもう、そういう扱いになってしまったのか。
生き残っただけで、誰かにとって「扱いづらい存在」になる。
それが、こんなにも現実的に突きつけられるなんて思っていなかった。
僕の持っていた箸が、空になった弁当箱の上で止まった。
何を食べたのかも、もう思い出せなかった。
放課後、カーテンが風に揺れていた。
誰もいない教室の中、彼女の席を見つめて立ち尽くす。
そこに、確かに彼女がいた。
ふざけた話をして、笑って、僕の手を引いてくれた。
今はただ、空っぽの椅子がそこにあるだけ。
僕はそっと目を閉じた。
想像する。
"今日も疲れたね、お疲れさま、透"と言って微笑む紡の声を。
"一緒に帰ろ!"と振り返る姿を。
でも、現実にはもう、誰もいない。
──僕は、“いない人”のことばかり見て、生きている。
いつの間にか、空が曇っていた。
教室の窓から差す光は弱く、灰色に染まっていた。
まるで、誰かが天気まで気を遣ってくれているようだった。
泣きたいなら、泣いてもいいよ。と。
でも、泣けなかった。
僕は泣く資格なんてないと思っていたから。
数日後、彼女を見送る日がやってきた。
席に座っていると、周りの人は"可哀想"と口々に言っていた。
遺された家族のことも、彼女の人生の短さも。
しかし、僕の中には言葉にできない思いが渦巻いていた。
彼女の遺影は太陽のような笑顔。
その写真を撮ったのは僕だった。
僕は彼女と過ごした、日々の思い出を呼び起こすことで、どうにか心を保っていた。
葬儀が進むにつれ、だんだんと自分を責める気持ちが大きくなる。
「僕が、もっと周りを見ていれば…守れたのに…」
そう呟くと、手が震えた。
周囲の人々の声が次第に遠ざかっていき、代わりに心の中の叫びが強く聞こえる。
棺の中に花を添えたとき、心の奥で何かが崩れた。
彼女がこの世界からいなくなるという現実に、足がすくんだ。
あの笑顔はもう、二度と見ることができない。
その事実が僕を押し潰していく。
火葬場へ着いた頃には、冷たい空気が体に染み込んでいた。
彼女の棺が運ばれるのを、みんなが見守っていた。その光景を見て思った。
「紡は、こんなにたくさんの人に愛されていたんだな…」
それが余計に彼女の不在を際立たせた。
心の喪失感がたまらなかった。
彼女はどこへ行ってしまったのだろう。心の中で、彼女の笑顔や声が生々しく蘇るが、同時にそのすべてが永遠に失われたことが恐ろしかった。
静かな炎が燃え上がっていく。
その光景を見ながら、僕はその場にいることが辛くなってしまった。
「透…どこいくの?」
祖母の声も届かなかった。
胸を締め付ける無力感と、彼女への愛。
どれだけ望んでも、もう戻ってこないという現実や、彼女を救うことができなかったという現実が、僕の心を壊していく。
火葬場の外で、僕はただ一人、彼女を失った事実と向き合うことしかできなかった。
それからのことは覚えていない。
気づいたときには、家に戻っていた。
全身が重く、心は空っぽで、僕はただ暗闇の中目を閉じた。
勉強で苦戦していたわけじゃないけど、彼女の友達がくれたノートと、根気強い先生のおかげで、なんとか乗り越えることができた。
授業中、僕は何度も窓の外に目をやった。
午後の光が柔らかく教室に差し込んで、机に落ちた文字が揺れるたび、彼女がその文字を見て笑うだろうと想像する。
友達が冗談交じりに声をかけてくれると、一瞬笑顔を作るけれど、その裏で胸の奥にぽっかりと穴が空いているのを感じていた。
そして今日も、僕は彼女に会いに行く。
この二週間、毎日彼女に会いに病院に通った。
彼女の幻影を求めて、ただ会いに行った。
今日は目を覚ましているかな。明日はどうなんだろう。
そんな淡い期待を胸に抱いて、何度も会いに行った。
病院の廊下をいつものように歩いていると、異様なざわめきが耳に入った。
最初は誰かの軽口かと考えていたが、彼女の部屋に近づくにつれて、そのざわめきは次第に大きくなっていった。
白い壁に反射する蛍光灯の光が冷たく、靴底が硬い床を打つ音が心臓にまで響く。
