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燦々と輝く太陽の下、B級ドロップアイテム『炎剣』を正眼に構え、対峙する少年の一挙手一投足を見逃さないように集中力を高める。
向かい合う赤髪短髪の彼、篝火冬士はこの模擬戦を楽しんでいるのか笑みを浮かべている。
オレと同じく歳は12。
剣術も異能力も同時期に訓練を始めたというのに実力差が開いてしまった。
それもそのはず。冬士は史上最年少で『A級ハンター』の称号を手にした正真正銘の天才なのだ。
一方でオレは『B級ハンター』。
年齢を考えればB級ハンターでも十分才能のある方だが、どうしても冬士と比べると霞んでしまう。
ハンターランクが1つ違うだけで雲泥の差があると言われているがそれも今日で終わりだ。
A級昇格試験に合格して冬士と並ぶ。
そして、追い越す。
それで、父さんが所属するS級パーティー『四帝王』のような最強のパーティーを作るんだ。
「青葉、いつでもいいぜ」
白い歯を覗かせ、爽やかな笑みを見せる冬士。
見てろ。その余裕も今に無くなるさ。
初夏の暖かな風が草木を揺らす。
雲が風で流され、木に止まっていた鳥が一斉に飛び立つ。
「いくぞッ!」
大地を蹴り、距離を詰める。
基本に忠実に上段から炎剣を振り下ろす。
「良い剣筋だ。さては俺に隠れて自主練してたな」
冬士が炎剣で受け止めてそのまま弾き返した。
武器は平等を期すために同じものを使用している。
オレの一撃が押し返されたのは単純に冬士の力量が上回っていることを意味する。
「自分だって桔梗さんに稽古をつけてもらってるくせに。時間外の稽古は発達途中のオレ達の体には良くないって父さんも言ってたぞ」
「上を目指すには必要なことだ」
一足跳びで間合いを詰めてきた冬士が斜め上から剣を振り下ろす。
腕が痺れるような体重の込められた重い一撃。
オレは極力勢いを殺さないように右に受け流した。
「なにッ!?」
剣を受け流した要領で素早く回転する。
腕を伸ばして空中で弧を描き、右足を踏み込んでガラ空きになった冬士の胴に斬りかかる。
剣に炎が帯び、本来の炎剣の力を引き出す。
視界には驚愕の色に染まる冬士の顔が映った。
どうやら意表を突く事ができたみたいだ。
「炎の円盾」
鈍い衝撃と共に伝わる確かな手応え。
しかしそれは炎の盾によって阻まれていた。
攻守交代。
間髪入れずに冬士の怒涛の剣戟が襲い掛かる。
こちらが防御に回ってしまっては不意打ちは使えない。
雨のように降り注ぐ連撃を掻い潜り攻撃に転じなくては勝機はない。
「うおーーーーー!!」
「はあーーーーー!!」
喉を震わせ、今日まで積み上げてきたものを出し切る。
剣が衝突するたび左右に炎が飛び散り、額から流れ落ちた汗が地面に落ちるよりも前に熱気で蒸発する。
オレも冬士ももはやこれが模擬戦だということを忘れていた。
「がッ!?」
渾身の突きが弾き上げられ、無防備になった腹部に蹴りを食らう。
地面を転がり、再び立ち上がろうと顔を上げるとそこには九つの火球が浮かんでいた。
「冬士、そこら辺でやめておけ。青葉も午後の昇格試験に備えて少し体を休めておくんだ。模擬戦で力を使い切ったら話にならんぞ」
「父さん……」
がっしりとした大柄な体躯の男、皇明臣が模擬戦にストップをかけた。
オレの父親で伝説のS級パーティー『四帝王』のリーダーをしている。
「ったく、お前ら2人は毎回派手にやりすぎなんだよ。おい青葉、聞いてるのか?」
「分かったからやめてくれって。冬士もいるのに恥ずかしいだろ」
