※明紗 中1 6月頃のお話※

 6月の雨は直線的に降り注いでいるように感じられる。
 強風に煽られることもなく、ただ真っ直ぐ、しとしとと素直に落下していく。
 今日は雨だったから、流星と昼休みの半分を過ごしているのはバレー部の部室だった。
 湿度が増した部室内は快適だとは言えないけれど、今すぐ退室したいほど不快でもなく。
 部室に置かれたベンチで隣に座る流星は飽きることがないのかバレーボールに触れ続けている。

 「明紗。もう体育の授業で水泳やった?」
 「ううん。まだ一度も出来てない」

 6月初め頃から水泳の授業が開始される予定だったけれど、雨の影響や気温が暑さ指数にひっかかったり、実際にプールに入れたことは一度もない。
 机の横に水泳用のバッグをかけながら、スタンバイの状態で出番に恵まれていなかった。

 「良かった。間に合った」

 流星は手のひらでボールを器用に扱いながら、安堵したような表情を見せた。

 「明紗、水泳の授業で水着になるのやめて」
 「私だけ体操服で泳げない」
 「男女別で体育の授業を受けていても、同じ時間でしょ。男どもが明紗の水着姿を見ることになる」
 「それはそう」
 「明紗はプール見学にして」
 「私、授業はサボらない」
 「明紗が水着だったら、男を興奮させるだろ」

 隣の流星へと視線を流すと、流星は綺麗な色素の薄い瞳で真剣に私を見下ろしている。
 余りにも理不尽な注文だけど、流星は冗談で言ってるわけではなさそうだった。

 「授業中に私を見ないと思う」
 「スクール水着姿の明紗が同じプールに居て見ないなんて無理でしょ。本当は体育教師にも見てほしくない」
 「流星。真面目に言ってる?」
 「大真面目。ね、明紗は水泳の授業全部見学して」
 「私は真面目に授業は受ける。それに私、泳ぐの好きだからいやだ」
 「泳げるの? 明紗」
 「習ってたから一通り泳げる」
 「ま、明紗だから泳げないほうがおかしいよな」

 流星は太ももの上にのせたバレーボールを片手で触りながら、私の片手にもう片方の手を乗せて上から指を絡めてくる。
 私は少し視線を尖らせて、

 「流星ってそんなに水泳の授業の時に女子の水着ばかり見てるの?」

 と、聞き返した。

 「え、いや、俺は見てない。……ってことはないけど。やっぱり見てはいない」
 「自分が見てるから、私も見られてるって流星は思い込んでるだけ」
 「思い込みじゃないって。明紗のスクール水着姿を無料で見られるやつらって何なの」
 「とにかく、私は授業をずるして休まない」
 「明紗。俺の話を聞けって」
 「私に水泳見学しろって理不尽すぎる」
 「こうなったらプールが実施できない天気であり続けるよう神頼みするしかないか」

 現実的な流星から飛び出した現実離れした願掛け。

 「届くといいね」
 「明紗。ほんっと生意気」

 【end】
 20250828