これって部内恋愛ですか

 それからのオレたちは、オレが空腹を告げる腹の音を盛大に鳴らしたせいで、せっかくの甘い雰囲気が一気に吹き飛んでしまった。

もうオレの腹はなんて空気を読まない奴なんだと自分で自分に腹が立った。

だけど暗かった部屋に灯りをつけると、締まりのない顔をしたオレと同じように雄太郎も顔の表情がゆるゆるになっていたから、照れくささと可笑しさで胸が一杯になった。

 お互い顔の火照りが収まってから、オレたちはいつも通り晩飯を一緒食ってから、一緒に風呂に入った。

昨日と何ひとつ変わらない行動なのに、いつもより飯は美味いし、風呂では雄太郎の裸を直視できなかった。

それでも寝る時には雄太郎のベッドに潜り込んで、小学生の頃の話や雄太郎がこれまで女の子の告白を断り続けていた理由とか、これまで話したことのない話を睡魔に負けて眠ってしまうまでずっと話した。

雄太郎はオレと同じシャンプーや柔軟剤を使ってるはずなのに、雄太郎のベッドは雄太郎自身の匂いがするような気がしてドキドキした。

本当は前から調べていた大人のキスを良い感じの雰囲気になったらしようって思ってたのに、昼間の決勝戦の疲れに身体が対抗できずに気がつけば寝てしまっていた。


 翌日、オレは雄太郎に林と黒谷にはちゃんと自分たちのことを報告したいと相談した。

雄太郎は眉間に皺を寄せて「うーん」としばらく悩んでいたけど、最終的に「この2人にだけな」と言って許可してくれた。

 放課後の練習が終わってから、オレと雄太郎は林と黒谷をグラウンドで呼び止めた。

「で、なに?話って」

林がそわそわするオレを見て言った。

「えっとだな、えーっと」

「俺が言おうか?」

雄太郎が言う。

「……嫌な予感がするので帰ります」

黒谷はさっと荷物をまとめ始めた。

「待って、待って、今から言う。えっと、オレたち……あ、オレと雄太郎なんだけど。つ、付き合うことにした!」

上手な伝え方が思いつかなくて、意味不明な言い方になってしまった。

「はぁ……。だと思いましたよ。あーあ、最悪すぎる。ほんっと小野寺先輩のどこがいいんだか」

黒谷が手に持っていたグローブやスパイクを地面に下ろして、項垂れながらため息と悪態をついた。

「ごめん、黒谷」

「謝らないでくださいよっ。惨めになるじゃないですか。……でも、河西先輩は最初から小野寺先輩のことしか見てなかったですもんね……」

黒谷は喋りながら両目いっぱいに涙を浮かべた。

「河西先輩。僕にチャンスをくれてありがとうございました」

「ううん、こちらこそありがとな。黒谷」

弱々しく笑顔を浮かべる黒谷に向かって、雄太郎は礼を言った。

「でも、ちゃんと言われるとやっぱり胸が……痛くなりますね。…………小野寺先輩。雄太郎先輩に迷惑ばっかかけてたら、僕が邪魔しますからね。絶対に」

涙を拭っていた黒谷が、大きく息を吸い込んでから言った。

「お、おうっ。まかせろ。多分、迷惑はかけるから全力で謝ることにする」

「ははっ。なんの宣言だよ、それ」

オレの黒谷への返事に林が笑った。

「まあ、でもお前らが上手くいって良かったよ。恋愛お子ちゃまの太陽くんは、胸のドキドキの正体がちゃーんと分かって良かったなあ?」

林がニッと意地悪な笑みを浮かべた。

「なっ、それは」

急に顔が熱くなる。

「なにそれ?」

雄太郎が林の言葉に食いつく。

「明らかに雄太郎のこと好きになってんのに、太陽が『胸が変になった』とか言って真剣に相談してくるからさ。こいら早くくっつけよって思ってたよ、俺は」

林の突然の暴露に言い返す言葉が出てこない。

オレは言葉に出来ない感情をパクパクと口だけを動かして吐き出した。

「ま、その調子で全国大会もお前らのパワーに期待してるわ」

林はそう言って、濃い夕日に照らされながら笑った。

林の隣に立つ黒谷も目を潤ませたまま「あはは」と笑った。

「うん。俺たちもっと頑張る。まだまだこのメンバーで野球したいし。な?太陽」

横顔に夕日に浴びながら雄太郎が笑ってオレの肩に手を回した。

「おうっ、オレたち幼馴染パワー全国中継でみんなに見せつけてやるから!」

オレは雄太郎と肩を組みながら、林と黒谷にVサインを見せた。

 練習終わりの黒土のグラウンドの上には、オレたち4人の影が伸びている。

「じゃ、寮に戻りますか」

林が言った。

オレたちはグローブやスパイク、バットを持ち、喋りながら部室に向かう。

「あーオレ、めっちゃ腹減った」

「僕もです」

「今日の晩飯焼きそばだって」

「焼きそば、美味しそうです」

「太陽と俺は風呂入ってから食うわ」

「じゃ、僕もご一緒します」

「お前はふたりに割り込まなくていいって」

「だってー、じゃあ林先輩一緒に入ります?」

「はあ。今日だけな」

「あはは」

きっと明日の練習も汗だくになって、土まみれになる。

だけど、こうして雄太郎と一緒ならきっと何をしても楽しい。

幼馴染で、バッテリーで、恋人。

オレたちは、夏の甲子園で大活躍する予定だ。

そして、オレは小学生の頃にテレビで見てから憧れている『勝利のハグ』を雄太郎とする計画を密かに立てている。

(終わり)