次の日になり、放課後の練習が始まると惚けていた頭も野球一色になる。
野球をしていないと雄太郎のことで頭がいっぱいになるけど、練習が始まると頭の中は自然と野球のことでいっぱいになる。
そのおかげか、ここ数日悶々としていた雄太郎への気持ちに対しても、自分の心を試すために行動するしか無いんだって思えてきた。
いつも真剣な練習だけど、休み明けである火曜日はちょっとだけ特別だ。
なぜかというと、全体練習の最後にするベースランニングの競争が最高に楽しいからだ。
何本も何本も28m近くある塁間をダッシュして、へとへとになった後、2チーム分かれてホームラン分の距離を走るリレーをする。
もちろん負けたチームには軽い罰ゲームが待っている。
バーピージャンプや腿上げ、手繋ぎスクワットに手押し車。
監督は毎回「罰ゲームしてる暇があったら早く帰って休め」って呆れ顔で言うけれど、この罰ゲームが毎回なんだかんだ盛り上がるからやめられない。
たまに勝ったチームが乱入してきて、みんなで罰ゲームをすることもあるくらい何故か盛り上がる。
「じゃあ、今日の負けたチームの罰ゲームはー」
ベースランニングの競争終え、額から汗を流している林がお題を発表しようと大きな声を出した。
「手繋ぎスクワットで20回!」
「うわあ!!ラッキー、今日の罰ゲーム神すぎる」
「じゃ、全員でやる?」
「やだよ、負けチームだけでしろよ」
『手繋ぎスクワット』というお題に対して、今日も泥まみれになったチームメイトたちがわいわいと茶々を入れる。
手繋ぎスクワットは、みんなで手を繋いで円になり、リズムに合わせてスクワットをするトレーニングで、罰ゲームとしてはかなり楽な部類だ。
「太陽〜、手繋ぎスクワットだって。俺、腿上げとかが良かったなぁ」
オレと同じ敗者チームにいる雄太郎が「うぇ〜」と嫌そうな顔をしてオレに言ってきた。
「なんで、良いじゃん。楽しくない?これ」
「やだよ。誰かと手繋ぐのとか気使うもん」
雄太郎と手を繋ぐのが嫌な奴なんていないだろって思うけど、雄太郎はいつも手繋ぎスクワットになると気にする。
「じゃあ片方の手、オレと繋ごうぜ」
ニッと笑いながら、雄太郎に手を伸ばした。
(あ、これ……)
雄太郎の手を掴もうとした瞬間、ビビビッてきた。
これは、自然に雄太郎と手を繋ぐ大チャンスだ。
しかも恋人繋ぎをできるチャンスかもしれない。
わざとかどうかはわからないけど、このお題にしてくれた林には感謝しかない。
「雄太郎っ、ほら早くっ」
「え、あぁ、うん」
雄太郎がオレに急かされて手を繋ごうと、オレの手に触れた。
「普通に、普通に」と心で唱えながら、そっと触れてきた雄太郎の骨ばった長い指に自分の指をするりと絡めた。
手の繋ぎ方に違和感を感じたのか、雄太郎の手がビクッと跳ねた。
「た、たいようっ」
驚いた雄太郎の声が裏返る。
その拍子にぎこちなく繋いだ手が解けそうになって、オレは急いで手にぎゅっと力を入れた。
「ちょっ、え?なんで、この繋ぎ方」
「えっと、まっ、まちがえた!」
「まち……がえるか……?」
間違えてなんかない。
なんか手を繋げるかもしれないイベントについテンションが上がりすぎた。
雄太郎がキョトンと驚いている隣で、オレは真っ直ぐ前を向いて恋人繋ぎを解かれてしまわないよう手に力を込める。
さっきまで何ともなかったはずなのに、どっ、どっ、と胸の音が聞こえて、手汗がどんどん出てくる。
今、自分の身体の中を急速に駆け巡っている音が恋愛的なものか、ただの恥ずかしさなのかわからない。
(……やばい。これ)
そわそわと落ち着かない気持ちが顔まで昇ってくる。
どうにか顔に出さないよう必死に唇を噛んでいるのににやけてくる。
「負けチーム、手繋いだかー?」
林の声が聞こえる。
いつもなら、林の声どころかチームメイトのふざける声が楽しく聞こえるのに、今日は全然頭に入ってこない。
「お、おう!つないだっ」
顔の筋肉が言うことを聞かない。
せめて平静を装おうと、大きな声で返事をした。
「おー、太陽。張り切ってるな……ぁ」
オレの方へ向いた林が一瞬白目を剥いてから「まあ、準備できたらしいから始めんぞー」と呆れた声で言った。
「えっ、ちょっと。太陽?」
雄太郎が手をにぎにぎと動かして、オレの手を握ろうか、振り解こうか悩んでいる。
あぁ、心がむずむずする。
これ、2人きりだったら悩まずに握り返してくれたのかな。
さっきまで野球のことしか考えていなかったのに、いつの間にか雄太郎のことばっかり考えている。
「いきまーす!せーのっ」
