早めに学校へ行き、教室へ入ると、クラスメイトであり、野球部のキャプテンである林が窓際の席に座っていた。
まだ誰も登校していない静かな教室で、林は眠たそうに英語の教科書を開きながら予習をしていた。
「林!なぁ、林」
ドタドタと林の机の前まで行き、声をかける。
「なに」
オレがうるさかったのか、林は一瞬眉間に皺を寄せて、英単語を書く手を止めた。
「なぁ、林ってさ、雄太郎にドキドキすることある?」
「は?何、その意味不明な質問」
「え?だから、林も雄太郎にドキドキする時ある?って聞いてる」
「質問自体はわかってるよ。なんで俺は朝からそんなくだらない質問されてんの?」
林はシャーペンをノートの上に置いて、げんなりとした。
「くだらなくないんだって」
「……はいはい」
めんどくさそうに林が返事をする。
「どうしたの?って聞いてよ」
「めんどくさい彼女か、お前は」
「いいからっ」
「あー、じゃあどうしたの」
「えっとな、えっと。黒谷と喧嘩になったじゃん?で、その後にユウちゃんと話してたわけ」
「うん、知ってるよ、それは。その場に居たじゃん、俺も」
「あ、そっか。で、いろいろ喋ってたんだけど、オレがさユウちゃんに好きだよって言ったらさ、ユウちゃんの顔が見たことないくらい赤くなって、めっちゃ恥ずかしそうにしてたんだよ」
「のろけ?俺、聞くのやめていい?」
「待って!で、それから雄太郎が近くにいると、心臓がドキドキするんだって。肩組んでも『やべー』ってなる」
胸に当てた手を動かして、どれくらいドキドキしているのかを表現する。
「はぁ。じゃあ、一生ドキドキしてたらいいじゃん」
オレの心臓事情なんて、どうでも良さそうに林は伸びをした。
「黒谷もだけどさ、お前も雄太郎のこと好きだよなぁ。はぁ、どんな部内恋愛だよ。恋愛リアリティー番組かよ」
ぶつぶつと言いながら、林は机に置いてシャーペンを再び手に取った。
「好きか……は、分かんないじゃん。何でドキドキするか林に聞こうかと思ったのに」
「いや、好きでしょ。それ」
「だって、こんな急に好きになるとかある?」
好きになっちゃったのかもしれないとは思ったけど、絶対にそうだと言い切れる自信はない。
小学生からずっと一緒にいて、こんなに突然好きになるなんて、オレの心はどっかおかしいのかもしれない。
「じゃあ、聞くけどさ。太陽はさ、手繋いだり、抱き合ったり、雄太郎とどこまでできんの?」
「どこまでって?」
「だから、雄太郎とキスできんのかって」
林がオレの目をじっと見ながら言った。
「キ、キス……」
雄太郎とは肩を組んだり、もたれかかったりするのは日常だったし、手を繋ぐのも練習中には何度もあった。
だけど、キスなんて、今まで1度も考えたことなかった。
「雄太郎とキスなんか、したことない……から、できるかどうかは、してみないと分かんない」
あまりにも考えたことがない質問だったから、ポカンとしながら答えてしまった。
「はぁ……」
林がため息をつくと同時に、教室の窓から風がふわりと入ってきてカーテンが揺れた。
「あのな、太陽。まず実際にしたことがあるとか無いとか以前に、普通想像しただけで『あ、無理だな』とか感じるもんなんだよ。なんなら今俺とキスできんのか?」
「できない」
「即答すんな、傷つくだろ」
「すまん」
「だからな、試してみないと分かんないなーじゃないんだよ。わかる?俺の言ってる意味」
「……オレがばかってこと?」
「ちがう。お前は雄太郎のこと、ちゃんと恋愛対象として見れてるってことだよ。雄太郎と恋愛できるし、お前はその恋愛の入り口に立って、扉の開け方を俺に聞いてる」
ちょっとめんどくさそうに話す林の言葉が、教室の中を通り過ぎる風のようにスゥッと心の中に吹いてくる。
