翌朝、教室はともかく、学校中が妙にざわついていた。
どうやら一昨日の“氷事件”が学校中に広まったらしい。クラスメイトの視線は俺と雨音にチラチラと注がれて、まるで「お前らが中心だろ」と言わんばかりだった。昨日と状況が変わらん。

「……めんどくせぇ」

思わず机に突っ伏すと、すぐに横から声が飛んでくる。

「湊くん、本当に大丈夫?」

振り返ると、いつもと変わらない可愛くて安心できる雨音の笑顔。でも、その目だけは冷たく暗黒に光っていた。

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放課後。
昇降口でまた雨音と相合傘になった。だが今日はいつもと違う。
昇降口を出た途端、廊下の隅から数人の男が立ちふさがる。そう、あの“親衛隊”だ。

「おい、そこの野郎。何してるんだ、テメェは?」

「お前さぁ、最近調子乗りすぎじゃね?」

「雨音ちゃんと毎日帰るとか、どんな夢見てんの?」

「やんのかぁ?おい!」

あからさまな敵意に、俺は思わず後ずさった。

(やっぱり来たか……。だけど今度こそ俺が雨音を守らなきゃ…!)

と思ったら、その瞬間に、雨音が一歩前に出た。

「もうやめなよ。」

低い声。クラスの中心にいるいつもの快活な雨音じゃなくて、“委員長”としての顔だった。

「昨日の件、もう先生たちが把握してるんだよ? これ以上やったら、本当にただじゃ済まないから。」

「な、何言ってんだよ、雨音ちゃん。俺らは心配して――」

「心配?笑わせないで。私のこと、本当に心配してる人がこんな嫌がらせするわけないでしょ。本当にやめて。私いやなんだけど、そう言うことする人。告白してきた時もそうだけど、本当にしつこいよ。私あなたたちのこと嫌いだから。」

ピシャリと断ち切るような声。
その場に重たい沈黙が落ちる。

俺は横で固まっていたが、雨音の背中が妙に大きく見えた。

「湊、行こ。」

その一言で俺は傘を差し出し、二人でその場を通り抜けた。また呼び捨てだ。真剣になると呼び捨てになっちゃうのだろうか。
背後から怒鳴り声が飛んできたが、振り返らなかった。

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「……雨音。」

「なぁに?」

「さっきの、めちゃくちゃカッコよかった。」

「ふふ、カッコよかったでしょ?でも、これで終わらせるつもりはないから。」

「え…?何をするつもりなんだ?」

「もううんざりだから、あの親衛隊を撲滅させるの。社会的に抹消させたい気分だし。」

雨音の横顔には、いつものおどけた笑みじゃなく、決意の色が浮かんでいた。
――こうして、俺と雨音(とその親友たち)の“親衛隊撲滅作戦”が始まった。