晴れの日がないんじゃないかと言うくらい雨の降っている日の朝。
昨日のこともあったし、またやられてないかソワソワしている。

教室に入った瞬間、やっぱり嫌な予感は的中した。
俺の机の上に――透明のコップ。中には水。いや、雨水だ。その証拠にコップの中の水が濁っている。
おまけに盛大にこぼしたのか、机がびしょびしょだし、俺のロッカーもぐしょぐしょだった。

(……くっそ、わざとやってやがる。流石にやりすぎだな、あいつら。だけど、今日は一味違うから…!楽しみだなあ)

「湊くん、大丈夫!?」

駆け寄ってきた雨音が机を見るなり顔をしかめる。

「うわぁ、流石にやりすぎじゃん……」
「やった奴サイテーじゃん」

後ろから俊介と奈々子もぼやいた。
意外にだが、この2人はクラスの1軍で、結構中心的存在のやつだから、結構影響力がある。協力してもらおうと思ったのもそう言うことだ。

クラスがまた氷事件だとざわざわし始めたところに、タイミング悪く、廊下を通りかかった上級生たちが入ってきた。
その中には、先日氷事件の時に防犯カメラに写ってたり、俺らを妨害してくる“親衛隊幹部”が混じっていた。

「おいおい、また“水難事故”かよ。そこの野郎、お前ってほんっと雨男だなぁ?」

にやけた顔でこちらを見下ろしてくる。てか、なんなんだよ、水難事故って。お前らが引き起こしているのに。

「水難事故が多いのは誰のせいだろうな?」

俺の言葉を聞いて、上級生がキレそうになった瞬間、雨音が一歩前に出る。

「もうやめてよ。私の名前を理由に湊をいじめるの、全部知ってるんだから。」

一瞬、空気が凍った。
教室の中も廊下もざわつく。

「……は? なに言ってんだ雨音ちゃん。俺らはただ――」

「言い訳はいいぜ。聞いててイライラする。昨日、防犯カメラに映ってたでしょ?氷を車で運んでくるところ。」

俊介がスマホを掲げ、保存した画像を見せつける。
幹部の顔色が変わる。

「おい……てめぇ、そんなもん勝手に――」

「勝手にじゃない。先生に頼まれてコピーしたんだ。」

俊介はさらりと嘘をつく。堂々と。
あんなに黒子役がいい、目立ちたくないとか言ってたのに、俺のために頑張ってくれてる。予定とは違うが、さらに状況は悪化していくので結果オーライだ。
ざわめきはさらに広がり、他クラスの連中もやってきて、「マジで?」「やばくね?」と騒ぎ始めた。

「……ここまで証拠が揃ってるのに、まだ続けるつもり?」

雨音の声は冷たかった。いつもの明るさとは全然違う。
幹部は舌打ちして、後ろに控えていた取り巻きに目配せする。
だが取り巻きの一人が小声で漏らした。

「……もう無理だろ、これ……先生にもバレてるんだろ?」

その瞬間、完全に流れが変わった。
幹部は悔しそうに睨んできたが、結局は何も言わずに去っていった。

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放課後。
帰り道はやっぱり雨。
でも今日は、心なしか軽やかに感じる。

「湊、ありがとね。私、もう一人じゃ無理だったから。」

「いや、俺一人だったら終わってたよ。俊介も奈々子も、そして雨音もいたからだ。」

「ふふ。じゃあ、4人で勝ったんだね。」

「……なんかRPGみたいだな。」

二人で笑い合った。
雨はまだ降っていたけど、少なくとも俺の心は晴れていた。