そう考えると、雄太郎にドキドキするのも、黒谷に取られたくないって思うのも、やっぱり間違いなんかじゃないのかもしれない。
「まぁ、試しにもっと雄太郎にくっついてみたら?そしたら俺の言ってる意味も、ドキドキの正体も納得すんだろ」
「雄太郎にもっとくっついてみる……」
そうだ。
林の言う通り、自分の気持ちが恋愛なのか、何なのか分からなければ直接確かめてみればいい。
簡単なことだ。
いろいろ試しているうちに、きっと分かる。
「あ、そういや……」
再び、ノートに英単語を書き始めていた林が手を止めた。
「なにぃ?」
「いや……何でもない。まぁ、雄太郎もさ、お前のことはそれなりに好きだと思うぞ」
「えっ、そかな〜」
「照れんな。その顔腹立つ」
林が言った『それなりに好き』の意味は分からないけど、きっと良い意味だ。
深く深く考えるよりも、動きまくって試行錯誤している方が自分には合ってると思う。
(雄太郎にどうやってくっつこーかな)
ちょっとワクワクしながら、自分の席に座り、冷房でひんやりとした机に頬をくっつけた。
それからの1日は放課後になるまで、ずっと自然に雄太郎とくっつく方法を考えていた。
そのせいで、今日の授業内容は何一つ覚えていない。
覚えていないどころか、1時間目の英語で先生が「小テスト始めるぞ」って言った瞬間、林が朝早くから英単語を書いてた意味が分かって絶望した。
先生の子守唄みたいな声を聞きながら頑張って考えてみたけど、天才的な方法はあんまり浮かばなかった。
そもそも雄太郎とは肩を組むなんか日常だし、もたれかかったりもするし、裸だって見ている。
改めて特別なことをするぞって思うと案外難しい。
だからって、いきなりキスなんかしたら確実に怒られる。
なんなら、しばらく絶好される危険もある。
寮の消灯時間を過ぎてからも考えようとしたけど、男同士で恋ってなると何だか境界線がわからなくなるもんだな、と思って考えるのを辞めて寝ることにした。
まだ誰も登校していない静かな教室で、林は眠たそうに英語の教科書を開きながら予習をしていた。
「林!なぁ、林」
ドタドタと林の机の前まで行き、声をかける。
「なに」
オレがうるさかったのか、林は一瞬眉間に皺を寄せて、英単語を書く手を止めた。
「なぁ、林ってさ、雄太郎にドキドキすることある?」
「は?何、その意味不明な質問」
「え?だから、林も雄太郎にドキドキする時ある?って聞いてる」
「質問自体はわかってるよ。なんで俺は朝からそんなくだらない質問されてんの?」
林はシャーペンをノートの上に置いて、げんなりとした。
「くだらなくないんだって」
「……はいはい」
めんどくさそうに林が返事をする。
「どうしたの?って聞いてよ」
「めんどくさい彼女か、お前は」
「いいからっ」
「あー、じゃあどうしたの」
「えっとな、えっと。黒谷と喧嘩になったじゃん?で、その後にユウちゃんと話してたわけ」
「うん、知ってるよ、それは。その場に居たじゃん、俺も」
「あ、そっか。で、いろいろ喋ってたんだけど、オレがさユウちゃんに好きだよって言ったらさ、ユウちゃんの顔が見たことないくらい赤くなって、めっちゃ恥ずかしそうにしてたんだよ」
「のろけ?俺、聞くのやめていい?」
「待って!で、それから雄太郎が近くにいると、心臓がドキドキするんだって。肩組んでも『やべー』ってなる」
胸に当てた手を動かして、どれくらいドキドキしているのかを表現する。
「はぁ。じゃあ、一生ドキドキしてたらいいじゃん」
オレの心臓事情なんて、どうでも良さそうに林は伸びをした。
「黒谷もだけどさ、お前も雄太郎のこと好きだよなぁ。はぁ、どんな部内恋愛だよ。恋愛リアリティー番組かよ」
ぶつぶつと言いながら、林は机に置いてシャーペンを再び手に取った。
