寒がりで寝相の悪いルームメイトができました

〇時間経過

 廊下を走る七生、匡、晃大。

晃大「赤城の寮生カードを盗ってくるとか・・・・・・バレたらどうすんだよ!」
七生「いやほんと何してんだろうね、俺・・・・・・」
匡「でもお手柄だよ、七生。これで赤城くんが玄関を通った時間がわかるから、監視カメラの映像を見せてもらえるよ!」

 3人は転がるようにして晃大の部屋に駆け込む。七生は息つく間もなくスマホを取り出し、赤城の寮生カードのQRコードを読み込む。画面に映し出されるパスワード入力画面。

晃大(ギャグ漫画のように大げさに)「……だからパスワードぉっ!」
匡(苦笑いを浮かべて)「興奮して忘れてたね・・・・・・」

 とはいえせっかくのチャンスを無駄にするわけにはいかないので、3人はスマホを囲んで座り込む。

七生「とりあえず適当に入れてみようか?」
晃大「こういうのって何回か間違うとロックされるだろ。慎重に行かねぇと」
匡「啓くんと同じように誕生日の可能性はないかな? 0930」
晃大(怪しげな目つきで)「匡……なんで赤城の誕生日知ってんの」
匡「たまたまだよ、妹が同じ誕生日だから覚えてただけ」

 わいわい話す2人の傍ら、七生はパスワード入力欄に『0930』と入力し、ログインボタンを押す。『パスワードが間違っています』の赤文字が表示され3人は肩を落とす。

晃大「駄目か・・・・・・」
七生「じゃあ生まれ年の西暦とか?」
匡「いっそ初期パスのままだったりして」

 思いついたパスワードを入力するものの、画面に表示されるのはいずれも『パスワードが間違っています』の文字。焦燥感が募り、七生は頭を抱える。

七生「全然わかんねぇ! 赤城くんみたいなタイプってどうやってパスワードを決めるわけ⁉」
匡「ヤンキー風に『4649(よろしく)』・・・・・・」
七生「古い!」

 そのとき晃大がぽつりとつぶやく。

晃大「『0421』・・・・・・」
七生「……『0421』? それ何の数字?」
晃大「試しに入れてみろって。ほら早く」

 七生は腑に落ちない表情を浮かべながらも、パスワード欄に『0421』と入力する。するとログインは成功し、『寮生ポータル』とタイトルのついたページに切り替わる。

七生「嘘、合ってる!」
匡「ええ、すごい! 晃大、『0421』って何の数字⁉」

 七生と匡は興奮に目を輝かせるが、晃大はちょっと気まずげな表情。

晃大「あー・・・・・・推しの誕生日?」
七生「……推し?」
晃大「赤城の部屋にアイドルグループのポスターが貼ってあっただろ。赤城は『Jua』っていう奴を推してるっぽかったから、そいつの誕生日をパスワードにしてるかもって」
七生(そういえば・・・・・・)

 赤城の部屋にたくさんのポスターやアクリルスタンドがあったことを思い出す。中でもJuaというメンバーのグッズが多く、『4/21 Jua Birthday concert in TOKYO』というポスターが目立つ場所に貼られていた。

匡「晃大すごい! よく思いついたね!」
晃大「まぁ・・・・・・(気まずそうに)俺も同じアイデアでパスワード設定してるから・・・・・・」
匡・七生「「え?」」

 匡と七生は晃大の部屋を見回す。たくさんの漫画やアニメのグッズが置かれているが、中でもとある日常アニメのヒロインのグッズが多い。そのヒロインこそが晃大の推しなのである。

七生「土俵は違えどオタク仲間ってことか・・・・・・」
晃大「そういうこと、へへっ」

 晃大が照れくさそうに鼻を掻いたところで、七生は『入館記録』のアイコンに触れる。啓の入館記録を見たときと同じように、1週間分程度の記録がずらりと並んでいる。

七生(今日の入館記録は9時54分と11時45分・・・・・・このどちらかの時間の映像を見れば・・・・・・!)