オレの頭をワシワシする大きな手を振り払う。
まったくこの人は力加減ってものを分かってない。
「はっはっはっ、相変わらず仲の良い親子だな。私は娘に嫌われていてな。羨ましい限りだ」
「桔梗さん、また嫌味ですか?」
「いやいや、心からそう思ってるよ」
上品とは程遠い豪快な笑い声を上げながらやって来た彼女は不知火桔梗。
国内で5人しか登録のないS級ハンターの1人。
炎属性の頂点に君臨する『炎帝』の称号を持つ人だ。
冬士の師匠でもある。
「師匠、お疲れ様です」
「冬士、危なく一撃食らいそうになっていたな。炎の円盾で防いでいたが、あれくらいの攻撃であれば剣で捌き切るくらいの気概を見せて欲しかったな」
「見ていたんですか。すみません、精進します」
オレの渾身の一撃をあれくらいの攻撃って。
間接的に心を抉られた気分だ。
「桔梗さん、今日はお仕事休みなんですか?」
「ああそれなんだが、桔梗にはA級昇格試験の助っ人として入ってもらうことにしたんだ」
「桔梗さんがですか?」
「なんだ青葉、私では不満か?」
桔梗さんが拗ねたように唇を尖らせる。
「いや、そういうわけじゃないですけど。S級ハンターが助っ人って前代未聞なんじゃ」
「心配ない。桔梗は緊急事以外手を出さない契約だ。A級昇格試験の昇格条件はB級ダンジョンの攻略。ダンジョン内で万が一のことがあれば桔梗が対処する。試験官として俺も同行するから安心してくれ」
「息子の昇格試験に親が同行って授業参観じゃないんだから。本当リーダーは親バカだな」
「別にいいだろ俺の生き甲斐なんだから」
父さん、パーティー内でもこうやっていじられているのだろうか。
ちょっと心配だな。
「装備を整えたらA級ダンジョンの前に集合だ。いいな?」
緩んだ空気を引き締めるように父さんが確認を取った。
燦々と輝く太陽の下、B級ドロップアイテム『炎剣』を正眼に構え、対峙する少年の一挙手一投足を見逃さないように集中力を高める。
向かい合う赤髪短髪の彼、篝火冬士はこの模擬戦を楽しんでいるのか笑みを浮かべている。
オレと同じく歳は12。
剣術も異能力も同時期に訓練を始めたというのに実力差が開いてしまった。
それもそのはず。冬士は史上最年少で『A級ハンター』の称号を手にした正真正銘の天才なのだ。
一方でオレは『B級ハンター』。
年齢を考えればB級ハンターでも十分才能のある方だが、どうしても冬士と比べると霞んでしまう。
ハンターランクが1つ違うだけで雲泥の差があると言われているがそれも今日で終わりだ。
A級昇格試験に合格して冬士と並ぶ。
そして、追い越す。
それで、父さんが所属するS級パーティー『四帝王』のような最強のパーティーを作るんだ。
「青葉、いつでもいいぜ」
白い歯を覗かせ、爽やかな笑みを見せる冬士。
見てろ。その余裕も今に無くなるさ。
初夏の暖かな風が草木を揺らす。
雲が風で流され、木に止まっていた鳥が一斉に飛び立つ。
「いくぞッ!」
大地を蹴り、距離を詰める。
基本に忠実に上段から炎剣を振り下ろす。
「良い剣筋だ。さては俺に隠れて自主練してたな」
冬士が炎剣で受け止めてそのまま弾き返した。
武器は平等を期すために同じものを使用している。
オレの一撃が押し返されたのは単純に冬士の力量が上回っていることを意味する。
「自分だって桔梗さんに稽古をつけてもらってるくせに。時間外の稽古は発達途中のオレ達の体には良くないって父さんも言ってたぞ」
「上を目指すには必要なことだ」
一足跳びで間合いを詰めてきた冬士が斜め上から剣を振り下ろす。