「好きか……は、分かんないじゃん。何でドキドキするか林に聞こうかと思ったのに」
「いや、好きでしょ。それ」
「だって、こんな急に好きになるとかある?」
好きになっちゃったのかもしれないとは思ったけど、絶対にそうだと言い切れる自信はない。
小学生からずっと一緒にいて、こんなに突然好きになるなんて、オレの心はどっかおかしいのかもしれない。
「じゃあ、聞くけどさ。太陽はさ、手繋いだり、抱き合ったり、雄太郎とどこまでできんの?」
「どこまでって?」
「だから、雄太郎とキスできんのかって」
林がオレの目をじっと見ながら言った。
「キ、キス……」
雄太郎とは肩を組んだり、もたれかかったりするのは日常だったし、手を繋ぐのも練習中には何度もあった。
だけど、キスなんて、今まで1度も考えたことなかった。
「雄太郎とキスなんか、したことない……から、できるかどうかは、してみないと分かんない」
あまりにも考えたことがない質問だったから、ポカンとしながら答えてしまった。
「はぁ……」
林がため息をつくと同時に、教室の窓から風がふわりと入ってきてカーテンが揺れた。
「あのな、太陽。まず実際にしたことがあるとか無いとか以前に、普通想像しただけで『あ、無理だな』とか感じるもんなんだよ。なんなら今俺とキスできんのか?」
「できない」
「即答すんな、傷つくだろ」
「すまん」
「だからな、試してみないと分かんないなーじゃないんだよ。わかる?俺の言ってる意味」
「……オレがばかってこと?」
「ちがう。お前は雄太郎のこと、ちゃんと恋愛対象として見れてるってことだよ。雄太郎と恋愛できるし、お前はその恋愛の入り口に立って、扉の開け方を俺に聞いてる」
ちょっとめんどくさそうに話す林の言葉が、教室の中を通り過ぎる風のようにスゥッと心の中に吹いてくる。
そう考えると、雄太郎にドキドキするのも、黒谷に取られたくないって思うのも、やっぱり間違いなんかじゃないのかもしれない。
「まぁ、試しにもっと雄太郎にくっついてみたら?そしたら俺の言ってる意味も、ドキドキの正体も納得すんだろ」
「雄太郎にもっとくっついてみる……」
そうだ。
林の言う通り、自分の気持ちが恋愛なのか、何なのか分からなければ直接確かめてみればいい。
簡単なことだ。
いろいろ試しているうちに、きっと分かる。
「あ、そういや……」
再び、ノートに英単語を書き始めていた林が手を止めた。
「なにぃ?」
「いや……何でもない。まぁ、雄太郎もさ、お前のことはそれなりに好きだと思うぞ」
「えっ、そかな〜」
「照れんな。その顔腹立つ」
林が言った『それなりに好き』の意味は分からないけど、きっと良い意味だ。
深く深く考えるよりも、動きまくって試行錯誤している方が自分には合ってると思う。
(雄太郎にどうやってくっつこーかな)
ちょっとワクワクしながら、自分の席に座り、冷房でひんやりとした机に頬をくっつけた。
それからの1日は放課後になるまで、ずっと自然に雄太郎とくっつく方法を考えていた。
そのせいで、今日の授業内容は何一つ覚えていない。
覚えていないどころか、1時間目の英語で先生が「小テスト始めるぞ」って言った瞬間、林が朝早くから英単語を書いてた意味が分かって絶望した。
先生の子守唄みたいな声を聞きながら頑張って考えてみたけど、天才的な方法はあんまり浮かばなかった。
そもそも雄太郎とは肩を組むなんか日常だし、もたれかかったりもするし、裸だって見ている。
改めて特別なことをするぞって思うと案外難しい。
だからって、いきなりキスなんかしたら確実に怒られる。
なんなら、しばらく絶好される危険もある。
寮の消灯時間を過ぎてからも考えようとしたけど、男同士で恋ってなると何だか境界線がわからなくなるもんだな、と思って考えるのを辞めて寝ることにした。