雄太郎はスクワット開始の声を聞いて諦めたのか、オレの力の半分くらいの力でぎゅっと握り返してくれた。
「へへっ」
雄太郎が握り返してくれたことが嬉しくて、つい笑ってしまう。
「ばか太陽」
「ふっ、ふふっ」
しかも雄太郎が思ったよりもしっかりと、優しく手を握ってくれている。
さっきまで振り解かれないようにって力を込めていたけど、気がつけば手を握る力はお互い同じくらいになっている。
こうしてオレたちだけがこっそり恋人繋ぎをしている思うと、胸の音は子どもの頃に、雄太郎と小さないたずらをしていた時のようなくすぐったい音に変わっていた。
1……2……3とスクワットの数が増えるたびに、雄太郎と繋いだ手がぬるぬると汗ばんでくる。
ただでさえオレは体温が高いのに、恋人繋ぎなんかしたもんだから雄太郎の体温と混ざって余計に高くなったんだと思う。
「11……12……」
数を重ねるごとに足の疲労は増えて、息も上がる。
大きく立ち上がったり、しゃがんだりしていると、その衝撃と手汗で雄太郎との恋人繋ぎが解けそうになる。
その度に、雄太郎は何度も何度も離れそうな手を握り直してくれる。
一生懸命、不格好な恋人繋ぎに握り直される度に、胸の奥がきゅうっと音を立てて疼く。
軽い握手のようにチームメイトと繋いだ手と、手汗まみれになりながら雄太郎と繋いだ手。
身体が雄太郎にだけちゃんと緊張をしてるんだってわかる。
「18……19……にじゅう!!よっしゃあー」
負けたチームのみんなが大きな声でスクワット終了の声を挙げた。
「足いたぁー」
「楽勝、楽勝〜」
「来週の罰ゲームは馬跳びでグラウンド1周とかにしようぜ」
「あはは。お前だけ1周してろよ」
みんな楽しそうに笑って冗談を言い合いながら、円を作っていた手を離してグラウンド整備へ向かう。
オレと雄太郎もみんなと同じだった。
せっかく指を絡ませて繋いだ手は、雄太郎の方からあっさりと離されてしまった。
「あ、ゆうたろ……」
ぺシッ。
雄太郎は口元を軽く押さえながら、オレの頭を軽く叩いた。
「いたっ」
「……ばか太陽」
そう言った雄太郎は、クルッとオレに背中を向けて走って行ってしまった。
薄暗くなってきたグラウンドの上で一瞬だけ見えた雄太郎は、呆れているような、少し照れているような表情をしていた。
野球をしていないと雄太郎のことで頭がいっぱいになるけど、練習が始まると頭の中は自然と野球のことでいっぱいになる。
そのおかげか、ここ数日悶々としていた雄太郎への気持ちに対しても、自分の心を試すために行動するしか無いんだって思えてきた。
いつも真剣な練習だけど、休み明けである火曜日はちょっとだけ特別だ。
なぜかというと、全体練習の最後にするベースランニングの競争が最高に楽しいからだ。
何本も何本も28m近くある塁間をダッシュして、へとへとになった後、2チーム分かれてホームラン分の距離を走るリレーをする。
もちろん負けたチームには軽い罰ゲームが待っている。
バーピージャンプや腿上げ、手繋ぎスクワットに手押し車。
監督は毎回「罰ゲームしてる暇があったら早く帰って休め」って呆れ顔で言うけれど、この罰ゲームが毎回なんだかんだ盛り上がるからやめられない。
たまに勝ったチームが乱入してきて、みんなで罰ゲームをすることもあるくらい何故か盛り上がる。
「じゃあ、今日の負けたチームの罰ゲームはー」
ベースランニングの競争終え、額から汗を流している林がお題を発表しようと大きな声を出した。
「手繋ぎスクワットで20回!」
「うわあ!!ラッキー、今日の罰ゲーム神すぎる」
「じゃ、全員でやる?」
「やだよ、負けチームだけでしろよ」
『手繋ぎスクワット』というお題に対して、今日も泥まみれになったチームメイトたちがわいわいと茶々を入れる。
手繋ぎスクワットは、みんなで手を繋いで円になり、リズムに合わせてスクワットをするトレーニングで、罰ゲームとしてはかなり楽な部類だ。
「太陽〜、手繋ぎスクワットだって。俺、腿上げとかが良かったなぁ」
オレと同じ敗者チームにいる雄太郎が「うぇ〜」と嫌そうな顔をしてオレに言ってきた。
「なんで、良いじゃん。楽しくない?これ」
「やだよ。誰かと手繋ぐのとか気使うもん」
雄太郎と手を繋ぐのが嫌な奴なんていないだろって思うけど、雄太郎はいつも手繋ぎスクワットになると気にする。
「じゃあ片方の手、オレと繋ごうぜ」
ニッと笑いながら、雄太郎に手を伸ばした。
(あ、これ……)
雄太郎の手を掴もうとした瞬間、ビビビッてきた。
これは、自然に雄太郎と手を繋ぐ大チャンスだ。
