※生徒会室での流星と天音の会話を聞いていた3年1組の書記の女の子の視点。Ⅲの-生徒会室での会話①-の続編 明紗は中1 6月下旬頃のお話※

 今日も私は放課後に生徒会室へ足を向けている。
 第二回目の中央委員会を終えて、各委員会から寄せられた意見の精査をして、生徒からの要望として学校に提出するためだ。
 窓の外は雨模様。
 分厚い灰色の雲が空を覆いつくして、雨粒を地上に絶え間なく落下させていく。
 私が生徒会室に入ると生徒会長の榊くんと副会長の弓木くんだけが部屋には居て挨拶してくれた。
 青中ツートップなのは役職だけじゃなく、認知度・人気度・注目度・モテ度・部活動での活躍度・ルックスの良さ……どれをとってもこの2人が青中でトップを争っていると思う。
 1学期の期末テストが近いからか、中央のテーブルで榊くんは弓木くんに数学のわからないところを教えてもらっていたところだったらしく、並んで座っていた。
 顔面がお強い者同士が頭をくっつけ合わせていると、更に魅力が増し増しで。
 極上のイケメンが2人も揃ってたら、ドキドキするのも仕方ないよね。
 役得感にこっそりと胸をときめかせながら、私も椅子を引き、弓木くんと榊くんの正面に腰かけた。
 二人はちょうどテスト勉強のほうが一段落ついたようだった。

 「――天音って明紗にムラムラしないの?」
 「は?」

 弓木くんだけじゃなく、私も声に出さなかったけど、榊くんが言い出したことが理解できなかった。
 何かこういうシチュエーション前にもあったような気がする。

 「天音は明紗と一緒に暮らしてるよな」
 「兄妹だし、家族だから当たり前だろ」
 「明紗みたいな奇跡の天然美人とひとつ屋根の下に住んでいて、何も感じない男が居るなんてありえない」
 「ありえないって何なんだよ」
 「明紗は少し前まで小学生だったと思えない男受けする身体つきだし。お風呂上がりとか寝起きとか天音は明紗見放題なんだろ」
 「明紗見放題って動画配信サービスじゃないんだから」

 弓木くんの声色は呆れていると言外に語っていた。

 「明紗のルックスが良いのはわかるし、みんなが明紗に騒いでる気持ちも理解できなくはない。でも、妹は妹なんだよな。明紗を妹としてかわいくは思うけど、それだけっていうか……」
 「本当かよ」
 「本当だって。これって兄妹あるあるだと思う。明紗も俺に対してそうなんじゃない? 一人っ子の流星にはわからない感覚かもしれないけど」

 弓木くんと2学年下の妹の明紗ちゃんはみんなに”勝ち組遺伝子””美男美女すぎ兄妹”と青中でも有名だった。
 確かに弓木くんと明紗ちゃんみたいな美形兄妹が同じ家で暮らしている様子って私も覗いてみたい気持ちにはなる。
 榊くんは納得したのかしていないのか、唇を尖らせていた。
 弓木くんの前だと榊くんは普段とは違う幼い子どものような態度を見せる。
 それほど弓木くんを信頼しているのだろう。
 ビジュが良すぎるから、今の榊くんを写真にとればお金をとれそうなくらいだ。

 そういえば、この間の第二回目の中央委員会の時も榊くんは中央の生徒会長の席から少し遠い席に座って聴講している明紗ちゃんにあからさまなくらいアイコンタクトを送り続けていた。
 明紗ちゃんは会議中ってこともあって、ずっと取り合わずに、全て流している様子だったけど、余りにも榊くんがしつこかったのだろう。
 あの綺麗でいて、かわいくもある魅力的な顔立ちで榊くんをジッと睨んだ。
 明紗ちゃんのぷく顔は余りにもレアでかわいすぎて。
 ――うわー、メロすぎる……。
 その場に参加していた誰もが口には出さずとも、常に落ち着いている明紗ちゃんが見せた感情の一片に目と心を奪われていて。
 榊くんも明紗ちゃんが反応してくれたことが嬉しかったようで、機嫌が良さそうに資料へと目を向け直していた。

 「――明紗はあの見た目でつらい思いもたくさんしてきてる」

 弓木くんは立ち上がると、座ったままの榊くんの肩に手を置いた。
 明紗ちゃんは中1だと思えないほど大人びて魅惑的な容姿をしていて四六時中、人目を引いている。
 私も明紗ちゃんが気になって、廊下ですれ違ったり中央委員会で一緒になる時は見惚れてしまいながらも無意識に観察してしまっていた。
 ずっと周りに注目され続けて、話題にされて、意識されて、放っておいてもらえなくて。
 私はそんな状態になったことがないからわからないけど、良いことばかりではなさそうだってことくらいは想像力で補える。

 「明紗は俺や家族には心配や迷惑をかけないように一人で抱え込んで黙っているタイプ。だから、これからは流星が明紗をわかってやってくれよ」

 どこか切実で真剣な弓木くんの声を受けて、榊くんがスッと真顔に切り替わった。
 どんな表情でも榊くんは絵になってしまうけれど、榊くんの端正な面立ちがきりっとすれば無敵状態にかっこよくて、どこか迫力もあって。
 ――私は思わず息を呑んでいた。

 【end】
 20251202