 祈るような気持ちで再び守衛室へと向かう。


〇数分後・守衛室

 テレビの画面には、寮の玄関をくぐる赤城と女性の姿が映し出されている。映像は荒いがごまかすことのできない証拠だ。晃大が代表で雄叫びをあげる。

晃大「ほら見ろ! やっぱり赤城が犯人じゃねーか!」
守衛「11時45分頃・・・・・・となると俺が寮内の点検に行ってる時間か。こりゃあ計画的な犯行だな」

 七生はみんなと一緒にテレビ画面を見つめていたが、パッと踵を返す。

七生「啓を探してくる!」
晃大「あ、おい! 場所はわかるのかよ!?」
七生「わからないけど……でも俺が探しに行かないと! 後のことはよろしく!」

 守衛室を飛び出した七生は、寮のあちこちを駆け回る。食堂、談話室、ランドリールーム、物置、浴場。どこにも姿が見当たらないので屋外へと。外はもう暗くなり始めていて、雪もちらついている。

七生(俺は啓を信じられなかった。俺が啓を傷つけたんだ。謝らないと……!)

 七生は白い息を吐いて雪道を走っていく。


◯日暮れ後・寮から少し離れたところにある公園

 辺りはすっかり暗くなっている。人気のない公園には雪が降り積もり、街灯もないため寂しい雰囲気に包まれている。
 その寂しい風景の中に啓がいる。雪の積もったベンチの上で膝を抱え、うなだれているため顔は見えない。コートは着ておらず、手袋とマフラーも帽子もつけていない。まるで寒空の下で迷子になった幼い子どものよう。
 そこへざくざくと雪を踏みしめて七生が近づいてくる。雪の中を走り回ったため頬は赤く、息も上がっている。

七生「見つけた」

 答えない啓に、七生はコートを脱いで着せかける。

七生「何でこんな寒いところにいるんだよ! 風邪ひくどころか普通に死ぬぞ!」

 温まったマフラーで啓の首元をぐるぐる巻きにする。マフラーをぐっと左右に引っ張ると、今にも泣き出しそうな啓の顔が見える。罪悪感にたじろぐ七生。

七生「啓、あのさ……」
啓(消え入りそうな声で)「ななみんに疑われた……」

 啓はまた顔を伏せる。

啓「ななみんだけは信じてくれると思ってたのに……他の誰が敵になっても、ななみんだけは俺の味方でいてよ……」

 七生のことを特別扱いするような発言だったので、七生は場違いにもドキッとしてしまう。平静を装って返事をする。

七生「ご、ごめんてば……転入してきてすぐの頃、啓が部屋に女の人を連れ込んだこと思い出しちゃったんだよ……。(啓を見据えて)でも一瞬は疑ったけどすぐに信じたから! 犯人もちゃんと見つけてきたから!」
啓「……犯人って誰?」
七生「赤城くんだよ。防犯カメラに、赤城くんが女の人を連れ込むところが映ってたんだ」
啓「そうなんだ……」
七生「だからほら、こんなとこに座ってないで帰るぞ! これ以上冷える前に早く!」

 七生は啓の腕をぐいっと引っ張る。しかし啓はベンチから動こうとせず、逆に七生の腕を勢いよく引っ張ってくる。

七生「わっ」

 七生はバランスを崩して啓に抱きついてしまう。コートとマフラーを貸しているはずなのに、啓の身体はひんやりと冷たい。

七生(こんなに冷えて・・・・・・)
七生「何するんだよ」
啓(七生をぎゅっと抱きしめながら)「あー・・・・・・あったけ。やっぱ寒いときは湯たんぽよりななみんだね」

 七生が何も言わずに抱きしめられていると、啓は七生の耳元でささやく。

啓「ななみんに見捨てたらと思ったら、まじでつらくて心臓が止まるかと思った」
七生「うん……ごめん」
啓「最後に母親の姿を見た日のこととか、祖父母に『北海道の高校に行け』って言われた日のこととか、色々思い出しちゃって」
七生「うん……」
啓「俺、ここでもまた一人ぼっちなのかって」

 七生、啓の背中を抱きしめ返す。

七生「一人ぼっちになんかしてないだろ。ずっと啓のこと考えてたし、時間はかかったけどちゃんと迎えにきたし」

 啓は目をぱちくりさせてから、「確かにそうかも」と納得した表情になる。それから独り言のようにつぶやく。

啓「俺……自分で思ってたよりもずっと、ななみんに依存してたみたい」
七生「うん?」
啓「ななみんが好きすぎて、傍にいてくれないと生きてけないっぽいんだけど、どうすればいい?」
七生「どうって・・・・・・」