しかも恋人繋ぎをできるチャンスかもしれない。
わざとかどうかはわからないけど、このお題にしてくれた林には感謝しかない。
「雄太郎っ、ほら早くっ」
「え、あぁ、うん」
雄太郎がオレに急かされて手を繋ごうと、オレの手に触れた。
「普通に、普通に」と心で唱えながら、そっと触れてきた雄太郎の骨ばった長い指に自分の指をするりと絡めた。
手の繋ぎ方に違和感を感じたのか、雄太郎の手がビクッと跳ねた。
「た、たいようっ」
驚いた雄太郎の声が裏返る。
その拍子にぎこちなく繋いだ手が解けそうになって、オレは急いで手にぎゅっと力を入れた。
「ちょっ、え?なんで、この繋ぎ方」
「えっと、まっ、まちがえた!」
「まち……がえるか……?」
間違えてなんかない。
なんか手を繋げるかもしれないイベントについテンションが上がりすぎた。
雄太郎がキョトンと驚いている隣で、オレは真っ直ぐ前を向いて恋人繋ぎを解かれてしまわないよう手に力を込める。
さっきまで何ともなかったはずなのに、どっ、どっ、と胸の音が聞こえて、手汗がどんどん出てくる。
今、自分の身体の中を急速に駆け巡っている音が恋愛的なものか、ただの恥ずかしさなのかわからない。
(……やばい。これ)
そわそわと落ち着かない気持ちが顔まで昇ってくる。
どうにか顔に出さないよう必死に唇を噛んでいるのににやけてくる。
「負けチーム、手繋いだかー?」
林の声が聞こえる。
いつもなら、林の声どころかチームメイトのふざける声が楽しく聞こえるのに、今日は全然頭に入ってこない。
「お、おう!つないだっ」
顔の筋肉が言うことを聞かない。
せめて平静を装おうと、大きな声で返事をした。
「おー、太陽。張り切ってるな……ぁ」
オレの方へ向いた林が一瞬白目を剥いてから「まあ、準備できたらしいから始めんぞー」と呆れた声で言った。
「えっ、ちょっと。太陽?」
雄太郎が手をにぎにぎと動かして、オレの手を握ろうか、振り解こうか悩んでいる。
あぁ、心がむずむずする。
これ、2人きりだったら悩まずに握り返してくれたのかな。
さっきまで野球のことしか考えていなかったのに、いつの間にか雄太郎のことばっかり考えている。
「いきまーす!せーのっ」
雄太郎はスクワット開始の声を聞いて諦めたのか、オレの力の半分くらいの力でぎゅっと握り返してくれた。
「へへっ」
雄太郎が握り返してくれたことが嬉しくて、つい笑ってしまう。
「ばか太陽」
「ふっ、ふふっ」
しかも雄太郎が思ったよりもしっかりと、優しく手を握ってくれている。
さっきまで振り解かれないようにって力を込めていたけど、気がつけば手を握る力はお互い同じくらいになっている。
こうしてオレたちだけがこっそり恋人繋ぎをしている思うと、胸の音は子どもの頃に、雄太郎と小さないたずらをしていた時のようなくすぐったい音に変わっていた。
1……2……3とスクワットの数が増えるたびに、雄太郎と繋いだ手がぬるぬると汗ばんでくる。
ただでさえオレは体温が高いのに、恋人繋ぎなんかしたもんだから雄太郎の体温と混ざって余計に高くなったんだと思う。
「11……12……」
数を重ねるごとに足の疲労は増えて、息も上がる。
大きく立ち上がったり、しゃがんだりしていると、その衝撃と手汗で雄太郎との恋人繋ぎが解けそうになる。
その度に、雄太郎は何度も何度も離れそうな手を握り直してくれる。
一生懸命、不格好な恋人繋ぎに握り直される度に、胸の奥がきゅうっと音を立てて疼く。
軽い握手のようにチームメイトと繋いだ手と、手汗まみれになりながら雄太郎と繋いだ手。
身体が雄太郎にだけちゃんと緊張をしてるんだってわかる。
「18……19……にじゅう!!よっしゃあー」
負けたチームのみんなが大きな声でスクワット終了の声を挙げた。
「足いたぁー」
「楽勝、楽勝〜」
「来週の罰ゲームは馬跳びでグラウンド1周とかにしようぜ」
「あはは。お前だけ1周してろよ」
みんな楽しそうに笑って冗談を言い合いながら、円を作っていた手を離してグラウンド整備へ向かう。
オレと雄太郎もみんなと同じだった。
せっかく指を絡ませて繋いだ手は、雄太郎の方からあっさりと離されてしまった。
「あ、ゆうたろ……」
ぺシッ。
雄太郎は口元を軽く押さえながら、オレの頭を軽く叩いた。
「いたっ」
「……ばか太陽」
そう言った雄太郎は、クルッとオレに背中を向けて走って行ってしまった。
薄暗くなってきたグラウンドの上で一瞬だけ見えた雄太郎は、呆れているような、少し照れているような表情をしていた。