腕が痺れるような体重の込められた重い一撃。
オレは極力勢いを殺さないように右に受け流した。
「なにッ!?」
剣を受け流した要領で素早く回転する。
腕を伸ばして空中で弧を描き、右足を踏み込んでガラ空きになった冬士の胴に斬りかかる。
剣に炎が帯び、本来の炎剣の力を引き出す。
視界には驚愕の色に染まる冬士の顔が映った。
どうやら意表を突く事ができたみたいだ。
「炎の円盾」
鈍い衝撃と共に伝わる確かな手応え。
しかしそれは炎の盾によって阻まれていた。
攻守交代。
間髪入れずに冬士の怒涛の剣戟が襲い掛かる。
こちらが防御に回ってしまっては不意打ちは使えない。
雨のように降り注ぐ連撃を掻い潜り攻撃に転じなくては勝機はない。
「うおーーーーー!!」
「はあーーーーー!!」
喉を震わせ、今日まで積み上げてきたものを出し切る。
剣が衝突するたび左右に炎が飛び散り、額から流れ落ちた汗が地面に落ちるよりも前に熱気で蒸発する。
オレも冬士ももはやこれが模擬戦だということを忘れていた。
「がッ!?」
渾身の突きが弾き上げられ、無防備になった腹部に蹴りを食らう。
地面を転がり、再び立ち上がろうと顔を上げるとそこには九つの火球が浮かんでいた。
「冬士、そこら辺でやめておけ。青葉も午後の昇格試験に備えて少し体を休めておくんだ。模擬戦で力を使い切ったら話にならんぞ」
「父さん……」
がっしりとした大柄な体躯の男、皇明臣が模擬戦にストップをかけた。
オレの父親で伝説のS級パーティー『四帝王』のリーダーをしている。
「ったく、お前ら2人は毎回派手にやりすぎなんだよ。おい青葉、聞いてるのか?」
「分かったからやめてくれって。冬士もいるのに恥ずかしいだろ」
オレの頭をワシワシする大きな手を振り払う。
まったくこの人は力加減ってものを分かってない。
「はっはっはっ、相変わらず仲の良い親子だな。私は娘に嫌われていてな。羨ましい限りだ」
「桔梗さん、また嫌味ですか?」
「いやいや、心からそう思ってるよ」
上品とは程遠い豪快な笑い声を上げながらやって来た彼女は不知火桔梗。
国内で5人しか登録のないS級ハンターの1人。
炎属性の頂点に君臨する『炎帝』の称号を持つ人だ。
冬士の師匠でもある。
「師匠、お疲れ様です」
「冬士、危なく一撃食らいそうになっていたな。炎の円盾で防いでいたが、あれくらいの攻撃であれば剣で捌き切るくらいの気概を見せて欲しかったな」
「見ていたんですか。すみません、精進します」
オレの渾身の一撃をあれくらいの攻撃って。
間接的に心を抉られた気分だ。
「桔梗さん、今日はお仕事休みなんですか?」
「ああそれなんだが、桔梗にはA級昇格試験の助っ人として入ってもらうことにしたんだ」
「桔梗さんがですか?」
「なんだ青葉、私では不満か?」
桔梗さんが拗ねたように唇を尖らせる。
「いや、そういうわけじゃないですけど。S級ハンターが助っ人って前代未聞なんじゃ」
「心配ない。桔梗は緊急事以外手を出さない契約だ。A級昇格試験の昇格条件はB級ダンジョンの攻略。ダンジョン内で万が一のことがあれば桔梗が対処する。試験官として俺も同行するから安心してくれ」
「息子の昇格試験に親が同行って授業参観じゃないんだから。本当リーダーは親バカだな」
「別にいいだろ俺の生き甲斐なんだから」
父さん、パーティー内でもこうやっていじられているのだろうか。
ちょっと心配だな。
「装備を整えたらA級ダンジョンの前に集合だ。いいな?」
緩んだ空気を引き締めるように父さんが確認を取った。



