乾きの村と水神の花嫁


 「……私なんかが、本当に?」
 「汝だからこそだ」

 水神様は、誰の言葉も寄せつけない強い響きで断言した。
 広場に再び沈黙が訪れる。ただ夜風が揺らす灯籠の炎と、川のせせらぎだけが響いていた。

 感極まりはらはらと涙を落とすだけて応えられない私に、水神様がふと微笑む。
 「着いて来い」そう水神様が呟いた直後、絹のように透き通った水神様の衣が波のように揺れる。

 「澪、覚えておけ! どんな卑怯な手を使ったか知らないが、ただじゃおかない!」

 真由の金切り声と共に視界を遮られた一瞬後、気付けば見知らぬ広い泉が目の前に広がっていた。
 村人や真由の姿も消えた。さっきまでの喧騒が嘘のように静けさに沈んだ場所。

 「こ、ここは?」
 「我の住処だ」

 聞けばこの場は祠の奥から続くこの泉の底には、水神様だけが入れる異界の宮があるらしい。
 宮殿は青白い光に包まれており、柱は水晶や瑠璃のように透き通り、床には小川が流れているのが見えた。

 「後で中も案内しよう」
 「……水神様、申し上げにくいのですが私泳げません」
 「はは、なに問題ない。水中でも呼吸が出来るし、衣も微塵も濡れぬ」

 つい小さくなる私に水神様に何故か苦しそうに笑う。
 なかなか笑い止まない水神様に、だんだん恥ずかしくなると同時にさっきまでの厳格な印象が崩れる。

 静かな泉の前、私たちは2人きりだった。水面は穏やかで、微かに波紋が揺れている。
 音が澄むこの空間で、ようやく笑い終えた水神様は私を見下ろすように視線を向け肩をわずかに落としていた。