 時間をおいて啓に好きと言われたことに気付き、七生の顔はみるみるうちに赤くなる。混乱して何と返せばいいのかわからず、しどろもどろに返事をする。

七生「じゃあ傍にいればいーじゃん」
啓「ほんとに? 俺、自分で言うのもなんだけど結構ろくでもない奴だよ。親はいないも同然だし、女遊びは一通りやったし、へらへらして適当なことばっか言うし……それでも傍にいていい?」
七生「……いーよ。つーか俺だって啓と一緒にいたいと思ってるし」
啓(はにかんで)「そっか」

 抱擁は解かれ、啓と七生は手を繋いだまま歩き出す。以前よりも距離が近くなった2人分の足跡が雪道に残っている。


〇その日の深夜・七生の部屋

 部屋着姿の啓と七生が、ドアの前に立っている。2人ともぐったりとお疲れ顔。

七生「つ、疲れた・・・・・・」
啓「思ったよりも時間かかったな・・・・・・赤城の奴、あの状況でしらを切ろうとするなんて……」

 イラストと文字で簡単に顛末の説明。赤城・啓・匡・監督生①②を交えて話し合い→「俺は悪くねぇ! あの女が勝手にやったんだ!」と頑なに罪を認めない赤城→埒が明かず残業をしていた教師召喚→寮の掲示板に「赤城良輔、規則違反につき2週間の罰則掃除を命じる」という内容の張り紙が貼られる。
 その後、遅めの食事や入浴を済ませたらすっかり深夜になってしまった。

 会話が途切れるしんと静まり返る室内。2人きりということもあり、公園でのやりとりを思い出され七生は急に恥ずかしくなってくる。

七生(……待て待て、さらっと流しちゃったけどあれは告白だったのか⁉ 『傍にいていい?』ってどういう意図の質問⁉)

 七生が啓の横顔を見上げると、こっちを見ていた啓と目が合う。かぁっと顔に熱が上り、七生は慌ててさっきの会話の続きを口にする。

七生「でも無事に片付いてよかったよ。一時は本当にどうなるかと……あーっ!」

 七生は突然、悲鳴をあげる。驚いた表情の啓。七生は大慌てで、暖房器具のそばに置きっぱなしのショルダーバッグに駆け寄る。(バタバタと忙しかったため、暖房のそばにはコートやマフラーが散乱している)
 
七生「やばっ……チョコ溶ける……!」

 七生はバッグを開けて、綺麗にラッピングされたチョコの箱を取り出す。軽く振ってみるとコロコロと音がするため、ひとまず溶けてはいない模様。

七生(良かった、溶けてない。夜は暖房が弱めだから助かった……!)
啓「ななみん、それ誰から貰ったの? 本命っぽいけど」
七生(安心して無意識に)「貰ったんじゃなくて俺が買ったの。啓にあげようと思っ……て…………」

 七生は失言に気づき、チョコを手にしたまま恐る恐る啓の顔を見上げる。啓は七生のすぐそばに立っていて、嬉しそうに目を細めたかと思うと、七生にガバっと抱きついてくる。

啓「ななみーん♡♡」
七生「ぎゃーっ!!」

 啓に押し倒される七生。

啓「ななみん、俺のためにチョコ買ってくれたの? 今日、朝からいなかったのってそういうこと? 何だよもう、相変わらず可愛いなぁ」
七生「ちょ、近っ……公園でのしおらしさはどこに消えた!」

 啓が頬ずりまでしてくるので、七生は顔を背けてささやかに抵抗する。啓はにこににまにましながら七生に問いかけてくる。

啓「本当に俺が貰っていーの?」
七生「……いーよ」
啓「念のため聞くけど、これって本命チョコだよね?」
七生「本っ・・・・・・」
 
 七生は真っ赤になって口をぱくぱくさせる。1つだけのチョコ、高級感のあるラッピング、朝から寮を空けていたという事実。「義理だ!」と頑張ったところでごまかせるはずもない。

