今日の帰り道も、やっぱり雨だった。最近温暖化が進んでいるとはいえ、九州は東京という大都市とは違って、結構雨が降る。

雨が降っている窓の外の方を見ながら昇降口へ向かうと、同じようにガラス越しに外を見ている雨音の姿がみえた。

「……また相合傘するのか?」

俺が近づくのに気づいた雨音は小さく頷いた。
昨日よりも笑顔が自然で、どこか安心したように見えた。

「毎回毎回ごめんね。あ、あと傘、自分で直してみたんだけどね。やっぱりダメだったんだ〜」

そう言って、持っていた傘を少し傾けて見せる。骨がひとつ折れていて、開くと不格好になる。

「もう新しいの買ったほうがいいだろ」

俺がツッコミを入れる。逆に半分傘がないような状態からここまで戻せる根性がすごいな。

「うん。でも、もう少しだけ……こうしててもいいかな」

「…へ?それはどういう意味で…?」

「フフッ。教えないよ〜」

雨音はそう言って、ためらいなく俺の傘の中に入ってきた。
その仕草があまりにも自然で、俺は何も言えなかった。

なんで?わざと?本当に新しい傘を買いたくないだけか?
……まさか俺のことが好き、とか?いや、それは俺がなんか嫌だな。あの親衛隊がいるし。だけど、実際俺は雨音のこと嫌いなのかと聞かれると、そうではない。好きよりの好きだ。ただ、恋愛感情ではないのかもしれないけど。

色々、俺が考えていることもあって、二人きりの空間でしばらく無言になる。雨の音だけが、二人を包んでいた。
今日は一昨日や昨日の2日間のように、親衛隊とかに邪魔される気配もない。雨粒と足音だけが響いている。

「……静かだな」

思わず呟いた。周りに下校する人も少なく、シンとした道路だったからだ。

「うん。今日はすごく静かだね。昨日とかがうるさかったくらい。」

並んで歩く足音が揃っているのに気づいて、なんとなく胸が熱くなる。
昨日の涙、昨日の言葉。いまに思えばめっちゃ恥ずいことやってね?俺。

角を曲がったとき、雨音がぽつりとつぶやく。

「ねぇ、湊くん。こうやって歩いてるとさ……放課後がちょっと特別に感じるんだ〜」

「え?」

「湊くんも、好き?こうやって一緒に歩くのは?」

「っ……!まあ、普通だな。面倒ごとに巻き込まれるって意味では嫌だけど。」

「うわー!照れてるの?照れてるの?なんか可愛い〜」

からかわれて、思わず顔が熱くなる。
さっきへんな想像してから、最初「湊くん好き」って聞こえて心臓が跳ねてしまったことは秘密にしておこう。

――今日も雨。
でも、不思議と悪くないかもな。