廊下の先に、医師や看護師が誰かをベッドごと運んでいるのが見えた。
その後ろを光さんが必死で追っていた。
…運ばれていたのは、彼女だった。
その瞬間、全身の血が引いていった。
体が凍りついて、まるで彫刻のように動けなくなった。心臓の鼓動が耳の奥で激しく跳ねる。
「な…なにかの間違いだよな?」
腰が抜けて、僕はその場に座り込んでしまった。
時間感覚が飛び、どれだけ経ったか分からない。
次に体を動かせたのは、あの日彼女に会わせてくれた看護師さんが、僕に声をかけてくれたときだった。
お礼も言えず、僕は一目散に走り出した。
「….紡っ!!!!!!」
彼女なら大丈夫。
明るくて、優しくて、僕なんかと仲良くしてくれた、一緒にいるだけで心あたたかくなる人。
だから、きっと大したことにはなっていない。そう信じたかった。
走り抜けようとした部屋の前で、スローモーションのように見えたのは、何かを話している光さん、スーツが乱れた朝日奈さん、そして、今まで繋がれていた管がすべて外されていた彼女だった。
震えが止まらなかった。
無意識に病室へ足を踏み入れる。
医師が僕を見ると、悲しげに言った。
「君は…朝日奈さんのご家族ですか?」
「……いえ、恋人です。」
冷静な光さんが床に座り込み、ベッドに顔を伏せていた。その姿から、どれだけ涙をながひていたか、伝わってくる。
呆然と立ち尽くしている朝日奈さんに、僕は声をかけた。
「あ、朝日奈さん…。紡は…?」
「心肺停止で…そのまま…」
掠れた声でそう言った朝日奈さんの瞳は、涙に濡れていた。自分の魂を吸い取られるよう感覚があった。
「最善を尽くしたのですが」という医師の言葉が、胸に鋭く突き刺さる。
僕は彼女に近づき、これまで何十回、何百回と繋いできた手を、強く握りしめた。
「……まだ暖かいじゃないか。」
涙が止まらなかった。
頬を伝って落ちた雫が、床に静かに響いた。
「紡…。今日で補習が終わったんだ。これから紡に教える用にって、専用ノートを作ったんだ。紡が苦手なポイントを理解できるように、心を込めて書いたんだ…。」
光さんがそっと僕の背をさすってくれる。
こんなに辛いはずなのに、他人を気遣えるその姿は、まるで彼女そのものだった。
「君の頼りにしていた透様は…ここにいるよ。だからお願い、紡、目を開けてよ…。」
窓からキラキラと日差しが差し込む。
澄んだ青が空いっぱいに広がる文句のない晴れの日だった。
━━そんな素敵な日に、僕の人生で一番愛した君が、短い生涯を終えた。
僕の心には、一生癒えることのない、深く鋭い傷跡が残った。
過去を思い出す。夏祭りの花火、浴衣で手を握り合った瞬間。日常の小さな記憶が、今は胸を締め付ける。
帰宅すると、玄関先で祖母が待っていた。
でも僕はもう、何も考えられず、その場に倒れ込む。
ずっと涙が止まらなかった。
苦しくて、苦しくて、楽になりたかった。
視界の先に映った自分の手。
蘇る彼女の手の感触を忘れたくなくて、ぎゅっと胸に抱きしめた。
「紡...僕、君がいなかったら、どうやって生きていけばいいのか分からない。」
「紡、紡...」
名前を呼ぶ度、胸が締め付けられた。
でもどこかで、まだ生きているんじゃないか、また目を覚ますんじゃないか、と願わずには居られなかった。
それでも現実は厳しくて、学校に行かなければならなかった。
教室の扉を開けた瞬間、音が消えたような気がした。
誰かの笑い声が途中で途切れ、数秒の静寂のあと、椅子の軋む音だけが残った。
いつも通りの時間、いつも通りの制服。
でもそこにいる「僕」は、もう、何かが変わってしまっていた。
「……おはよう」
言葉が喉の奥で乾いた。
誰かが、曖昧に頷いた。けれど、その声はなかった。
机と椅子の間に、目に見えない線が引かれたようだった。
隣の席は空いている。
彼女が、いつも座っていた場所。
教科書を開いても、文字は目に入らない。
先生の声も、雑音のようにしか届かない。
僕はただ、背筋を伸ばして座っていた。
