※生徒会室での流星と天音の会話を聞いていた3年1組の書記の女の子の視点。明紗は中1 6月上旬頃のお話※

 青柳中学校の現在の生徒会長と副会長コンビの顔面偏差値は恐らく歴代ぶっちぎりに高いだろう。
 生徒会長は4組の榊流星くん。
 バレー部のエースでキャラメル色の髪、色素が全体的に薄く、女の子を陶然とさせる綺麗な笑顔。
 他校にもファンが多く、よく女子に話しかけられてアイドルのように軽やかに対応している。
 副会長は3組の弓木天音くん。
 剣道部に所属している彼は硬派で、常にきりっとした精悍な容顔に近寄り難い空気を(まと)っているけれど、話しかけると分け隔てなく丁寧に答えてくれるから表立たず隠れファンが多い。
 対照的なカリスマ性を持つ二人ともが180センチ前後の長躯で並べば更に相乗効果で魅力が増す。
 今日、放課後に生徒会のメンバーが集められたのは各委員会から要望を募った議題を第二回目の中央委員会で検討するにあたって精査と集約をするため。
 生徒会室に到着すれば、榊くんと弓木くんの二人だけがいて、会計と庶務の男子はまだみたいだ。
 この青中でも群を抜いて目立つ二人が私に挨拶をしてくれて、しかも間近で見られるなんて、生徒会メンバーに選ばれて良かったと思う。
 榊くんは椅子を窓の傍に持っていって、窓枠に片手をかけ晴れやかな外の様子を眺めている。
 弓木くんはこれから会議が行われるテーブルに着席して、今日の資料に目を通していた。

 「天音が明紗に”お兄ちゃん”って言われてるのムカつく」
 「は?」

 弓木くんだけじゃなく、私も声に出さなかったけど、榊くんが言い出したことが理解できなかった。

 「天音だけだろ。明紗に”お兄ちゃん”って呼ばれてるの」
 「当たり前だろ。二人兄妹なんだから」
 「それがムカつく。世界中で天音ひとりだけっていうのが腹立つ」
 「じゃあ流星も明紗に”お兄ちゃん”って呼んでもらえよ」
 「天音の上から目線やめて」
 「別に上からものを言ってないだろ」

 全校生徒の前でのスピーチだって堂々とこなし、バレー部でも活躍している生徒会長の榊くんが何だか子どもっぽく見えた。
 言うなれば弓木くんの弟にでもなったような……。
 二人が話している”明紗”ちゃんは私も知っている。
 今年、青中に入学してきた弓木くんの妹だ。
 初めて弓木明紗という女の子を見た瞬間、磁力のように視線を惹きつけられ、これが魅了されるってことなのかと人生14年目にして初めて思い知った。
 煌めいてる艶やかな胸まで伸びた黒いストレートヘアー。 
 身長は170センチまでには届いていないと思うけど、小顔で全体のバランスが良く、モデルのような体型でありながら、痩せ過ぎてるといったわけでもなく、女性らしさも感じさせるスタイルの良さを誇っていた。
 制服から伸びた手足は細長く、体幹がしっかりしているのか常に姿勢が良くて、色白の美肌は内側から発光しているかのよう。
 美少女だとも、美人だとも、かわいいとも、綺麗だとも、美しいとも表現できる端正な顔の造り。
 かといって押し付けがましい感じではなく、人目をひきながらも、奥ゆかしさも感じさせる。
 時間が許すなら永遠に見つめ続けていたくなるような不思議な魅力を持っていた。
 しかも、同じ美術部の一年生に聞くと、明紗ちゃんは人の悪口や愚痴は絶対に言わないし、基本的には控えめで性格まで良いらしい。
 まだ入学して3ヶ月足らずだけど、やっかむ気すら起こさせない文武両道、才色兼備、欠点を探せない弓木明紗という女の子を知らない者は青中に居ないと思う。
 そして、生徒会長であり、バレー部のエースキャプテンである榊くんが弓木くんの妹である明紗ちゃんに夢中だということも。

 「明紗って、夜はどういう格好で寝てんの?」
 「俺は大切な妹の私生活を売るような真似はしない。知りたかったら、明紗本人に聞けよ」
 「俺が聞いたら明紗に気持ち悪いと思われない?」
 「聞き方次第だろ。流星に下心があれば気持ち悪いと思われる」
 「明紗に下心なしで質問しろって無理でしょ」

 部外者の私はこの会話を聞いていてもいいんだろうか。
 明紗ちゃんにデレデレな様子を榊くんは隠そうともしていない。
 榊くんのファンの子たちが見たり聞いたりしたら、引かれかねない勢いだ。

 「ま、明紗には下心だけじゃないんだけど」

 遠方を眺めたまま、榊くんは軽やかに笑う。
 その横顔が陽光に煌めいて、とてつもなく綺麗に見えた。
 榊くんの色素が薄いからか、どこか儚く、透けてしまいそうなほどに。

 「流星。俺たちの父親って、全員男の4人兄弟なんだけど」
 「いきなりどうした? 天音」
 「それぞれ子どもも、全員男なんだよ。俺の従兄弟(いとこ)にあたる人間が8人居るんだけど、上は22歳から下は3歳まで男ばかり」
 「へえ」
 「明紗一人だけ、女の子なんだよな」
 「は?」
 「だから明紗が生まれた時から祖父母も伯父たちも目の中に入れても痛くないってほどかわいがっていて」
 「……」
 「毎年、正月は祖父母の家に新年会で集まるんだけど、そんな中に明紗が居たらどうなるかわかるよな?」
 「そういう含みを持たせた言い方やめて。どうせ明紗の争奪戦が始まるってお約束だろ。明紗って本当に多方面でどれだけモテるの? 俺も自分が割とモテる人生歩んできたと思ってたけど、明紗はいろいろ規格外すぎる」
 「気苦労が絶えないよな」
 「天音の「俺は特別枠です」って上から目線ほんっとムカつく」

 会計と庶務の二人がやってきたタイミングで、榊くんと弓木くんは会話を止め、程なくして生徒会の会議がスタートした。
 聞いてしまった榊くんと弓木くんの会話は生徒会の役員を担っている特権ってことで、私だけの心にしまっておこう。

 【end】
 20250902