乾きの村と水神の花嫁


 「水神様、お加減はいかがですか」
 「悪くない。そなたの水はどこまでも澄んでいて口にするだけで力が漲る」
 「……そんな。身に余るお言葉です」
 「まさかそんなそなたが誤りの花嫁だと愚かなことを申す者がおるとは」

 立ち尽くしたまま固まる真由達を、水神様の銀の瞳が鋭く射抜く。
 平伏す村人達の中に誰一人として彼女を庇おうとする者はいない。真由は青ざめた顔で後ずさり、袖の影からこぼれ落ちた小袋が土の上で転がり鈍い音を立てた。静まり返る祠の前、全てを見透かしたように水神様は眉ひとつ動かさない。

 「我を欺こうとしたか。汝の地位への執着も、他を蔑む心も、水底の泥に等しい。なんと醜い」
 「醜い? この私が……?」

 広場の静寂の中、真由の顔が屈辱で歪む。彼女の手から盃が落ちて土に水が零れた。

 「偽りで人を惑わす者よ。直ちにここから立ち去れ」

 水底より冷たく暗い水神様の眼差しに、真由は黙ったまま唇を震わせ言葉を失う。
 見かねた義母に連れられるように去っていく真由を見送りながら、私はただ傍らで水神様の衣の端を握りしめていた。

 「水神様、お身体に障ります。どうかご無理はなさらず」
 「大丈夫だ。我はもう1人ではない」

 微かに震える私の手を取って、水神様がそっと私を見下ろす。
 銀の瞳からは先程までの冷たさは消え、代わりにやわらかな光を宿した。

 「澪。そなたとそして腹の子がいる限り、私は再び力を失うことはないだろう」

 そう微笑む水神様は私の僅かに膨らみ始めたお腹をそっと撫でる。
 その温かさが胸がじんわり染みて、涙がこぼれ落ちてしまいそうだった。






 ――――




 宮を後にし、1人きりで息巻く真由の胸には煮えたぎるような悔しさが渦巻いていた。
 村人の前での辱め。水神に見抜かれたことも、澪が人々に認められたことも、決して許せなかった。

 「真由、これ以上は……」味方だと思っていた母まで困惑したように私を嗜めた。
 信用を失うことこそ自分達の地位を脅かす、嘘を見抜かれた以上一度引き下がろうと腑抜けたことを言う。だけど決して認めない。必ず花嫁の座を奪ってみせる。

 「……澪ばかりがいい思いをするなんて許さない」

 紅を引いた唇がかすかに歪む。
 どうにか彼女を引き摺り下ろすいい方法はないか。そう思案を巡らせながら家に戻る道中、すれ違う親子の会話がふと耳に入る。