まるで"普通の生徒"を演じるように。
ふと、前の席の女子が、振り向いてプリントを渡してくれた。
一瞬だけ、目が合った。
彼女の目には、同情でも、共感でもない、何も言えない何かが宿っていた。
「……ありがとう」
その一言を言うまでに、ほんの少しだけ勇気が要った。
誰かと話すということが、こんなにも緊張することだっただろうか。
昼休み。
僕の机の周りだけ、ぽっかりと空間があった。
気を使って避けられているのか、それとも自然に、みんなの中で“僕の存在”が浮いているのか。
「……ねえ…あの事故の…」
「うん、よく学校来れたよね……」
「紡ちゃん亡くなったんでしょ?」
耳を澄まさなくても、会話の断片が聞こえてくる。
ひそひそと、でも明確に。
その声のトーンに、悪意はない。むしろ純粋な好奇心と、距離感の迷いが滲んでいた。
「でもさ、雨宮さんだけ助かったって、なんか……ねぇ....」
その言葉で、思考が止まった。
"雨宮さんだけ助かった"そうか。僕はもう、そういう扱いになってしまったのか。
生き残っただけで、誰かにとって「扱いづらい存在」になる。
それが、こんなにも現実的に突きつけられるなんて思っていなかった。
僕の持っていた箸が、空になった弁当箱の上で止まった。
何を食べたのかも、もう思い出せなかった。
放課後、カーテンが風に揺れていた。
誰もいない教室の中、彼女の席を見つめて立ち尽くす。
そこに、確かに彼女がいた。
ふざけた話をして、笑って、僕の手を引いてくれた。
今はただ、空っぽの椅子がそこにあるだけ。
僕はそっと目を閉じた。
想像する。
"今日も疲れたね、お疲れさま、透"と言って微笑む紡の声を。
"一緒に帰ろ!"と振り返る姿を。
でも、現実にはもう、誰もいない。
──僕は、“いない人”のことばかり見て、生きている。
いつの間にか、空が曇っていた。
教室の窓から差す光は弱く、灰色に染まっていた。
まるで、誰かが天気まで気を遣ってくれているようだった。
泣きたいなら、泣いてもいいよ。と。
でも、泣けなかった。
僕は泣く資格なんてないと思っていたから。
数日後、彼女を見送る日がやってきた。
席に座っていると、周りの人は"可哀想"と口々に言っていた。
遺された家族のことも、彼女の人生の短さも。
しかし、僕の中には言葉にできない思いが渦巻いていた。
彼女の遺影は太陽のような笑顔。
その写真を撮ったのは僕だった。
僕は彼女と過ごした、日々の思い出を呼び起こすことで、どうにか心を保っていた。
葬儀が進むにつれ、だんだんと自分を責める気持ちが大きくなる。
「僕が、もっと周りを見ていれば…守れたのに…」
そう呟くと、手が震えた。
周囲の人々の声が次第に遠ざかっていき、代わりに心の中の叫びが強く聞こえる。
棺の中に花を添えたとき、心の奥で何かが崩れた。
彼女がこの世界からいなくなるという現実に、足がすくんだ。
あの笑顔はもう、二度と見ることができない。
その事実が僕を押し潰していく。
火葬場へ着いた頃には、冷たい空気が体に染み込んでいた。
彼女の棺が運ばれるのを、みんなが見守っていた。その光景を見て思った。
「紡は、こんなにたくさんの人に愛されていたんだな…」
それが余計に彼女の不在を際立たせた。
心の喪失感がたまらなかった。
彼女はどこへ行ってしまったのだろう。心の中で、彼女の笑顔や声が生々しく蘇るが、同時にそのすべてが永遠に失われたことが恐ろしかった。
静かな炎が燃え上がっていく。
その光景を見ながら、僕はその場にいることが辛くなってしまった。
「透…どこいくの?」
祖母の声も届かなかった。
胸を締め付ける無力感と、彼女への愛。
どれだけ望んでも、もう戻ってこないという現実や、彼女を救うことができなかったという現実が、僕の心を壊していく。
火葬場の外で、僕はただ一人、彼女を失った事実と向き合うことしかできなかった。
それからのことは覚えていない。
気づいたときには、家に戻っていた。
全身が重く、心は空っぽで、僕はただ暗闇の中目を閉じた。