七生(茹でダコ)「ほ、ほん、本命だよ・・・・・・」

 顔は背けたまま、啓の胸元にチョコを押しつける。啓はふにゃっと顔を緩ませる。

啓「どうしよ、嬉しい。今まで貰ったチョコの中で一番嬉しい」
七生(赤い顔のまま)「そりゃ良かった」
啓「嬉しすぎてチョコ以外のものも食べたい気分になってきちゃったんだけど、いい?」
七生「ん?」

 啓の言葉の意味がわからず、七生はきょとんとする。すかさず啓の右手が部屋着の中に入り込んでくる。脇腹を撫でられて七生はようやく啓の言う「食べたい」の意味を理解する。

七生「ぎゃーっ!!」

 部屋に戻ってきて2度目の叫び。七生は顔だけではなく首まで赤くなりながら、必死に啓の右手を制止する。

七生「展開が早い! 恋愛経験ゼロなゲーオタの歩みに合わせて!」
啓「えー、今どの辺?」
七生「まだダウンロード中!」
啓(笑って)「おっそ」

 啓はすぐに脇腹に触るのを止めて、今度は七生の頬に触れてくる。至近距離で見つめ合うと、心臓がドクドク鳴って今にも破裂してしまいそう。

啓(真面目な顔で)「七生、好きだよ」
七生(しどろもどろだけどはっきりと)「俺も……啓が好きだよ」

 啓は七生の唇に優しくキスをする。七生は目を閉じてそれに応える。キスをした後はそのままの距離で見つめ合い、どちらともなく笑い声を零す。幸せそうな2人の姿で締め。


〜エピローグ〜
◯2ヶ月後・寮の談話室

 4月上旬、長かった冬は終わり雪解けの季節を迎えている。歩道にはアスファルトが見え初め、木の枝からはぽたぽたと雪解け水が落ちる。道路脇には小さなフキノトウの姿もある。
 2年生に進級した春休みのとある日、寮の談話室には監督生①、監督生②、七生、啓の4人が集まっている。ソファに座り、今年度の部屋の割り振りについて相談中。

監督生②「ええと……本当に2人部屋のままでいいの? 前にも言ったと思うけど、2先生になったら優先的に1人部屋に入れるんだよ?」

 困惑した表情の監督生②、啓はにこっと笑って答える。

啓「慣れたら2人部屋も悪くないなって。俺、極度の寂しがり屋だから、誰かがそばにいてくれないと精神が不安定になっちゃって」

 監督生①が七生の方を見る。

監督生①「黒川はこう言ってるけど……望月はそれでいいのか?」
七生「え? ええと、はい。俺も構わないです。啓とはゲーム友達だから、結局どっちかの部屋に入り浸ってると思いますし……」
監督生①「そうか? まぁ正直、助かるけど。今年の1年生は例年よりも寮生の割合が高くて、かなりの人数が相部屋になる予定だから」
監督生②「素性のわからない人同士を相部屋にするって、割振りをする方も神経使うんだよね。割振りをミスると、親から苦情の電話がくることもあってさ」
七生「そ、それは大変ですね……」


◯時間経過・寮の部屋

 監督生①②との話し合いが終わり、部屋に戻ってきた七生と啓。ドアが閉まるや否や、啓は笑顔で七生に抱きついてくる。

啓「やったー♡ これで今年もななみんと相部屋だ!」
七生(不安げに)「あ、怪しまれてないかな……?」
啓「俺とななみんが付き合ってるってこと? あんなんで気付くわけねぇじゃん。いつも一緒にいる匡と晃大でさえ気付かないのに」
七生「ん……確かに」

 すぐに納得する七生。頭の中には、以前と変わらない匡と晃大の姿が思い浮かぶ。晃大「啓、七生! 昼飯食ったら俺の部屋集合な!」、匡「僕、ちょっと遅れるかも〜。お母さんに電話しなきゃならなくて」

 啓は七生の顔を見つめて悪戯げに微笑む。

啓「ということで、これからもよろしくね。ななみん♡」
七生(照れ臭そうに)「……こちらこそよろしく」

 2人のそばにはきちんと整えられたパイプベッド。春用に少し薄くなった羽毛布団と、薄手のタオルケット、それから仲良く並んだ二つの枕。
 春が来ても2人は一緒に眠るのだった。終わり