「……澪は私達を恨んでる。このままだとこの家の地位が危うい」
ぽつりと落とされた真由の言葉に、義母が静かに振り返った。
「真由」
「だってそうでしょう。今の立場や裕福な生活があるのも、お母様が見初められて庄屋の後妻に入れたお陰。もしこの家を失ったら私達は路頭に迷ってしまう」
鏡に映る自分の顔を見つめ、真由は唇を引き結ぶ。指先が僅かに震える。
「貧しい生活に戻りたくなければ美しくあり続けなくてはならないと幼い頃から言われ続けてきた。美しさで私があんな子に負けるはずがない。必ず澪から花嫁の座を奪ってみせる」
自身に言い聞かせるような真由の低い声に、義母はまるで貧しかった頃の自分を思い出すような遠い目を伏せる。
「……でもどうやって」
困惑する義母に真由は暫く何かを考え込むように黙り込む。
「例えば私にも水を生み出す力があるのだと示せばあるいは……」
義母は一瞬口をつぐみ、やがてゆっくりと頷いた。
「……確かに。雨が降らぬ今なら、人々もその言葉を疑わないかもしれません」
祝いと疑念が入り混じる村の片隅で、嫉妬と虚偽がひそやかに息を吹きはじめていた。
――――
懐妊を告げられてから、私は宮の奥で静かに日々を過ごしていた。村人達の目に触れることはなく、祠の奥で流れる水音や風が竹林を渡るさざめきに耳を澄ますのが日常になった。
水神様は普段、白鷺に姿を変えておられる。人の姿を保つには大きな力を使うため、弱った今は長く続けられないのだ。それでも白い羽を揺らして歩く姿には威厳があり、凛とした気配をまとっていて私はその姿をただ静かに見守るだけだった。
―――せめて、この方の力になりたい。
その想いだけは確かに胸にあるのに、何も出来ずにただ歯痒い思いをしていた。
そうして穏やかな日々が続いていたある夜、外から不穏なざわめきが近づいてきた。
何事かと宮の中から様子を伺うと、祠の前に村人達が集まっているのが見える。松明の揺れる光で彼らの影が不規則に揺れている。

